もしも天女さまがご降臨めされたら 3


ツイッターで遊んでいるネタです。
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この世界にトリップしてきたという超絶美少女、名づけて天女ちゃんは二日目、私の家で夕食をとった。放置するわけにもいかないし、ジョルノたちに任せてしまうのも、彼らにとっては意味が分からなすぎて大困惑な選択だろう。ここは少なからず事情を理解できる私が引き受けるべき案件だ。たぶんね。
というわけで、私は天女ちゃんから詳しい事情を聞けるまでこの子を預かることにした。
高校生かそこらの年齢に見える天女ちゃんは初日にリゾットを見るや否や「あなたは騙されているんです!」をぶちかまし、二日目の昼間には全員の暮らすアパートで似た発言をぶっぱなし総すかんをくらって消沈していた。彼女の憂いの種である私が彼女を引き取り保護者面するのも何であるが、一番穏便な方法だと思う。意味がわからないことを言って私をdisる彼女への好感度はダダ下がりっぽいし、黙って見ているうちに天女ちゃんが彼らの地雷(絶対なんかあると思う)を踏み抜いて殺意爆発黒ひげ危機一髪になってしまうとなけなしの罪悪感がうずいてしまう。こう見えて私は善良な人間だ。
昨日はあっちでソルジェラがこしらえてくれたが、二日目の夕食はリゾットの手作りで、天女ちゃんはここぞとばかりにきらきらした笑顔で彼を褒めたたえた。私も褒めたたえた。
リゾットは淡々と「口に合ってよかった」みたいなニュアンスの言葉を紡いだのだが、きっちり相手の表情を見て内心を探る開心術の使い手であるのか、某暗殺チームの某リーダーは天女ちゃんの瞳をちらりと覗き込み、彼女の反応を観察したようだ。甘い視線の交差だと受け取った天女ちゃんはとても可憐な笑みを浮かべて嬉しそうだった。私のこともかまってほしい。
「わたしも料理は得意なんです!明日の朝はわたしがつくってもいいですか?お世話になるお礼がしたいんですけど……」
ねじ込むような提案に、リゾットはごく自然な声音で答えた。
「礼はいい」
「でも、お手伝いくらいはさせてください!」
「……」
軽くこっち見ないで。飛び火する。

お手伝いの座をあのリゾットから力技でもぎ取ったたくましい天女ちゃんには、家の二階にある客間で寝てもらうことにしている。ざっくりと並び順を説明するなら、私の部屋が角っこにあり、リゾットの部屋がその隣にあり、またその近くに客間がある。リゾットの部屋を挟んでリゾット争奪戦の火ぶたを切って落とせる位置取りだ。
基本的に"夜は仕事なんて絶対しないんだから!"と敵国の将軍に捕らえられても屈服しない精神で頑張ってきたものの、今日は昼間にいろいろとありすぎて仕事どころではなかった。やらないわけにはいかないから、ゲームの時間を削って作業に軽く手をつける。一時間ほどかけてメールの返信やデータ入力を終わらせ、うん、と伸びをした。どことなく人肌恋しく思ってしまうのは、だいたいこの時間になるとリゾットも私もオフトゥンに入って一方的なお喋りを楽しんでいるからだ。しかし昨日からはしばらくの間、それぞれの部屋で夜を過ごすように取り決めた。天女ちゃんをあえて刺激する必要はないし、まあ、据え置きのゲームを楽しむ時間も生まれるし、ちょっとならいいかなと思ったのだ。結局はさびしがっているわけだけれども。決意が弱い二十六歳だ。こんな大人で大丈夫か?大丈夫だ問題ない。まだ大丈夫。うん。
ゲーム機の電源を入れると同時に、こんこん、と部屋の扉が小さく叩かれた。堕落クッションにうずもれながら「はいよー」と応える。入ってきたのは天女ちゃんだった。リゾットにしては控えめで慣れていない感じのノックだなと感じたからか驚きはしない。
天女ちゃんはお客さん用のパジャマを着て、少しだぼっとした袖をキュートな萌え袖へと昇華させている。同性でもくらっときてしまいそうな可愛さだ。
「こんばんは」
「うん、こんばんは。どしたの?眠れない?」
別れたのは一時間以上前だ。天女ちゃんはおやすみ三秒属性ではなかったらしい。
ふるふると首を振った彼女は、唐突にこう言った。
「ポルポさんの利き手ってどっちですか?」
よくわからん質問だ。おててつないでくれるのかな、とテキトーに考え、片手を持ち上げる。左だよ。そうですか、と彼女は言った。そして自分の手で。
乾いた音を立て、思いっきり自分の頬を打った。
「ちょっ、え!?ナニしてんの!?」
白い肌に赤がよく映えてチーク要らず。一瞬意味がわからなくてちょうビビった。続いた行動で理由を察したけど。
可憐な声で可哀想になるくらいつらそうな悲鳴を上げる。それなりに大きいのにファルセットすら効いていそうな綺麗なソプラノは揺らがなかった。
少し開けたままだった扉を撥ね飛ばすように部屋を出て駆け出した天女ちゃんを茫然と見送る。えっなんで私置いてけぼりなの。すごいびっくりして間違えてニューゲームのボタンを押しちゃったけど私がやりたかったのはコンティニューなんだよね。オープニングが長くてメニュー画面を開けるようになるまでかなりの時間がかかるゲームだったため、とりあえず冷静になって電源を落とした。こっちでやり直したほうが早いのだ。
ギャルゲー的には追いかけるべきかと悩むうちに、天女ちゃんはスリッパの音をぱたぱたと立てながら戻ってきた。とぼとぼと部屋に入ってきて、扉をきちんと閉める。時間が経つにつれてもっと赤くなってゆく頬が痛々しい。どんな力で叩いたんだ。
彼女はしょんぼりと膝を折ってラグの上に座り込んだ。ああこれ私がビンタしたと思わせたかったんだな、お約束のやつだな、とようやく理解する。ごめんな、気づかなくて。言い訳じゃあないが最近は乙女ゲーよりRPGのほうにのめり込んじゃっててさ、校舎裏イベントとは縁遠くなってたんだわ。先月だったかに王子さまキャラを攻略しようとして嫉妬した女生徒たちからいじめを受けローファーの中に剃刀を仕込まれたヒロインを見てリゾットならもっと上手くやるな……って暗殺チームによる巧妙な嫌がらせパターンをシミュレートしてるうちにエンディングがどうでもよくなっちゃってさ……そのまま王子を放置してんだ私……。
「で、どうだった?」
「鍵、閉まってました……」
「マジかー」
あの男が鍵かけるってかなり珍しいぞ。やったじゃん逆にレアだよ。逆とかいらないんですって言われたけどある意味ヴェルタースオリジナルなんだから自信持って!
「嫌味ですか!?」
まあまあ、冷やすもの持ってくるからそう怒らないで。
ぷりぷりする可憐な少女は、だいたい!と眉間にしわを寄せた。ヤバい美少女がやるとただ可愛いだけだ。まったく迫力ないぞ。
「どうしてみんなわたしに構わないんですか!?こんなに可愛いのに、べつにどうってことないポルポさんばっかり良い思いをして!明らかにおかしいじゃないですか!いったいみんなに何をしたんですか!スタンドですか!?」
「スタンドはブラック・サバスだった」
「ッ……、どうせあくどい手法で篭絡したんでしょう。わたしが……、わたしが救うはずだったのに……。それでみんなにちやほやされて……」
「ぶっちゃけ本命誰なの?」
「一人に決めちゃったら、ほかの人が可哀想じゃないですか。だからわたしはみんなのことを愛そうって思ってるんです」
「なるほどなー」
ジョジョサーの姫ってやつかな。
感心する私を天女ちゃんが睨んだ。重ねて言うがまったく迫力がない。悪意に向いてないよ君。
「原作が……もう変わっちゃってるのは……仕方ないけれど……、……わたし、絶対、ポルポさんからみんなを救ってみせるんだから!」
お、おう。マジで地雷踏まないように気をつけてね。っていうか地雷踏む前に私が気づいて回避させないとバッドエンドなのか?ガチで気をつけてくれな、天女ちゃん。彼らは良い子たちだしすごく可愛いし放っておいたらプリキュアマックスハートって感じだけどちょっとずれて暗闇方面に突入したらそこは地雷原だからな。