もしも天女さまがご降臨めされたら 2


ツイッターで遊んでいるネタです。



見捨てることなんてできないし、どうせあなたは卑怯な手を使って卑劣な手口で彼らを言いくるめ、自分の騎士扱いをしているんでしょう!……と面白いいちゃもんをつけてきた女の子は、どうやら私の家に押しかけて、まずは『彼ら』のリーダーたるリゾット・ネエロの『呪い』を解きたいようだった。先の展開がめちゃくちゃ気になったので、なんの否やもなく私は彼女を家に連れて帰る。敵愾心がむき出しな睨みを背中に受けながら、テキトーな会話を繰り広げる。けむに巻こうなんて気はさらさらない。むしろこんな楽しい事態は初めてで、未知の体験に心が浮ついてしまうほどだ。
リゾットはどんな反応をするのだろう。
この女の子はいわゆる、『天女』というものだと思う。元の世界を捨てて異世界へ飛び込み、愛する『キャラクター』たちを救おうとするなんて、まさに献身的な女の子の鑑ではないか。そのまっすぐでひたむきな愛情には素直に感服する。
しかし、天女が現れたからには、限りなく異物である成り代わり女の私はどうなってしまうのだろうか。よもや全員からぶっころ宣言を食らってはわわ逃げないと殺される、的な展開になってしまうだとか。それは勘弁してほしい。六年間の絆ってどこ行った?みたいな事態はつらすぎる。まあそんなやわなつながりじゃあないとわかってはいるけど、ってこれなんかフラグっぽいな。やめよう。
あどけなさを残す少女の顔立ちは、義憤と敵意にまみれている。だというのに可愛らしいから美少女はすごい。改めてそう思った。
「みんなの呪いはわたしが解かなくちゃ……」
お察しのとおり、私はおまじないか何かで暗殺チームから護衛チームにわたるすべてのツワモノを虜カッコわらいカッコトジにしていると思われている。しかも、名前を教えるとその謎のおまじないの効果に引きずられてしまうという謎理論により、彼女は私に名前を教えてくれない。
というわけで、私は自宅で私の帰りを待つリゾットに、彼女をこう説明するしかないわけだ。
「この子は天から舞い降りた天女ちゃんね。しばらく同居するからよろしこ」
「はじめまして、リゾットさん!わたしがいるので、もう安心してください。呪いはすぐに解いてあげますから」
「……」
超絶不可解という顔が私に向けられた。言葉はなくとも理解可能。なんだこいつ?って言いたいんだよね、わかります。私もなんだろうこれって思ってるもん。
でも私、天女ちゃんとはお友だちになれる気がしてるんだよなあ……。だって道中で「霧の」ってかまをかけたら「え、カルネヴァーレですか?」ってすかさず突っ込んできたんだよ。おっしゃるとおりカルネヴァーレだよ。満足して頷いた私は涙目の天女ちゃんに悔しそうに睨まれて役得だった。
「天女ちゃんはとりあえず客間ね。二階にあるから案内するよ」
手洗いうがいを済ませてから(天女ちゃんは素直で、ちゃんと真似してくれた)階段を上る。ほそっこい足にスリッパをひっかけてぱたぱたと歩く彼女は、私を睨み上げながら頬を膨らませた。
「懐柔しようとしたって無駄ですから」
「おらおらおらー」
「今はロードローラーの話をしてるんじゃないです!」
「私もしてないけどな」
やっぱりこの子はこっち側だと思いますね。

天女ちゃんは翌日、暗殺チームの面々とも顔を合わせた。花がほころぶような笑顔で自己紹介する彼女は、自分の魅力をよく知っている。後ろのほうで笑顔を作ってみるもギアッチョにしっしと拒否されただけで終わった私とは大違いだ。みんなもっと私に優しくして。
一番最初に歯を見せて爽やかに笑んだのはソルベとジェラートだった。何を考えているのかさっぱりわからん男どもだ。そして続くようにメローネが。苦笑はホルマジオで、人見知りがイルーゾォである。
「ポルポとはどういう関係なんだい?」
「わたしは」
「友だちかなあ」
「ふうん……」
「違います!」
天女ちゃんは身体の横で握りこぶしをぐっとつくった。
「わたしは、ポルポさんの呪いから、みなさんを救いにきたんです」
うん、端折りすぎてて意味がわかんないことになってるよ、天女ちゃん。
かくかくしかじかと説明をすると、プロシュートがうっさんくさそうな顔をした。私の近くにある椅子を引き、腰かけるリゾットは無感動にカフェラテを飲んでいる。これについては昨夜、天女ちゃんが眠りについた隙に二人で話し合ったから戸惑いはない。転生だの成り代わりだのの部分はちょーっぴし都合が悪いので誤魔化しつつ、『要するに彼女は君たちが大変な目に遭っているのをどこかで見て、助けたくてしょうがなかったんだろうね』とがばがばにまとめさせてもらった。私のわじゅちゅはさいきょうなんだ!ずるくてごめんな!
天女ちゃんはしばらく黙っていたけれど、必死に勇気を振り絞ったのだろう。
「みなさん。……みなさんは、ここにいるポルポさんが、本当のポルポさんじゃないとしたらどうしますか?」
「どーするったってよォ……」
ホルマジオがちらりとリゾットに視線を向けた。こと私に関しては、リゾットの判断が最も正しいと信頼を寄せまくっている眼差しだ。そうですね、いつもめんどくさいことを押し付けてばかりですみませんリゾットさん。
少しかさついた唇が、非常に緩慢に開かれた。反対に、飛び出す言葉は鋭利であった。
「それは、『殺す』か『殺さない』かの話をしているのか?」
「えっ」
「してない」
女二人してドン引きである。怖いよこの男。