もしも天女さまがご降臨めされたら


ツイッターで遊んでいるネタです。



「わたしはあなたの正体を知ってるんだから!」

言い放った女の子に、私はいつから正体不明の人間になったんだっけなと記憶をたどる。あ、二十数年前ですねわかります。
私と彼女を引き合わせたジョルノは、不可解極まりないといった表情で、私より数倍うつくしく可愛らしくとにかく素晴らしい角度で首を傾げた。困ったような雰囲気がマジモンなのか演出なのかわかりづらい。末恐ろしい年下だ。こうでもないとあらくれギャングたちを率いてゆけないのだろう。暗闇の荒野は怖すぎだからね。
僕よりもあなたのほうが詳しいと思いますからちょっと話してみてください、的なノリで応接間代わりの部屋を後にした忙しき新生パッショーネのパパさまを見送り、どういうこっちゃと疑問を浮かべる。彼よりも私のほうが詳しい分野ってナニ?薄い本とかそういうこと?エロ漫画において多大なる功績を積み重ね続ける触手ちゃんの種類についてメローネと語り合った日のことを言ってるのか?いや、私の自室で行われた第五回エロ漫画考察会議をジョルノが知るはずもないから別の話だろう。でもサブカル系っていう推理は合っている気がするな。
しょっぱなから私に喧嘩腰で構えてきた女の子はというと、私の真向かいのソファに腰かけ、膝の上でこぶしを握り締めながらキッと鋭く私を睨みつけている。
まろい頬はうっすらと薔薇色に染まり、アーモンドのように整った形の目は長いまつげで飾られ、唇はぷるりとみずみずしい果物のよう。ゲスな野郎っぽい視点で考えると、いわゆる『むしゃぶりつきたくなるような』ってやつだ。ついでに、ゆるく巻かれたさらさらの髪はどことなく桃色がかって見える。つまり絶世の美少女だった。
神がかった美少女に睨み据えられる趣味はないけれど、ちょっと新しい扉を開いてしまいそうになる背徳感が背筋を駆ける。なにこの子めっさ可愛いやん。開口一番で批難(みたいなことを)されたけど可愛いから全部許せるわ。格差社会だよね。こんなこと私がやったら思わせぶりすぎて空気が凍るぜ。
なんかよくわからん空気をぶち壊していろいろとお話でも聞こうかな、可愛いおにゃにょことお話したいな、と思って口を開く。しかし私が"ごめんだけどパンツ何色?"と問いかけるより、彼女が柳眉を釣り上げるほうが早かった。
「どうせあなたも転生者なんでしょ!?原作を変えたのはわかってるんだから。みんなを助けるのは私の役目だったのに、へんな壊し方をしたせいでみんな迷惑してるの!」
「……パードゥン?」
何度もまばたきする。なんで知ってんだこの子。
転生者、原作、変える。そのワードをつなぎ合わせると、答えはおのずと姿を現す。
「あ、異世界トリップ?」
「わたしはちゃんと『かみさま』にお願いしたもの!」
よくわからん敵意むき出しで怒鳴られた。そうカリカリするなよ、可愛い顔が台無しだから。
それにしても、異世界トリップか。転生成り代わり巨乳女がいるんだから、全方位に魅力を振りまいて金木犀やくちなしの甘い香りを放ちそうな美少女がトリップしてきたっておかしくない。この世界のファンで、原作の道筋を変えて、死んでしまう運命の人を助けようと思ってやってきたのか。実に健気だ。
「トラック系?」
「だから、みんなを助けたいって思ったら『かみさま』が……」
「……」
いろいろと引っかかるところがあるけど、とりあえずひと言。
「みんな生き残っちゃってるけど大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ!問題まみれ!!」
その返し、かなり気になる。
「ねえ君、私と同類じゃない?」
「一緒にしないでよ!わたしは……」
「日吉若、二年」
「アグレッシブベースライ、……ッ」
そうなんだよね、これって永遠に記憶から抜けない魔法の呪文なんだよ。
「友だちになろうぜ」
涙目で睨まれた。
「ていうかなんでトリップしてきたの?」
「だから、みんなを助けたかったからって何度も言ってるじゃない!」
「助けてどうしたかったの?」
「逆ハ、……じゃなくて……、みんなに生きていてほしかっただけ!それ以外に何があるの!?」
「きみ面白いな」
逆ギレされたが欲望に忠実なうえに正直で実にイイ。やっぱ友だちになりたいんだけどダメかなあ。