41 レクイエムは鳴り響く


マジか。ああ、マジだぜ。脳内の承太郎が頷いた。
本当にビビった時って悲鳴も出ないものなんだね。
私はぐったりした身体をペッシとメローネとリゾットに支えてもらって、かろうじて立っている。精神力なんてねえよ。おかげで私のサバスちゃんがレクイエムになって暴走しちゃったよふざけんなよ。
チャリオッツレクイエムとは違って、サバスたんレクイエムは精神を入れ替える能力はなかったらしい。その代り、その、言いづらいんですが勃――じゃなくて、男女が逆転した。
「……あの……まことに申し訳ない……」
ジョルノとブチャラティとフーゴとアバッキオとナランチャとミスタ、もう、護衛チーム全員胸元ヤバいしセクシー。そんな場合じゃないんだけど、武器とスタンドを構えている彼らに見惚れてしまうほど綺麗だった。
現在彼らは、レクイエムを追ったボス♀を追跡中。いざとなったら全員パープルヘイズで殺しますってニコッとしたフーゴに一同戦慄。
車椅子に腰かけたまま唖然としているポルナレフは巨乳だし、私を支えてくれているメローネも服がやばいし、ペッシが田舎娘みたいな素朴な可愛さであわあわしている。堂々としている金髪ショートヘアスーツヤバいプロシュート。ぎゃああああとまともな悲鳴を上げてくれたギアッチョ、イルーゾォ、ありがとう。ホルマジオは下が消えたことにショックを受けていた。ソルベとジェラートは爆笑して乳繰り合っている。
なぜ彼らがこんなノンキで、護衛チームの援護に行かず私とポルナレフの傍に固まっているのかというと、呆然とぶっ倒れた私を心配したブチャラティがそうするように言ったからだ。言われなくてもそのつもりだぜと護衛チームにグッと親指を立てたメローネ、歪みない。
時々時間が飛ぶし、ポルナレフは頭を抱えてるし、リゾットのガン開き前バツ印ベルトがエロすぎるし、私はレクイエムを追いかけられないし、どうなっちゃうんだこりゃ。あと関係ないけど、その、女性用下着の下にモノがあって引く。自分に引く。これ邪魔だろ。
「俺のモンが消えた代わりによおおお……オメーにゃついてんだよなあ……?」
「え、あ、……そうっすね……おいその手なんだよ、やめろよ、触ったら戻った時お前のも触んぞ!!っつーか私の声低くなってて自分が怖い!マジオの声が美人でやばい!」
「そう褒め――」
ホルマジオ♀、剃り込み入ってて筋肉もあるのに、なぜかしっくりくる。
また時間が飛んだ。いつの間にかホルマジオは沈黙し、イルーゾォがその脛を蹴った状態で足を上げている。もうすっかり慣れたようで、また飛んだのかよと言いつつ足を下ろした。適応力A+。
「君たちは本当に状況が判っているんだろうか……」
「ったりめーだろうが。判ってっからこそここにいんだよ」
「そうそう。ひよっこたちが負けたら、次にディアボロが殺そうとすんのは、正体に近づきすぎたあんたと俺らだからな」
「そん時はあいつがレクイエムから矢を奪ってっかもしんねーし、この身体に慣れて万全の態勢で迎え撃たねえとまじいだろ」
煙草に火をつけたプロシュートの言葉にソルジェラが続いた。陽が暮れて夜の帳が降り出したコロッセオは、彼らにとって決して不自由な場所ではない。暗殺に長けた集団だ。むしろ得意な舞台といってもいいのではないだろうか。
もっとも、敵は時間を飛ばせるし、もしもジョルノたちが負けた場合はディアボロが矢の能力を手にするかもしれないんだけど。キングクリムゾンレクイエム、どうなるのかちょっと気になる。
「(ああ、でもディアボロは矢に認められなかったんだっけ?)」
そうだったらいいね。あと、ジョルノたちに勝ってほしいね。私は基本的に原作不介入を貫きたいんだよ。とか言っておきながら、護チと暗チの上司として逃げられないほど介入している現実。
「……はあ、……短い人生だった……」
なんだろう、この諦念。だって矢を守ってるレクイエムから矢を奪ったらレクイエムたん死んじゃうじゃないですかーやだー!頭上?の光を破壊したらレクイエムたんボグシャアってなるじゃないですかー!
「諦めるな」
「……え?」

ぐい、と腕を掴まれる。女性にしては強い力で身体の向きを変えさせられて、背の伸びた男の私とちょうどかち合う高さの目に見つめられる。リゾットだった。およそ、リゾットが他人にかけるとは思えない言葉に、ぱちりと瞬きをする。
今この人、なんて言ったっけ。
名前を呼ばれる。いつものように静かな声だと思っていたのに、今は強く、どこか叱るような響きがあった。
「ポルポ、お前が生を諦めたことは今までに一度もない。どんな時でも、重傷を負っても、死にかけても、お前は生き延びてきた。それは生きることへの執着があるからだ。その気持ちを忘れるな。諦めるな」
「……」
ぱちり、もうひとつ瞬き。
生きたいと思うより、浅ましい思いだ。死にたくない。だから私は生きてきた。25年生きて死んで、それからまた26年生きて、今、ここに立っている。へろへろだけど、立っている。
ブラックサバスは私の手から離れた。呼び戻そうとしても、鎮魂歌を奏で、スタンドの枠から外れた矢の使徒が戻ることはない。私の声に、二度と応えることはない。

ひとりひとりの顔を見た。らしくないことを言うんじゃない。ほんのわずか、怒るようにしかめた顔をほぐして苦笑し、バカ、と音なく唇が動いた。
「そうだね。ファーストキスも遂げないまま死んじゃったら、もったいないしね」
気を取り直してみると恥ずかしいな。大人なのにね。うわっ今のも黒歴史に認定するわ。やばい。死にてーわーとか呟いてる大学生よりヤバい。自分の未来を諦めて遺言考えるってレベルじゃない。しかも部下に見られてる。あとポルナレフにも見られてる。私はひいいと顔を覆った。
「うわああああこれ一生引きずる!恥ずかしい!やめろみんな今の忘れて!!すごい諦めた私を忘れて!あれは私じゃなかった!!」
「うるせえ」
「お前がいつもの調子を取り戻すと場が締まらねえんだよ!さっきみたいに殊勝にしてろ!」
「頭冷やすぞ!!」
「やめてそれマジで凍らせるつもりでしょ!?」
ギアッチョのそれは脅しじゃなくて宣言だろ。私は後ずさってリゾットの後ろに隠れた。女の背中に隠れる男、最悪である。
私の背後で、肘掛けに肘をついて頭を抱えたポルナレフがぼそりと呟いた。
「こいつらに任せなくってよかった……」
なんかごめん。