40 私は生きたかった


総勢17人、大所帯だなあと思いながらぎゅうぎゅう詰めのボートに乗り(亀に入れよと思ったけどみんな海が見たいんだってさ)、ポルナレフ――おっとまだ謎の人物だった――に呼ばれた通り、一路ローマを目指していた私たち。
矢の秘密ってすごいなあ、と、ケープヨークの話なんてすっかり忘れていたので感心していたら後ろからプロシュートに突っつかれた。テメーも矢持ってんじゃねえか。
うっかりその音声がコンピュータに拾われてしまって、お前は何者なんだと謎の人物に誰何されたり、その流れでパッショーネ入りした経緯を話すことになったりと、海の旅は私にとってなかなかスリリングだった。私のスタンドの正体がジョルノとポルナレ――謎の人物にばれちゃったよ。死亡フラグ立ったね。
今はローマに近い漁村に上陸して、車を手に入れて、ブチャラティの運転で高速道路をかっとばしながら着実にローマへ近づいている。
「……あ」
まだ陽は暮れないが、だんだんと赤みを帯び始めてきた空を眺めていて思い出した。何か足りないなと思ったら、チョコラータとセッコだった。彼らは私の指示でビアンカが(指示というより独断だった気がしなくもないが)殺害してしまっていたのだ。今から2年前だったかな。つまり漁村での襲撃がない。旅が楽に済んで万々歳だろうとあの頃は安心していたけれど。
「(暗チの急襲もなくなった今、……ジョルノの男気と覚悟を見せる場面がまったくなかったのでは……?)」
あるとしたら、スクアーロとティッツァーノが攻撃してきたあの時だけだ。
確かジョルノの覚悟が護チメンバー全員に伝わったのは、チョコラータ・セッコ戦の最後の時だった。
ブチャラティの信用は入団試験の時点で勝ち得たものとしても、ポンペイの対イルーゾォでパープルヘイズの病原菌に侵されながらも誰も見捨てず勝利しフーゴとアバッキオに一目置かれる。次に列車内でグレイトフルデッドの効果に気づいて全員に冷静さを示す。メローネ戦で再構成の力に気づく(一応、私が仄めかしてはみたけど、初めて作ったのが仮死状態の私の傷を埋めるための部品だっていうのは微妙な気分)。ギアッチョ戦でミスタと共闘し覚悟とは暗闇の荒野に云々、ここでミスタの信頼を得るものと思われ。サン・ジョルジョ・マジョーレ島はスルー。スクアーロ・ティッツァーノ戦でナランチャの信用ゲットが確定。カルネのノトーリアスBIGはジョルノというよりトリッシュの場面だから割愛するとして、ローマ近くの漁村でグリーンデイを打ち破りチョコラータを無駄無駄WRYYYすることでジョルノの強さというものが叩き上げられ確立することになった、はずだ。
これって、もしかして、みんな緊張感もなく戦いもなくやって来ちゃったから、原作より弱い?
わあ、どうしよう。
とんでもないことをしてしまった。クソゲスだったとしても、負けることはないだろうから、チョコラータとセッコを生かしておくんだった。そんなことを考えて慌てて打ち消すほど、どうしようもない現実。今さらここに来て後悔とか。ない。なさすぎる。ありえねえ。ちょっと冷や汗出た。いや、マジでちょっとだけだから。私の心臓毛が生えてるから。
嘘だよ。豆腐メンタルだよ。なにこれ。
この状態でボスに勝てんの?数に任せた力押しで勝つことはできるかもしれないけど、ジョルノはレクイエムに目覚めるの?だって"ポルポ"のブラックサバスの矢でスタンドが貫いてもレクイエムにならなかったってことは、矢が問題なんじゃなくて、どちらかというと覚悟の問題なんじゃあ。
「(ん?"貫いた"?……違う、貫いてない)」
いいことを思い出した。
そうだよ、ブラックサバスはジョルノのゴールドエクスペリエンスを貫いたんじゃない。首か腹か胸か、どこかだったと思うけど、そこをちょっぴり突き刺しただけだ。今より未来の場面のジョルノは、金の矢で思いっきりスタンドを貫いていた。それがキーなんじゃないか?
ほんの少しだけど気分が上昇した。やったーまだ希望はあるぞ。ぱっと顔を上げたらジョルノと目が合ったので、ニコッと笑いかけた。微笑みを返される。
「ジョルノさ、なんでパッショーネに入ろうと思ったの?」
「え……。……そうですね、別に隠すことでもありません。ちょっとした昔話ですよ」
面食らったジョルノは、目を伏せて逡巡してから、また私を見た。遠い過去を思い出す、懐かしむような表情で語る。家庭環境が良くはなかったこと、感情が死にかけていたこと、助けたギャングのこと、助けられたこと、その人がじっと見守ってくれていたこと。
「だから僕はその人に憧れて、ギャングになろうと思ったんです。どうやってなればいいのか考えていた時にブチャラティに会って」
「そんで、私のところに連れてこられたってことね」
「はい。認めていただけてよかったです」
社交辞令のようにほんのりと笑顔を向けられて、私も曖昧な笑顔を浮かべた。私が認めるというか、君が私を認めるというか。危険だったのは私のほうだからね。バナナ食べるのやめてるからね、私ね。
ジョルノの視線が、つ、と彷徨った。迷ったように目を伏せ、それから、雰囲気にそぐわない強い眼差しで私を射ぬいた。
「ポルポ、あなたはネアポリスの街に麻薬が横行していることを知っていますか。……いや、知らないはずはありませんよね。あそこはあなたの管轄だと聞きました」
「う、そう、そうだね、あそこは私の管轄だね」
それ、今聞いちゃうか。マジか。心の準備、全然できてなかった。
知っているか知らないかで聞かれれば、当然知っている。私はこくりと頷いた。知ってるよ。
「僕くらいの年齢の少年にも、麻薬注射の痕がありました。……あなたは、組織のボスとはあまりそりが合わなかったのだと思っていました。サン・ジョルジョ・マジョーレ島でリゾットが、ボスがあなたに何をしたのかを話してくれたので」
「リゾットちゃん何やってんだよ!やめろよ私の黒歴史だから!!」
「必要だと思ったから話しただけだ」
しらっと言わないで。何、じゃあここにいる人全員そのことを知っているの。やめて。やめよう、まじでおねえさんをいじめるのやめて。恥ずかしいだろそんな思い出を共有されたら。
思考が横道に逸れかけた私を引き戻したのは、ジョルノの声だった。
「だからこそ腑に落ちない。ポルポ、僕はあなたをこの数日でしか知りません。ですが、子供たちにまで被害の広まっている麻薬取引を、あなたが見過ごすようにはどうしても思えないんです。それなのになぜネアポリスに、恐らくボスの指示でしょうが、麻薬の痕跡があるんです?」
えっと、それってちょっとは信頼されてるってことでよろしいんですかね?ありがとう。
とはいえ、どう答えていいのか。
麻薬ルートをつぶしてみたり他の所に流してみたりと、自分の手が汚れないように工作はしてみたんだけど、それって根本の解決になってないしな。明確な対策を打ってこなかったことは私の咎だ。あえて言い訳する必要もない。ははは、信頼ガタ落ち。善人ばっかりの護チにも暗チにも不信抱かせちゃうね。私詰んだ。
「麻薬の密輸を黙認していたことは確かだね。それはボスに、なんていうか、脅される前から知っていたし、やっていた。ひとつのルートで数百億の金が動く世界だから、当時はひよっこの幹部だった私にどうにかできる話じゃなかったし、あえて急いでどうにかする必要もないだろうと思ったから」
私は死にたくない。だからボスの命令通りにサバスちゃんで人を貫いたり、嫌な仕事を請け負ってみたり、愚痴を言いながらいけ好かない方向に金を流してみたりやってきたわけだ。そんな私は簡単に殺されないために幹部になった。そこで初めて密輸なんていう危なすぎる裏稼業を知ってしまったとして、何ができただろうか。
できるかできないか、で言えば、できたのだろう。けれど私は死にたくなかったので、即座に行動することをやめた。幹部を降ろされて殺されるのも困るし、何もできないままそうなってしまうのはもっと困る。死にたくないし。ああ、これ言い訳っぽいな。やめよう。
「話に割り込むようですまないが、ジョルノ。ポルポだけを責めるのは違う、と俺は思う」
「ブチャラティ?」
「そしてポルポ、事実は私情を挟まず明確に伝えるべきだ」
アレッそのセリフ最近どっかの前ベルトバッテン印リーダーから聞いた気がするよ?リーダー同士めっちゃ気が合ってんね。
ブチャラティは運転をしながら話し出した。麻薬ルートがじっくり潰されていたことを。被害が広がらないよう、縮小し、潰しきれなかったものを別の地域に流して内々で処理できるようにしていたことを。
「えっと……なんでそれをブチャラティが知っているのかってことなんだが……」
「数年前、別のチームと接触した時に知ったんだ」
「あ、……さいですか」
重苦しかった空気が一掃されていくんだが。ブチャラティは空気清浄機なの?なんでジョルノは納得したようにそうでしたか、って頷いてるの?それで済む話なの?ダメだろ?おいミスタ、リボルバーの点検してないでブチャラティを止めろよ。さっきから滔々と話し続けてるぞ。フーゴ、目を逸らさないで。ナランチャは寝てるし。アバッキオ、私を睨むな。最初ッからありのまま喋りゃあいいのに話を長くしやがってバカ女、って罵られた。えええ。そして暗チの、まあ知ってたけど、と言いたげな視線。知ってたの?なんで?言ってないよ?君らも別のチームの話で聞いたの?
「それにしても、私はどっちかっていうと嫌われてる方なんだが、なんでそんな話をしてくれたんだろうね、そのチームは?誰だ、私に好意的な人って?」
今、失いかけた信頼が一気に回復した(なぜなのかよくわからないけどたぶん、彼らの中でそれぞれだけが納得できる理論が組み上がったのだと思われる)ように、私の株が上がっちゃうんだが。
答えたのはギアッチョだった。
「好意的じゃなかったけどな」
「は?」
「オメー、腹抱えながら罵倒されてたぜ」
「お前もそんな場面に出くわしたのか、ギアッチョ?俺もだ」
ふたりが意気投合してしまった。腹を抱えながら罵倒されている私っていったいなんなの?

何事もなくコロッセオの前に辿りついてしまった。そわそわして落ち着かなかったので、両隣にいるジョルノとリゾットの服を掴んでいたら、ジョルノが「手をつなぎますか?」って手を差し出してくれた。やっさしい。なんだそれ。ヒーローか?すべすべした少年の手に癒された。

私は緊張している。この先で何が起こるかを知っていながら、緊張している。
せめてもの救いというべきは、アバッキオの遺したデスマスクがないためにボスの対応が遅れていることだろうか。周りには人がまばらに散らばっているけれど、そこにこちらを窺う影はない。ナランチャのレーダーと、人からの視線に敏感すぎる暗チが保証してくれた。
いや、いや、目立ってると思うんだけどね私は。深夜じゃないし、人いるし、こんな異色のメンバーが数人並んでたら二度見すると思うんだけどね。
ちなみに、外に出ているのはブチャラティ、ジョルノ、ミスタ、ナランチャ、リゾット、ギアッチョ、トリッシュ、私の8人だ。あとの8人は亀の中。ブチャラティが持っている手鏡の中にイルーゾォがいるから、外にいる人間は数えると9人になるのかもしれない。
私はジョルノと手をつないだまま一番前に出た。ジョルノと顔を見合わせ、それから振り返る。
「私は戦闘は不得手だけど、ある程度の方針を決めてもいいかな?」
「言ってくれ」
「グラッツェ。えー、まず、謎の人物に会った時、お互いの情報が合致しなかった場合は中立者とみなして逃げられないようにマンインザミラーでスタンド、矢、その他武器以外を許可して鏡の中に閉じ込める。合致し、味方だと確認できた場合は謎の人物の指示を受ける」
マンインザミラー便利。
「コロッセオの中、私たちに近づく気配があったらすぐに言ってほしい。例えそれがど素人の呼吸をしてたとしても、ギアッチョは即行その人を凍結、動けなくさせてくれると助かる。ミスタとリゾットはトリッシュを護衛。私はブチャラティとジョルノと一緒にその人物に接触する組」
「なんでポルポまで?」
「私のスタンド、サバスちゃんは矢を内包してる。そのことを謎の人物も知っているから、話をした方がいいと思って」
ああ、とジョルノとトリッシュ以外の全員が頷いた。そうだね、ここにいる人たち、私が刺したんだもんね。その節はすまんかった。反省も後悔もしていない。
「あとは臨機応変に。大丈夫、間違って民間人を瀕死にさせちゃったとしても、示談に持ち込むからね!」
「あ、そうか、ポルポってお金持ちなんだったな」
えへへ、それほどでもあるよ。
ジョルノと手をつないだままの私は腕を伸ばして、前を歩くジョルノについていきながら、そっとため息をついた。
あー、全部さっさとうまくいかせてトンズラこきたい。

止まれお前は誰だそっちの黒ずくめたちは確認してなかったけどそれもお前の仲間なのかーといくつか質問をされて、ブチャラティとリゾットが冷静に答えてくれた。さすが安定のリーダー組。私はトリッシュと、初めて見るコロッセオの内部に釘づけでした。ギアッチョに緊張感を持てって言われました。
階段をのぼって石柱の陰に隠れていた車椅子の男と名乗り合う。名前は必要ないと突っぱねられたけど、じゃあなんて呼べばいいんだ。あだ名つけるか。電柱みたいな髪型だから電柱さんでいいかな。やめてくれわたしはポルナレフだ。ありがとう。
「この矢でスタンドを貫くことで、君たちのスタンドは新しいパワーを手に入れる、ということになる」
「……ソボクなギモンなんだけどよおおお、スタンドを手に入れる時は、ン万分の一だかン千分の一だかの確率じゃねえと目覚めなかったよなあ?んで、目覚めなかったやつは例外なく死んだっつーワケだ」
「あっ、そっか……!ギアッチョの言うとおりだぜ、じゃあそれも、ぶっ刺したら死ぬのか!?」
ポルナレフは車椅子をギ、と鳴らして背もたれにもたれた。農村での療養中に、壁にかけておいた矢を(なぜか)タンスの裏に落としてしまったといううっかりエピソードを披露し、それをスタンド――シルバーチャリオッツに拾わせたのだと手のひらを広げた。
「ちょっぴりだ。ほんのちょっぴり、わたしは矢でチャリオッツの指を傷つけてしまった。しかしただそれだけで、チャリオッツの力はふしぎな進化を遂げたのだ。木々の鳥は落ち、農民は倒れ、家畜は草の上にうずくまった。そう、……すべての者が眠り始めたのだ」
これ、ポルナレフはよく眠らなかったな。スタンドの本体だからだろうか。
スタンドパワーには先があったのだーと、ババン、決めゴマで言ったポルナレフに、なるほど、とブチャラティが頷いた。
「ちょっぴり傷つけるだけで良いなら死にはしないな」
「恐らくは、そうだと思う。だが、私はこの矢の特性をほんの一部、ちょっぴりだけ体験したに過ぎない。完全に矢の効果を発動させるには、深く深く貫かねばならないだろう。あるいは、……死ぬ、かもしれない」
戸惑いがちに上目で私たちの反応を窺うポルナレフ。死を前にして、戦士たちが身を引くことを恐れたのだろうか。
「そしてわたしは懸念する。あまり大勢に、スタンドパワーをこえた能力を手に入れさせるべきではないだろう、と。もうひとつは、死の危険がある以上、君たちのような優秀なスタンド使いを無為に死なせてしまうことは、ディアボロと対決するにあたって不利だということだ」
「そっすね」
「君、事態の重さがわかっていて相槌を打っているか?」
「さすがにひどい」
ポルナレフに窘められてしまった。26歳だけど落ち込む。ジョルノが慰めるように背中をさすってくれた。ありがとう。
戦士として再起不能であるポルナレフの精神力では、チャリオッツレクイエムを制御できない、というそれは、果たして覚悟の問題なんだろうか?単純な精神力?それなら、私には無理でもリゾットちゃんならイケる気がするし、ブチャラティもイケそうだし、プロシュートもガン攻めだからイケそうだ。スティッキィフィンガーズレクイエムとメタリカレクイエムとグレイトフルデッドレクイエム。怖い。
「数人、……いや、良くてふたりまでだ。わたしはそのふたりのために矢を使おう。そして、そのあとはこれを完全に処分する」
「どうやって……処分するつもりなの?」
「粉々に砕いてしまうつもりだ。特に矢じりは念入りに。……何か別の物質に変えられれば一番いいんだがな」
「それなら僕がやります。僕のゴールドエクスペリエンスは物体を生命ある別のものに変えることができますから、木にでもしましょう」
ジョルノ強い。ポルナレフが呆気にとられている。君のスタンドはすごいな。ありがとうございます、それより早く始めませんか。
車椅子に座る、戦闘不能の戦士であるにも関わらず、ポルナレフの気迫はすさまじかった。15年間矢とディアボロを追い続け、ずっとこの機会を待っていたのだ。自分にはもうスタンドを制御するパワーはないと言っていたが、もしそれがスタンドパワーではなく単純な精神力の問題だったら、おそらくポルナレフは素晴らしいスタンド使いとして進化しただろう。
私は緊張で乾いた唇を舐めた。全員、何も言葉を口にしない。お互いがお互いを窺い、誰が進み出るのか、自分が行くべきか、考えている。
そんな中、ジョルノが一歩、前に出た。

「僕はその矢を受けなくてはいけない」
「ジョルノ!待つんだ、お前を死の危険にさらすわけにはいかない!パッショーネのボスになるのではなかったのか?!お前はずっとその覚悟を宿して、ディアボロの生み出した暗闇の荒野をその光で切り拓くためにここまで来たのじゃないか!」
ごめん場違いだけどまさかのブチャラティから飛び出た暗闇の荒野発言に全私が動揺した。お前が言うのかよ!
パッショーネのボスになる、というジョルノの夢に、ざわりと場が揺れる。亀の中からフーゴが飛び出してきて、お前の言っていた夢と覚悟とはそのことだったのか、と驚いた表情でジョルノに詰め寄った。え、いつ聞いたの?慌てて見ると、ミスタとナランチャも記憶をたどってうんうんと首を振っていた。
しかしこれにはさすがにリゾットも驚いたのか目を瞠って、ギアッチョはマジかよウエエ、と信じられないものを見るような目でジョルノを見ていた。暗チは知らんかったんだね、よかった私だけ仲間はずれかと思った。
アバッキオはどうなんだろう。あの言葉を亀の中で聞いて、それで反論せず黙っているっていうことは、それなりに認めているのだろうか。なんで認めてるんだろう。私の知らないところで、何かがあったとしか思えん。
ジョルノはブチャラティを、ミスタを、ナランチャを、フーゴを、そして私を振り返った。
「そう、僕はディアボロを倒し、組織のボスになります。……そしてその為に、僕は"覚悟"を見せる必要がある!口で言うことは簡単だ。夢物語を語っていればいい。だが、僕のこの決意は、そんなものじゃない!だからこそ僕は、"僕"を"矢"に"選ばせ"る!」
陽が沈み、やがて訪れるだろう夜をも切り裂くような、まばゆい光がそこにあった。ジョルノの瞳にきらきらと輝く意志の力だ。
やはり、ジョルノでなくてはいけないのだ。私はすとんとそれを理解した。サバスがどうなるとか、私が淘汰されるかもしれないとか、そういうことは、その瞬間忘却の彼方に吹き飛んでいた。ジョルノでなくて、誰がスタンドの先を行くのだろうか。
するりするりと、亀の中から仲間が現れる。全員がジョルノの言葉を聞いて、そしてその結末を見届けに来たのだ、と私は感じた。数日しか、そして数時間しか接していない、言葉も交わしていないような人たちにそう思わせるジョルノは凄い。あまりのカリスマに目がくらんだ。こりゃ勝てねえわ。勝負するつもりもないけど。
「君の覚悟がそこまで決まっているのなら、わたしは何をいうことも、否やを唱えることもない」
「ジョルノ。……テメー、そこまで言って簡単にくたばっちまったら、……墓の前で笑ってやるぜ」
真顔で言ったアバッキオに、ジョルノはくすっと肩をすくめた。ええ、楽しみにしています。

具現化したゴールドエクスペリエンスにポルナレフが金のきらめきを向け振りかざす。そして勢いよく突き立てられようとした金の矢の軌道が、逸れた。
石柱の陰から出、姿をあらわにしたポルナレフと振りかぶられた矢に危険を抱いた男がスタンドの手から何を放ったのか。矢の先端を弾き、乾いた音を立てて石壁にぶつかり床に落ちたそれを反射的に見た彼らは、そして投擲した敵の姿を見るため振り返った彼らは、そのために反応が遅れた。
どんな偶然だろうか。あるいは必然だったのか、チャリオッツがレクイエムにならない展開の修正力なのだろうか。
ジョルノの間近で彼の進化を見ようとしていた私の真っ白になった思考の中、警告だけが発されて、私を守ろうと呼応した精神によって引きずり出た黒のサバスが―――