(空気ぶち壊し)(結婚のまま終わりたい場合は非推奨)
ハッと目が覚めた。
「(……なに……今の夢…………)」
かなりリアルだったとか、リゾットがカッコよかったとか、みんなが活き活きしていたとか、身内の参列者であるはずのプロシュートが新郎張りに輝いていたとか、神父ではなくジョルノの前で宣言をしたとか、トリッシュがブーケを受け取ったとか、メローネがリゾットから私を奪って逃げようとしてうわーん!と泣いてたとか、その足止めのためにリゾットがどこに仕込んでたかわからないナイフを足元に投げてメローネがすっ転んだまさかの展開があったとか(暗殺者怖い)、ホルマジオが式の終わった直後にさっさとフォーマルな衣装を着崩してかったりィよなアって言ってたとか(あんたそりゃ私に失礼だよ)、ご飯がおいしすぎて私もドレスを脱ぎ捨てたくなったこととか、そういうことに感動した後に襲いくる謎の羞恥。
恋人が出来てしばらくしたら速攻で結婚の妄想とかしちゃうのか。つらい。モテなかった女の極みか。
結婚を前提におつきあい云々、なんて言ったことも言われたこともなくこんな形で今までと変わらず一方的に私がうざったく絡んでいるけど、内心で私はこんなことを考えていたの?つらすぎる。つらいよお安西先生。諦めたらそこで死にます。
あんまりにも恥ずかしくてつらかったので、過去の黒歴史を思い出して冷静になることにした。いくつか羅列する。
「(駄目だ効かない)」
黒歴史を思い出すためのMPがたりなかった。
しばらくタオルケットにくるまってもだもだしていると、私を起こしに来たリゾットがドアを開ける気配を感じた。気配だなんて格好のいいことを言ったけど、実際はカチャリと音が聞こえただけだ。気配が薄すぎると私がビビり上がってメンタルが削れちゃうよおとわがままを言ったところ、よっぽど私をビビらせて面白がろうとしない限りはこうして日常レベルの音を立ててくれるようになったのだ。面白がるリゾット。しかし無表情である。
「どうした?」
怪訝そうな視線が突き刺さる。ちらりと彼を見上げた私の目元は赤くなってないかな。照れる。モテなかったから。すべてモテなかったことが悪いんだぜ承太郎。いや承太郎ここにいないし会ったこともないけど。
「変な夢を見ただけだよ……」
今までまったく意識をしていなかったけれど、なんだろうね、寝る前にブライダルホモを読んだのがいけなかったのかな。それだな絶対。
「どんな夢だ?」
いつもは「そうか」で終わらせるくせに、私の顔が赤いことが気にかかったのだろう。リゾットは、リゾットこんにゃろうは夢について言及してきた。私が触れさせたくないと頑張って隠しているところを突っついてくる男リゾット・ネエロ。その綺麗な余裕が今だけは憎い。
「リゾットと結婚する夢……」
「なるほど」
あっさり流されてしまった。助かったような、がっかりしたような。
しかしすぐに、それもそうか、と思い直した。リゾットは色んな人から『結婚する夢』を見られていそうだもんな。二度目のデートがあった相手とお酒を飲んでいたら自然な流れで「ねえリゾット……私は今朝あなたと結婚する夢を見たのよ」なあんて言われた経験がある可能性がなきにしもあらず。モテるやつは違うな、格が。
「お前にはそういう意識がないのかと思っていたが、夢に見て恥ずかしがるほどには自意識があって安心した」
「リゾットちゃんって私のことなんだと思ってるの?」
「それはこちらの台詞だが」
「すみません」
普段、息してる?とかリゾットならビルからビルに飛び移れそうだよね、とか、大橋から飛び降りても普通に走り出せそう、とか人外扱いしてるから、人のことが言えない私。でも私の出した突拍子もない案の六割はやったことがあるリゾット。前パッショーネのブラック企業っぷりったらないわ。
「なんで『そういう意識がない』と思ってたの?」
モテたいモテたいと口にしていたことを知っているだろうに。
質問をすると、ベッドに腰掛けるリゾットは、私の左手を持ち上げた。
「指輪について尋ねたら、俺からもらうものなら何でも嬉しいが、家事や食事の時に頻繁に外してなくしたら困ると、まったく何も思い当っていない顔で答えていたから、ああこれはやはり何も考えていないんだなと判断した」
恋人に指輪の話を振られた経験がないから察するに察せないし、ここまで見事に自分がフラグをへし折っていたとなるといよいよその時の私の肩を揺さぶっておまえよく考えろよと叱咤したくなる。しかしこいつの質問の仕方も、絶対裏があるとは気づかせないものだったに違いないから、一概に私だけの責任とは言い切れない。
「なんかごめん。責任取るわ」
「ただ訊いてみただけだった。気にする必要はないし、俺もお前も形にこだわるタイプではない」
まあ、それもそうですね。結婚願望アリアリアリアリアリーベデルチなリゾットとか可愛すぎて速攻で結婚申し込むわ。
「(そういえば……)」
夢の中でも、私の方からリゾットに結婚を申し込んだ、んだっけ。そんなようなシーンがあった気がする。
夢は夢だけれど、もし、いつかそういう日が来るとしたら、と仮定して。
もし、いつかそういう日が来るとしたら、やっぱり私はリゾットを驚かせるために、完璧な布陣を敷いてからプロポーズをしよう、と密やかに心に決めた。
(椎名さん、リクエストをありがとうございました)
(夢の中で結婚を申し込んだポルポに対して、ネエロさんが「そうだな、戦いも終わったことだしな」と折れた死亡フラグを持ち出してくる部分を割愛してしまってごめんなさい)