タイプ

会話だけ


「なあポルポ。ポルポの好みのタイプってどんなの?」
「(なんで今聞くんだろう)」
「なあなあ」
「考えたことなかったかも」
「単純に考えようぜ。例えば、優しいってのは必要だろ?お互いへの思い遣りさ」
「うん」
「それに、いざって時に女を守れたほうがいい。それなりの技術は持ってないと」
「ふむふむ」
「金銭感覚が合わないと後々不仲になるし」
「そうね、お金はね」
「やっぱり顔も整ってる方が見栄えが良いだろ?」
「見栄えというか……」
「それこそ"好み"だよな。あと、性格も重要だ。似たもの同士がいいのか、違う毛色がいいのか。ポルポはどっちにしても合わせられそうだね」
「慣れたとも言うわねえ」
「なにより大事なのは安定だ。ずっと傍にいて違和感のない奴がいい。だろ?」
「そうね」
「俺は全部当てはまるぜ。どう?」
「(あぁなるほど。長い前振りだったのね)」
「テメーは懲りねぇな」
「でもメローネは年下だし」
「ね、年齢!?ブチャラティやジョルノならともかく、俺とポルポはたったの一つ違いだろ!?」
「(ただでさえ弟みたいな感覚だからなあ)」
「残念だったな」
「テメーが歳を気にするとはな」
「メローネたちは特に、可愛い子ちゃんたちだから」
「見た目じゃわかんねーのに」
「なんとなく、おねえさん気分が抜けないのよね」
「あ、でも今想像してくれたんだ?」
「……」
「ごめん私気持ち悪かった?モテない女の習慣みたいなモンなの」
「テキトーこいてんじゃねぇよ」
「絶対楽しいダータにするからさ、今度出かけようぜ」
「(メローネとデートか……。私と一歳しか違わないとは思えないような手練手管でスマートに楽しませてくれそう。イメージが容易。恐ろしい子……!)」
「リーダーより優秀なプラン考えるぜ」
「……」
「総合力でリゾットちゃんと張り合おうとする君を尊敬する。でも評価基準が私だと不確かだから、勝負するなら二人ともお互いの立てたデートプランでお茶飲み合って判断してから結果だけ教えて欲しい」
「(アホらし……)」
「お前以外の誰が得をするんだ」
「ポルポが見たいならやってもいいけど、見ないんじゃあなあ」
「(メローネは私が見たがったらやるのか……、リゾットは……)」
「……(" やらない ")」
「(" ですよねー ")」





キスの起源

ブチャラティ、フーゴ、ミスタとお茶をした帰りにふと思い出したことがある。キスの起源についてだ。なぜこんなことを思い出したかというと、手土産に貰ったチョコレートにキスの名がついていたからである。もしくはブチャラティの初恋について根掘り葉掘りと三人で当てずっぽうな会話をして来たからだ。根掘りはともかく葉堀りってよぉ、と脳内で車を破壊し始めたギアッチョは記憶の底に封印する。
キスの起源だったか。
どこかで読んだように思うのだが、どこだったかは思い出せない。今生か前世かも曖昧なので、本当に目にしただけで、今まで忘れていたのだろう。昔の私が、する予定も見当たらないキスについてそれほど興味を持つわけもない。
それにしては本棚に、公にできない薄い本の領域があると言いたいか?ありゃあフィクションだ。

家に戻って、まだ気になっていたので便利なインターネット様で検索にかけてみた。なるほどなるほど、諸説あるらしい。そりゃあそうだろう。国も歴史も多く長いのだ。
その中でもひときわ目を惹いたのは「浮気を確かめる」ためのキスだ。夫の留守中に妻が浮気していないかを調べるために行われていたことが、愛情表現と言い訳され、それが形を変えて伝わったという。
へえそんなものがあるの。キスしたらわかるのかな?なんでわかるんだ、愛の力か?
さらに検索して答えを追求する前にメールが舞い込んだのでそちらに意識を取られてしまい、再び思い出したのは夕食の準備をしに階段を降りた時だった。

「……何だ?」
問われるのも仕方ない。
私はエプロンをつけるリゾットを、同じくエプロンをつけながらじっと見つめていた。ごめんねえ、挙動不審な同居人で。しかし私がリゾットを見つめていることはよくあることなので、あまり動かない表情の中、目を眇めたのはなにか別の理由があるのかもしれない。邪念が溢れ出て見えたとかかな?
「ちょっと聞きたいんだけど、リゾットちゃんは浮気されたことある?」
「……」
ちょっと眉根が寄せられた。何を言いたいのか察せずにいるご様子。そりゃそうだ。私だって突然こんなことを言われたら混乱するわ。されたの?って深読みして相手を心配しちゃうよ。
「気の移りを浮気と認識出来るほど他人と深く付き合っていなかったから数えられないな」
予想通りというか予想外というか。浮気の疑惑をかけられたことはありそう。
彼も情熱的と謳われるイタリア人の一人だし、恋人に薔薇の一本や二本や三本や四本程度贈ったことはあるだろう。でもリゾットのピリリとした見た目と、低く落ち着き、無駄を省いた言葉を紡ぐ声からは、なかなかそういったイメージが読み取れない。突然薔薇の一本や二本や三本や四本や五本を贈られた相手は、歓喜と同時に女性特有の冷静さで不審を抱くこともあった、かも、しれない。急にこんなことをするなんてリゾットったら珍しい、リゾットらしくないわね、もしかして私に隠したいことがあるんじゃないかしら、薔薇の強い香りで打ち消したいものがあるのでは。こんな具合で。
全部ただの妄想だ、間に受けないでくれワトソンくん。まあどこにもワトソンくんはいないんですけどね。
「じゃあ、相手が浮気してるかどうかをキスで確かめたこともない?」
「……ないな。どう確かめるんだ?」
「よくわかんないからリゾットの経験を聞こうと思ったんだけど……」
浮気を探るためのキスとは、狩猟から帰ってきた夫が家で待つ妻に、帰宅ゼロ秒で与えるものらしいのだ。ゼロ秒かイチ秒か数分かは、やっぱり私の妄想である。妻が玄関先まで迎えに出たのなら、ゼロ秒も有り得なくはない。
夫はそのキスで、妻に他の男の痕跡がないかを確認するらしい。
この、「他の男の痕跡」って一体ナニよ?ナニ?味?「これは嘘をついている味だ」?ブチャラティなら可能かもしれないけど、数百年前の一般家庭に現代ギャングのスタンド使いと同じスキルを持つ旦那さんがいたとは考えづらい。感覚的なものなのだろうか?
「リゾットちゃんは色んなこと知ってるから、これも知ってるかなーと。ごめんね急に変なこと言って。ご飯つくろっか」
甘い口付けから一転、彼女が不貞を働いたと確信したリゾットちゃんが恋人を壁際かどっかに追い詰めて尋問モードに入る部分をちょっと詳しく知ってみたかったんだけど、それを正直に告げると私が今までに確立してきた人物としての信頼が揺らぎかねないので、当たり障りなく話題を終わらせた。
「……俺の知っていることと、お前の知らないことが噛み合っているだけだろう」
多くを知っているわけではない、と言外に含ませて、リゾットは服の袖を軽く捲り上げる。それから私を手招きした。
手招きと言っても、犬か猫でも呼ぶように指を動かしただけだ。それでもいつだったかここにはいないメローネが、平時であるのに視線の動きだけで移動を示されていたことを考えると大きな親密さが伺える。伺える、と思いたい。だってあのプロシュートに対しても、リゾットちゃんは「プロシュート、ちょっといいか」って言うだけだし、手招きとかしないし。あれ?そっちの方が親密?私は犬か?
近づくとリゾットは、私の顔の横にかかる髪をそっと耳の後ろへ流した。私の性格と同じ、あちらこちらへと落ち着きのないうねりのかかった髪筋に指が差し込まれ、彼の左手に私の右頬が包まれる。親指が目元から頬に触れて、また目元に戻った。
客観的に見ると何やら「良い雰囲気」であるように思えるが、こちらを見下ろす眼差しの胡乱なこと胡乱なこと。私の質問の裏に邪な妄想が隠れていると見抜いているのか?法廷では物証がモノを言うのだよ成歩堂くん。今の私をホシとして上げるにはまだまだ証拠が足りないと思うぞ?
内心で首を傾げる間もなく、リゾットちゃんは言った。
「判別出来るか出来ないかはその時にならないと解らないが、どちらにせよ、元を知らなければ意味がないな?」
「そうだね」
ちょっぴり首をかしげて言われたものだから、不覚にも三十を二年後に控えた男の仕草に胸の柔らかい部分をギュンッとやられてしまった。今月十数回目だ。
ギュンッとやられたところで、この状況が客観的に見ても主観的に見ても八割は確実に「良い雰囲気」であったことを理解した。「そうだね」じゃあない、もっとよく考えろ。
慌てて軌道を修正。顔が火照ったのは見逃して欲しい。だからこの間までモテない女だったんだってば!
「そ、それについては今度詳しく話し合おうか」
私がうろたえたのを見て、少しリゾットの声音に変化があった。
「お前は考えが甘いな」
今こいつちょっと笑ったか?

リゾットのスゴいところはたくさんあるが、私に関することだけを数えると、その中にこの才能が一つ割り込む。それは、釣り上げた魚を調理する時、魚への同情を忘れないところだ。
好意的に数えていいのかは疑問だが、この釣り上げられた魚とは私であり、調理とは私の意思に拘らず起こされるアレやコレやソレなのだが、釣った魚をまな板に載せてやることなど限られているので、あえて説明する必要もない。補足させてもらえるならリゾットの怖がる姿に興味を持った私が怖いと有名な映画を借りて来て、ガチでビビった姿を見た時も同じ言葉が使われた。お前は本当に詰めが甘いな、と言われたこともあるような気がする。もう何もしない方がいいのかもね。息もしないでおこうか。私の頭が悪いっていうのもあるけど、相手が悪いのもあると思うんだよな。
「リゾットちゃんが相手だから甘くなっちゃうんだよ」
命とか懸からないし。
「……」
後半部分は大きな胸にしまいこんで笑顔で押し切る。
お腹がね、結構本気で空いて来たんだ。君といちゃつきたい気持ちは山の如し。だが空腹は誤魔化せない。鉄の面の皮を持つと揶揄されたことのある私も(ごめん誇張した)ひしと抱き合う最中にお腹が鳴ると恥ずかしいしたぶんそれはリゾットも気が萎えそう。ごめんな、生物としての本能には勝てないのよ。

リゾットの手を取って、殊更丁寧に下ろす。
「ポテトサラダを作りませんか」
「そうだな」
リゾットはあっさりと同意して、すすすと離れた私を見送った。ただ私をからかっていただけなのかもしれない。そういうところがあるんだよたまに。上司と部下の垣根を超えてようやくわかったことなんだけどね。
さて、夕飯だ。今度からあぁいう話題を振る時は、どんな反応をされても華麗に大人の余裕でかわせるようにシミュレーションをしておかないとな。なにせ私は、人生二周目であるからして。
「あ、夕ご飯のあとにチョコ食べない?ブチャラティ達に貰ったんだ、キスチョコレート」
「……」
「え?……あっ、……いや、いやいや、アピールじゃなくてね?本当に今ふっと思い出して言ってしまっただけなのよ」
どんだけキスに拘ってんだ私は。三十を四年後に控えてるけどまだ許されるよね?人生二周目だけどまだ許される?
弁解の余地を探していると、リゾットはほんの少し、一振りの黒胡椒よりもちょっぴり吐息混じりに笑ってから、キッチンに入ってしまった。貴重な笑み(私はそれを笑みと呼びたい)を心構えなく受け止めてしまってもったいない。心のシャッターを下ろし損ねた。そしてスルーしてもらえて良かったような呆気ないような。じゃあどんな対応が適当だったのかなんて自分を恫喝しても答えは得られない。女心は難しいなあ。

ぱちんと髪留めで髪を纏めて、気を取り直してリゾットちゃんに釘を刺す。
「私はちゃんと、お誘いする時はスマートにやるからね」
「……」
「夜景をバックに、しこたま飲ませたリゾットちゃんの耳元で愛を囁いてメロメロにしたりするから」
なんの計画も続きも立てていない一本の釘だったが、刺し終わってなお無言で促されたので苦し紛れに押し込んだ。私の出来る誘惑は金か胸を使ったものしかない。
リゾットは黙って芋を洗ったあと、卵を茹でる私には目もくれずに言った。
「お前はもうそれ以上何もするな」
金も胸も却下されてしまった。何をやっても意味ねーから!ってことか?それとも好意的に解釈して、これ以上私が色気を出すと耐えられないって言ってるのかな?純情なリゾットちゃんも非常にベネ。そっちであると思いたい。しかしこの冷静極まりないチームリーダーたる横顔を見るに、私の魅力はどうでも良さそうだ。ちくしょー、情熱思想理念頭脳気品優雅さ、そして何より、いやもう速さとかじゃなくて全部が足りない!
「何をしたらスマートに誘われてくれるの?」
「腹が減ってるんじゃないのか?」
空いてます。
「知っている。……ついでに海老を取ってくれ」
もう完全に受け流されている。

どこまでも追いかける気概だけはあるが、追いかけるとご飯が遠ざかるのだなとこのド低脳が薄っすらと自意識過剰な回答を導き出したので手を止めることにした。代わりに海老を渡して、棚の下のトマト缶を開けた。
私が口を閉じると、鮮やかな調理の音がハッキリとする。私は黙っているのも苦手じゃない。料理の連携だけをとって、食卓を整える。
食べ始めてしばらくすると、沈黙に飽いたのか、リゾットのほうから話のきっかけを持ち出して来た。
「ブチャラティ達とは何を?」
特に気になった訳ではないのだろう。ただのきっかけだ。
それを皮切りにまたいつものように私は話をし出して、そういえばねとうっかり興が乗りすぎた。
「ジョルノは口の中でサクランボの茎を結べるらしいよ。やってみたけど、ミスタも私もフーゴちゃんもできなかった。ブチャラティはできてた。なんだろうね」
受けか攻めかという話かもしれんな、という耽美な推察をワインで飲み下す。ブチャラティはキスがうまいということになるな。フーゴたんは絶対短気で損してるだけで、時間をかければできる、と、思ううううわああああやっちゃった。
気づいた時には時すでにお寿司。いや、遅し。
「ち、違うんだよ、ほんと……、今のは何も考えてなくて、あ、いやさっきのも他意があったわけじゃないのよ」
「……」
魚を釣ったと思ったらこれはアジだったかなサバだったかな、みたいな顔をされてしまった。喋っても喋っても墓穴を掘るので、喋るのをやめる選択をする。そして私は人間です。わんわんお。





お風邪

リゾットがどこかから風邪を貰ってきてしまった。たぶん、ギアッチョからだ。
この間流行り風邪をこじらせてゲホゲホ言いながら仕事の報告にやって来たので、そのまま帰すのも可哀想になり、空いている二階の客間で寝かせたのだけど、お世話をしているうちに風邪が拡がったのだろう。季節の変わり目は身体が弱りやすいし、こればっかりはいかにリゾットが理想的かつ実用的によく鍛えられた頑健な肉体を持っていたとしても、どうにもならない。
リゾットが風邪をひいた姿を見るのは二度目だ。一度目のことは、思い出すと今でも頬が熱くなる。弱った姿にキュンとするってレベルじゃなかった。恋を自覚とか、あのタイミングは勘弁して欲しかった。
今回はあの時よりずっと軽い症状だ。少し熱が出ているのも、薬を飲んで寝ていればすぐに治るだろうと、本人も言っている。
けれど、それとこれとはたぶん別の話だ。
「私、自分の部屋で寝るよ。つらそうだし、隣に人がいたら気が散らない?」
私には自室があり、ベッドが分けられるのだから、ここでリゾットの神経に負担をかけるのはおかしいだろう。傍で看ていたい気持ちはある。けれどそれは私のわがままだ。
弱っているリゾットのことは本当に気になる。ディ・モールト、ディ・モールト気になる。気になるけど、気配に敏感な上に優しい彼は(ほとんどの人が、リゾットは別にそこまで優しくねえよと主張するけど、私はかなり優しい人だと思うんだよなあ)近くに私がいれば、何かと気を遣ってしまうのではなかろうか。たぶん。なんとなく。
私は数年前に一度風邪をひいたっきり病気とは縁がないが、もし自分が今のリゾットと同じように臥せったとして、隣にリゾットがいてくれたら、嬉しいと同時に申し訳なくなる。人が全員私と同じ感性を持っているなどと言うつもりはない。でも、自分がそう思ってしまうから、私なんぞより数倍気の遣える男であらせられるリゾットちゃん様はもっとこちらを気にかけてしまうのでは、と懸念するのである。
あと、手負いの獣はなんか近づくとヤバイって聞いたことあるし。
今のリゾットに襲撃をかけたら、いつも以上に念入りに殺されそうな雰囲気だ。
風邪の諸症状に苦しんでいるのか、はたまた苦しんでいる自分に苛立つのか、もしくはさっき飲んだ薬の味を思い出しているのか、リゾットの眉はきつく寄せられ、眉間にしわが寄っていた。ピリピリしていて怖い。や、や、もちろん、怖いから逃げたいわけではないのだよ。理由の一つに、触らぬ神に祟りなし、というのが挙げられるけど、ほら、その程度だ。

リゾットが頭痛の合間に捻り出した答えは、私の提案を否定するものだった。
「……移るかもしれないが、お前さえよければここにいてくれないか?」
なにこのリゾットちゃんかわいい。
そんなかわいいことを熱でちょっぴり浮かされた瞳と、掠れて色気をたっぷり孕んだ声で要求されて、ズッパリと断ることのできるポルポはこの世界に存在しない。もちろんいます!と勢い込んで返事をしてしまった。リゾットちゃんに頼ってもらえた喜びにへらへらと頬が緩んでなかなか収まらず、不謹慎にだらしない表情を引き締めるのに苦労した。

うるさくしないようにしないように、と心がけつつ、リゾットの部屋で過ごす。リゾットの顔を見つめているだけで心が和む。特にこんな姿を見ていると、胸に熱いものがこみ上げる。いわゆる胸熱。
だって、身体の具合が悪いリゾットのレアリティは物凄く高いのだ。これを賄賂に評議員を釣り上げて魔界の議会の多数をもぎ取り新たな提案を無理やり可決させることもできそうなほどに。そのリゾットちゃんをこんな間近で看病する権利が許されているのだと思うと、おおお、震えるぞハート燃え尽きるほど萌える。
二度目の眠りから覚めたリゾットは、ついさっき軽く食事をとり、飲み物を飲んで、また横になったところだ。
私はしばらく無言で文明の利器携帯電話を弄り、メールを打つ。ぱちんと機体を閉じて手を伸ばすと、触れた指先がわずかに汗を感じたので、タオルでそっと拭いてやる。
「手をつなごうか?添い寝しようか?」
「そうだな……」
どっちに対する肯定なんだろう。
どちらにせよ、私がここでリゾットの様子を看ていることに変わりはない。リゾットの手が動いたので、私も手で迎えに行った。握って、枕元に寝かせる。
わずかに、カーテンの隙間から夜の静かな明かりが射し込んでいる。今日はよく晴れて、月が綺麗だった。眠る前には閉めるけど、リゾットは邪魔にならないと言ってくれたので、少しこのまま開いておくことにしたのだ。

音楽もなにもない、ただ私とリゾットの呼吸と、たまに私が本のページをめくる音がする。寝台の電灯の光度を絞る動作は慣れたもので、それはこの寝具を買い替えてから何日もが経っていることを示していた。考えてみると、照れ臭い気もする。だって、二人分の部屋があるのに、あえて同じ部屋で眠ることを選び、そのために新しい家具をいれたのだ。
私は元のままで寝苦しさなど感じなかったし、リゾットに聞いてみるとやはり否定したから、それはそれで良かったのかもしれない。ただ、インドア仕事の私と違い、リゾットは身体が資本ともいえる役目を負っている。無意識下ででも、不自由を感じさせてしまうのではと、勝手に気にしてしまっただけだ。
それでも眠る時はあまり間に距離を取っているとは言いづらいので、結局は同じことか。

リゾットはしばらく眠るつもりはないようだった。
本から顔を上げると、こちらを見つめる瞳と目が合う。どうしたの、と問うと、用があったわけじゃない、といつもより低く掠れた声が答えた。
「風邪の時は、そばに人がいる方が落ち着く?」
何も言わずに見つめあっている内に、ふと思いついたことを尋ねた。
以前にもこうして手を握ったことがあったが、今回も同じことを要求されている。それは普段の、一人の時間を大切にしていそうなリゾットとはまた違う一面のように見える。
「……」
リゾットは一度手を離して、それから違うやり方で私の指に指を絡めた。
「いつもそうだ。……お前がいるから気が落ち着く」
「……あ、……ありがとう」
口説かれたかと錯覚してしまうような台詞だった。臆面もなくさらりと言えてしまうところが、リゾットなのかイタリア人なのか、はたまた男性なのかはわからない。私の知っているゲームの男性キャラクターは言えないツンデレばっかりだよ。
「今日のような日は特に、近くにいない方が気になる」
さみしくなるのか、リゾットが?
求められる喜びに頬が緩みかけて、それに、と続けられた風邪気味の声に、どう微笑めばよいのかをちょっとだけ迷ってしまった。
「万が一、何かがあった場合に、すぐ近くにお前がいれば必ず守れるだろう」
風邪をひいて本調子ではなくても、と言う意味だとわかる。
自分の健康が害されている状況で、優先することが私の安全だとは。
心配してくれる気持ちへの嬉しさと、何事に対しても警戒を怠らない姿勢への感服が混じり合う。万全ではないからこそなのだろう。
「そっか。……ありがとね、リゾット」
彼がそうしてくれるというなら、私も頑張るまで。
うむ、何をって、上手く守られるための心構えを、だ。




@コピペ

会話だけ


「リーダーって生きててなにが楽しいワケ?」
「喧嘩を売っているのか?」
「メローネやめろよ!!さっきしてたのは、"リーダーがナニを好ましく感じんのか"って話だろ!!」
「要するにそういうことだろ?」
「違えー!」
「んで、なんなんだ?」
「そうだな……。ポルポが何かを思いついて口にしようとするも、やっぱりやめておこうかと躊躇してこちらを見ている時、『まだ仕事がしたりないか?』と否定されそうな解釈をして、慌てて拒絶をさせるのは好きだ」
「あんたのポイント難しいよなァ」
「それ楽しいか……?」
「楽しいぜ」
「オメーもやってんのか!」
「もうやだこの2人!」