さばさばメモリアル


人をこぶしだけで三人殴り殺してきた直後に街頭インタビューを受けました、というくらい不機嫌そうで鋭い殺意を感じる写真を眺める。
写真と一緒に保管していた書類も出して、クリアホルダーのつるつるしたページを手持無沙汰になぞる。ざっと読み流し、片耳にホチキス止めしかされていない雑な書類を慎重にめくって二ページ目へ。
いったい何年前の写真なんだろう。初対面で私が受けた印象よりも若い気がする。
クリアホルダーから別の書類を取り出し、クリップで挟んだチープな写真をこれまた眺めた。うん、若いわ。明らかに二十を超えていない。西洋人は年齢不詳だと生まれ変わった今でも思っているけれど、親しい人間の年代くらいはわかる。
これがホルマジオ、これがメローネ、こっちがリゾットで、これはプロシュートか。
証明写真のような角度。しかしこれが履歴書に貼られて送付されてきたら開けた瞬間お祈り申し上げてしまうであろうキレた感じ。もうレンズを通してこっちを視線で殺そうとしているとしか思えない。どんな修羅の道を歩んだらこんな顔つきになるのか、心底から知りたくない。
激しい炎のようなホルマジオの眼光。すべてを拒むイルーゾォのまなざし。メローネの空虚さ、ギアッチョの、本人は決して認めない諦観。
ソルベとジェラートはまったくの他人といったふうで、確かに生まれも育ちも欠片たりとも重ならない。今はあんなに交差してるのにね。
ぴくりとも笑わないソルベの写真と、へたくそなベジエ曲線でできたいびつな弧を描くジェラートの口元が対照的だ。
ちなみに私の写真もある。
自分の写真なんてそんなに面白いもんじゃあないし、健康診断の結果みたいなスタンド能力の分析と身体測定の数値、これまでの経歴がざっくり書かれた書類も無味無臭な紙切れだ。火にかければ燃える。それくらいの価値しかないと思う。これらの書類が残っていることは私しか知らないしぶっちゃけ捨てたいんだけど、いやみんなの分は記念に取っておくけど(これがアルバムを作る親の気持ちなのか?)、自分の過去とか黒歴史じゃない?面白くなくない?やだよ当時より胸がデカくなってるとかどうでもいいもん。このデータつくったとき二十になってなかったからな。成長期だよ成長期。おっぱいも成長するんだよ。夢と希望と愛と友情と信念とストレスをため込んだやわらかいおっぱいだよ。こんなおっぱいファンタスティック!
これが設定資料集とかだったら絶対に身長体重生年月日年齢出身好きな食べもの嫌いな食べもの好きな女子のタイプ休日の過ごしかた将来の夢みんなに言いたいひと言、みたいな欄があるのにね、乙女ゲーの設定資料集だったらもっと詳しく書いてすらあるのにね、悲しいけどこれ汚れ仕事を任される直前か直後の闇夜に紛れる包丁持ったブチ切れニャンコたちの情報資料だからね。身長体重年齢出身で終わるんだわ。スタンドの有無と組織の中で平均化した能力値にどれくらい補正がかかっているかのグラフ、任務の達成率やらそのへんの渋すぎる情報しかない。初恋の相手なんて今でも知らんわ。知りたいけどね。聞くと闇が深そうだしね。過去の女の肖像画を部屋に飾って毎日磨いてるとかそういう極まった感じの暴露があるとさすがのポルポさんもびっくりしちゃうからね。適切な環境下でさまざまな重要人物のDNAを保管している頼れる某スタンド使いのメローネくんの部屋にお邪魔したときに喉渇いたからなんかもらうねーっつって冷蔵庫開けたらおそらく皮膚片か血液を保存していらっしゃいますよねこれ?みたいなラベル付きの容器とこっちのラベルには明らかに男性名としか思えない名前がいっぱいありますけどもしかしてスペルマ的なやつですか?みたいなフィルム入れ的なものがあって硬直する私を見て"あ、その下の段だぜ"って親切にご案内いただいてしまった思い出が脳裏でうなったけどおそらくその瞬間以上のスペキャ顔になってしまうからね。別の段とはいえ血液と精液が保管された冷蔵庫で冷やしたジュースを飲めた自分の神経を疑ったわ。メローネは悪いやつではないのです。悪いやつでは……。本当に悪気がないからビビるって部分は否定できないけど。

それにしたってどれもこれもつまらなくて、見ていて楽しくない写真ばかりだ。笑顔らしい笑顔なんざひとっかけらもない。これっぽっちもない。ノンアルコールカクテルに入っているアルコール成分くらいにない。
つまりないのだ。
なあんにも面白くない。
楽しくない。
今の彼らはあんなにげらげら笑うのにさあ。カメラに向かってなんだその態度は。カメラを向けられて反射的にピースして笑顔を浮かべないってのがまず私の許容範囲外。いやまあ嘘だよ。誇張した。そのへんはどうだっていい。
でも、それにしたって。それにしたってだぜ。こんなに楽しくない写真があるか?こんなに面白くない資料集があるか?私が知りたいのはあんたたちの身長体重生年月日年齢出身好きな食べもの嫌いな食べもの好きな女子のタイプ休日の過ごしかた、好きな映画きらいな映画、晴れが好きか雨が好きかどれも好きかどうだっていいか、頭から洗うか身体から洗うかしばらく滝行ごっこをするか、ゲームはこまめにセーブするほうか一本勝負で挑むほうか、今までで一番興奮した出来事はなにか、一番楽しかったことはなにか、おいしかったものはなにか、綺麗だった夕陽はいつの空のものだったか、そういうことなんだよ。何人殺しただの達成率が何パーセントだの、上玉だろうがおきれいなツラだろうが可愛い子ちゃんだろうが組み分け帽子うらないでどの寮だったかどうかなんて塵芥ほども興味がない。あっ待て待てやっぱり最後のは気になるわ。組み分け帽子うらないでどの寮だったかってめっちゃ気になるわ。懐かしすぎるなそういうの。ノスタルジックに攫われてしまう。
つまらない人生だったっていうなら私が道化になってやるとも。お腹を抱えて笑かしてやる。おいしいものをしこたま食べさせて、いずれチーズ蒸しパンにしてやる。掛け布団でぐるぐるにして"巻きずし一丁!"とかいうクソみたいな遊びも教えよう。ちなみにリゾットはそれを簀巻きと呼びますが雅ではない言い方なのでポルポちゃん裁判で棄却しています。
どんな悪戯を仕掛けようと、私がバナナを断っていると言えば、理由も聞くことなく絶対にバナナを近づけようとしない、そういう人たちなんだぞ。私は知ってるんだからな。会話をするときはよっぽどじゃない限り目を見て話すし(ツンデレちゃんのツンツン状態はむしろ私得だからカウントしない)、朝の挨拶は欠かさないし、食事を味わって"うまい"って言う、その優しさと可愛さと可愛さと尊さとちょっとのスパイスとうっかりした殺意を、私は知ってるんだからな!!近所のおばちゃんみたいに執拗にちょっかいをかけるからな。生煮えの肉じゃがをくっそデカい鍋で煮て唐突にお邪魔することも辞さないからな。覚悟しとけよイケメンども。

ネット通販でデジカメをぽちった。
職業柄、あまり写真は好きではないと思うけど。
ポチるだけなら私の自由だ。

覚悟してろよ、イケメンども。
いつかこんなクリアホルダーは土くれに変えて、ラメペンで写真に書き込みさせてやるんだからな。上司の命令だぞ逆らえると思ってんのか。近所のおばちゃんより強いぞ上司は。
覚悟してろよ、全員な!!!