ジャッポーネで夕食を


長旅で疲れた胃に重いものは悪かろう。そんななけなしの気遣いと季節感からお鍋料理のお店を選んでみたが、こいつら飲むや食うやでまったく胃袋に配慮する様子がない。若さか?
そういう私も、このへこたれない胃袋に気を遣うことはない。ナニを食べても毒以外ではやられた記憶がないので、お肉を追加で注文しても問題ないのですよ。お肉だけじゃなくて明太子とチーズの玉子焼きという定番のおつまみも串揚げも卓に並べてもらったけど。

やがて鍋が空になり、締めの雑炊とうどんを楽しめば、予約した個室の賑わいも治まりかける。あとは疲労と相談をしてちびちびお酒を飲み、ホテルに戻ることとなるだろう。
「なあポルポ、明日はテーマパークに行くんだろ?」
芋の焼酎が気に入ったイルーゾォの頬はほんのり赤い。お酒に強くないのに、度数の強いものを飲んだからか。面倒見の良いホルマジオがちょこちょこと水を飲ませてやっているので、それほどひどいことにはならないだろうけど、部屋に戻ったら眠りこけて動かないだろうなと自分の想像に口元が緩む。普段しっかりした正論を吐き出す人物が、お酒でちょっとふらふらしているところを目撃するというのは、なんだか特別な感じがする。
「そうね、そのつもりだったけど……」
やっぱりせっかく日本に来たのだし、日本の夢のランドにも行っておくべきじゃなかろうか。イタリア住まいの私が日本人の視点で言うのもなんだけど、『海外』のパークとは違う新鮮さと楽しみがあると思う。
イルーゾォは重厚なグラスを置いた。
「俺はこいつとだけは絶対に行きたくない」
指し示されたのは、日本では逮捕されそうな洋服の上からパーカーを羽織り、かろうじてサロペットかな?と誤解されるような服装でくつろぐメローネだった。マスクの奥で青い目を瞬かせ、ニヤリとゆがめる。
「日本にはこういう言葉があるだろ?『嫌よ嫌よも』」
ちらりと視線が向けられたので続きを拾う。嫌よ嫌よも好きのうち、ってやつだね。でもイルーゾォはガチで嫌がってると思うよ。私もちょっと危険だなって思うもん、メローネとテーマパークを巡るの。具体的にいうとメローネを野に解き放つのがヤバい。テーマパークという牧草地に放たれた狼メローネは色んなにゃんこをメロメロメローネにしたうえで荒らすだけ荒らしてケロッと戻ってきそうなそんな香りがする。メローネに偏見を持ちすぎだろうか。この子の恋愛の遍歴には詳しくないけど、又聞きした限りではかなりとんでもないぞ。
「違えよマジで嫌なんだよ!!ソルベとジェラートも嫌だからな、ぜってえ面倒なことになって疲れるのが目に見えてる!」
「でもイルーゾォ、まともな人材の分配は公平にやらないといけないじゃない?」
「そうだぜイルーゾォ、ポルポの采配に任せろよ」
「女王さんなら間違いねえって。なー、ポルポ」
ジェラートが残り物の鶏軟骨揚げを私の口に押し付けて来た。食べる。
前にも思うし最近は特にそうだけど、君たちは私を買いかぶりすぎている。私だって間違うことくらいある。つい一昨日は、絶対いけると思って余裕ぶっこいて歩いてたら青信号を逃してしまった。え?そういう話じゃない?知ってる。