本棚の奥の


すごいものを見つけてしまった。
私は手の中にある、一冊の本を見つめる。
紙のカバーがかかっている、薄くも厚くもないB6版ほどの大きさで、何度か開いた形跡がある。
元々は、リゾットの部屋にある、映画のパンフレットを探していただけだった。本棚に入っていた数冊を取り出して、さてどれが目的の物かなと表紙を見る。あった。
残りのパンフレットを棚に戻そうとした時、私の目にふと、奥に静かに入れられている本が目に入った。
「(ここに本を入れてるなんて珍しいな。読む時大変じゃない?)」
気になったので取り出して、パンフレットを本棚に軽く入れて、カバーのかかった本を大きさを測る。うんうん、私もこれくらいの本結構持ってるよ。
部屋にある物は自由に読んでいいと言われていたので、小説の内容をパラ読みする程度の気持ちで表紙をめくった。題名が目に飛び込んできた。
「("けがされたオフィス −恥辱に染まる金−")」
これは。
三回読み直して、ページを三分の二までパラパラと進めた。

「いやだっ、一度だけだってっ、誰にも言わなかったら写真を消してくれるって!」
無防備に開かれ、今は男によって閉じることを許されない扉から、彼女は離れることができない。ノブを捨てれば、男が侵入してくるとわかっているからだ。
「そんなことを律儀に信じていたとはな。……けれど、ひとつ確かなことがある」
男の声から、わずかに冷たさが消える。彼女はハッと、冷や汗のにじんだ顔を、ノブから男に向けた。
なにを言うのだろう、確かなこととはなんだろう。女の混乱した頭では的確なことはわからなかったが、声音の変化に反応した。もしかすると、このまま懇願を続ければ、諦めてくれるのかもしれない。
期待に反して、男は、扉の隙間に挟んでいた足に力を入れた。集中の分散した女の力では、開くそれを止めることができない。
「俺はひと言も、一度で終えるとは言っていない」
ザッと音がきこえるほどの勢いで、彼女の顔から血の気が引いた。目は大きく見開かれ、聞こえた言葉が理解できた瞬間に表情が恐怖に染まる。少しでも身を小さくして己を守りたいのだろう。青白くなった細い腕が、指が震えながら口元に当てられていた。それだけでは、歯の根がなる音は隠せない。

開いたページを数行読んで、続きが気になったので、いつものようにベッドに腰掛けた。パンフレット?後後。後に決まっている。こっちのほうが絶対面白い。
タイトルで察してはいたが、二ページを読んだだけではっきりわかる。もうこれは最初から読むしかない。メリルちゃんはどうなるの?この男は何者なの?
目次に目を通した時、部屋にリゾットが戻ってきた。手にはおぼん、その上には二つのカップがある。
「ありがとう」
「ついでだ。パンフレットはあったか?」
「うん」
あったのはパンフレットだけじゃないけど。
リゾットが椅子に座ってカップに口をつける。私のカップも、リゾットの机に置いてもらってるよ。ベッドサイドにあるのにね、小さい物置き場。まあ、どうでもいいことだ。私はリゾットの机に―――リゾットに近づく理由ができるしねえ。
本に目を落として、ページをめくって、わあこれ出だしからフラグびんびんじゃないの。
「パンフレットはいいのか?」
お目当ての物を見つけたのに、横に置いたまま別の物に夢中になっている私を不思議に思ったのか。リゾットは立ち上がって、私の隣に腰を下ろした。いつものこと。いつもは私がやることだけど。
「んー……こっちのほうが面白い」
「ふうん?」
ふうんいただきましたー!!
リゾットは、手をつけられていないパンフレットを開いた。私はリゾットにちょっと寄って、肩にもたれた。これな。これな。暑くない時期だしいいだろ。あれ?暑い時もやってるわ。リゾットが変温動物だから仕方ない。夏はそれなりにあったかいけど。冬もそれなりにあったかいけど。あれ?恒温?
もくもくとページを進めて、とうとう"男"が現れた。
どうやら"彼女"―――メリルは出版メーカーの中間管理職らしく、男だらけの管理職の中で必死にくらいついているらしい。努力家な彼女には笑顔が絶えず、それを人として好ましく思う社員も多いとのこと。ポイントはそこだろう。気丈な精神がぼろぼろになって、笑顔が陰るようになる。メリルちゃーん!!!
「はー……」
じっくりと、巧みに、細かく、繊細に表現された一度目を読み終えて、章が切り替わる。私は息をついた。これ、このイタリアにおいてのクオリティが高すぎる。こんな題材なのにね。
「リゾットってさー」
インタイトルを縁取る模様も細かい。
「凌辱モノが好きなの?」
「……」
パンフレットをめくろうとした手が止まったので、あっこれ直接きいたら可哀想だったかな、と一瞬申し訳なくなった。
「……なぜ?」
パンフレット閉じちゃったよこの人。
本を開いたまま膝にのせて、リゾットの目を見ると、意味がわからんと言いたげに赤い色が細くなっている。ですよね。
「凌辱モノの小説を見つけたから……」
これ、と指さすと、リゾットは沈黙してから、本を手にとって、私が読み終えた部分に指をはさんだまま、そこまでをパラパラパラーっと読んだ。読んだの?もう、"見た"ってイメージだよね。早え。
「何回か読んだみたいに見えたし、読んでみたら確かにグッとくるし。凌辱は現実じゃ無理だもんね」
イエスフィクションノー現実。
もう一度始めからパラパラと進めて、私の続きを通り越して最後まで読んでしまった。そのまま、ベッドのリゾット側に遠ざけられた。
「まだ途中なんですけど……大事?お気に入り?」
「気にしてどうするんだ?」
否定しない……だと……?
「オススメを貸そうかなって」
「……いらないし、大事でも気に入ってもいない」
へえ。
はあ、とため息をつくと、リゾットは本棚を見た。
「そもそもこれは俺のじゃない」
え?なんで人のエロ小説を本棚の奥にしまいこんでるの?
「じゃあ誰の?」
「メローネだ。……初夏、のあたりで渡してきた」
「メローネか!いいセンスしてるなと思ったら」
安定してるねあの子は。買ってきたエロ小説をリゾットに渡すとは。そしてリゾットは、いらないなら返せよ。なんで本棚にしまってるんだ。しかもあんなところに。まあ今まで気づかなかったってことは有効な隠し場所だったんだろうけど―――あれ?前に私、エロ本どこに隠してるのってきいたことあるな。はぐらかされたけど、あそこだったのか。
視線が私に戻される。
「内容を確認するために一度読んだだけだ」
え?これは事実を言っているのか弁解しているのか、どっちかな?弁解だったら可愛すぎるな。
「面白かった?」
「……」
じーっと反応を待っていると、リゾットは私の目を見たまま首を振った。
「興味はわかなかった」
「(まじか)」
かなりのごにょごにょ具合だったのに。趣味じゃないのか。それとも非常に淡白なのか。
「ただ……」
「"ただ"?」
リゾットが、すうーっと目を。まあ細めますよね。怒ってはいないようでなによりです。
「メローネがこれを持ってきた理由はよくわかった」
「(まじか)」
どの要素が好みなのかな?
「オフィス?」
「いや」
「無理やり?」
「こだわらない」
それはこだわれよ。シチュエーションの好みはかなり大きいぞ。ジャンルだよ。
「後半まだ読んでないんだよねー。うーん、"メリルは、望まないのにも関わらず太ももを伝うものの感触に、涙があふれた。"?」
「かなり限定的だな。ありがちだと思った」
ありがちだとわかるほどこの手のモノを読み込んでるの?
「メローネにわかるリゾットの好み……?おっぱい……?あ、おっぱい!?メリルおっぱいデカイ!」
リゾットがちょっと黙った。
「おっぱい?」
「……メローネがこれを選ぶ理由の中にはそれもあっただろうな」
おっぱいはあるのか。メリルちゃんは結構大きかったよな。
「どんぐらい?こんくらい?」
手で、リゾットの手を自分のおっぱいに当ててみた。そうだな、と、ものすごくどうでもよさそうに言われた。でも軽く揉まれた。
「だから、下着をつけろと言っている」
「(しまった……)」
だって家だろここ……。
気を取り直して、リゾットの萌えポイントだ、萌えポイント。
「キャラ?」
「……そんなに気になるのか?」
「(なるなる)」
でも、この様子じゃ素直にきいても教えてくれなさそうだ。"そう思うか?"とか"どう思ってるんだ?"とか"そうだな(すんっごく面倒くさそうに)"とかでスルーされるだろう。
オススメ貸すとか言ってるからいけないのかもな。ここは適当に、リゾットが気を緩めそうなことを……?
リゾットが気を緩める時ってあるの?寝起き?眠くてもナイフ投げさせたら一級なんでしょ?ご飯食べてる時も、使ってるフォークで相手刺すでしょ?あれ?気の緩みって問題じゃない?
「(気の緩み……私のおっぱい触っててもどうでもよさそうだしなー……おっぱいの癒し効果がきかない奴……)」
「知ってどうするんだ?」
「ただ気になるだけ。好み知らないなーと思って」
あ、でも、全然好みじゃないやつと付き合うタイプじゃないよな。てことは私は少なくとも何かには当てはまっているのかも。
私の特徴か。おっぱいか。近いみたいだし。メリルと私の共通点で考えてみると。
「中間管理職?」
「……」
「(黙るところか?)」
近いのか?"もしかすると俺はリゾットの真実に近づいているのかもしれない"……?
「メリルはー……」
「ポルポ、深く考えるな。……もういいだろう?」
「えー……」
気になる。すごく気になる。
気になるけど、嫌がってるなら、これ以上詮索するのは悪いな。イルーゾォにも言われたし。"嫌がってんのがわかってる時は引け"って。
「……うん、じゃあ、やめます。ごめんね」
「怒っているわけじゃない」
突き詰めすぎて嫌われたら目も当てられないというか私のメンタルが死ぬ。
なにを思っているのかしらと、角度的に下から覗き込むと、肩に腕が回された。私の肩がナデナデされる。よ、よし、まだイケてる。許容範囲だった。
自分に"まだ大丈夫俺は許せる俺は許せる"って言い聞かせてるんじゃなければ。あー……。
「その話はやめるとして、私は今まで気がまわってなかったんだけど、やっぱり私、自分の部屋で寝たほうがいいもの、なのかな?」
夜的な意味で。
「あっ、で」
「しなくていい」
「(早い)」
でも逆に変かな、と言う前にきっぱり断られた。提案書を提出したら、こんな企画に金が出せるわけがないだろうって書類投げられる感じで。
「いいっていうなら遠慮なく」
「そうしてくれ」
「でも、そうするとむらむらしたらど、……」
お風呂場か?と考えた瞬間に気づいた。
「……続きは?」
「い、いや、べつに……ど、どうもしませんよね……どうでもいいことですよね……」
自爆したので、そそくさと目をそらした。くそっ下ネタで。自家中毒か。
「メローネがこれを渡してきた理由が知りたかったようだが」
「あ、はい」
ほっぺに触られた。肩から手が離れる。離れるといえば、そういやあさっきから手が胸に当てられたままだったわ。抵抗しない男、リゾット。
「前はそういう印象を持つことはそれほどなかった」
「(その"それほど"の中身が知りたい)」
目を合わせると、すっと近づいてきたリゾットにキスされた。え?さっき頬に手を当てたのはこの伏線?イケメンかよ。今してた話、君の好みの話だけども。
あと、くっついてるの長い。体重かけられてる。私、尻が傾きかけてる。志村ー!尻尻ー!息もできませんが。息もつけない恋?
少し離れてくれた。フハー。
そのまま、近すぎるままリゾットさんのお言葉。
「六年前から、好きになった女だけが好みになった」
「……」
こいつイケメンか?
すごく驚いて驚いて驚いた(この人の口からそれが出るのか、と)し、理解して、わあすごく嬉しいなと思ったし、同時に「アレ?結構重要な立ち位置だったな私」とか思ったけど。
話を元に戻してみると、メローネがあのエロ本をリゾットにあげた理由だ。メローネが、リゾットの好みがアレだと思った理由だ。
「それ」
「……」
いわゆる。
「メローネにはバレてたんだ?」
いつから?あのリーダーの内心を見抜いていたのだろう。見抜かれて、このエロ本を渡されたリーダー。一度読んだリーダー。
「知らなかったのはお前だけだ」
「(まじか)」
みんなすごいな。私がダメなの?あと、会話するのにはまだ距離が近いのでは?
「でもアレには興味がわかなかったの?」
「そうだな。語彙が多いなと思った気はするが」
「……なんで?だいたい特徴一致、してない?自分で言うのも、ちょっと、アレですけど」
事情を知ってから考えると、自分に似た特徴の女性が凌辱されてる話なわけで、私の特徴はリゾット的には、えー、初夏の頃だから好みだったわけで。ていうか初夏かよ。同居してるじゃん。マジで勇気あるなメローネ。
「特徴が似ていてもお前じゃなければ何も思わない」
「……そりゃ、ありがとう」
どこでそういうセリフを覚えるんだろうね。そしてその生き方難しいね。二十代なんて繊細なモンだと思うけどね。
「(ろくねん……)」
この人スゲーなと改めて感動したので(何にだ?愛か?自分でもわからん。でもこれきゅんときた。自分のツボ!どこ!)、間の距離はこっちから詰めた。やっておいて照れたので離れようとしたら、ほっぺにあった手でおさえられて失敗した。デデーン、ポルポ、アウトー。

まじでアウトだった。


0.5

アパートに行ったら、メローネとギアッチョがいつも通り兄弟みたいに遊んでいた。
「おかえりポルポ!」
迎えの言葉を言ってくれたメローネは、ギアッチョに思いっきり踏まれて床に倒れているわけだが。
「ただいま」
スルーするのが大人というものだろう。
ギアッチョにも「ただいま」とへらへらすると、「オウ」と言ってくれた。かわいすぎるやつめ。このこのー。
三人でおやつを食べていて、メローネが年齢制限のかかる話題を持ち出して来たので(それを余裕で閲覧できる年齢になってるっていうのがまた自分の悲哀を誘う)、ギアッチョがキッチンにいっている間に、一応是非だけ聞いておこうと思って、隣にいる金髪ちゃんに声をひそめて尋ねた。
「今年の夏前なんだけど、リゾットに、私と特徴が似てるキャラが出てるエロ本渡したって本当?」
ん?と私を見たメローネは、私の言葉をあっさり肯定した。
「渡したよ」
キッチンから「キメェ話すんな!」と文句が飛んで来た。だから君がそっちに行った時にきいてるんじゃんか。みんな耳良すぎ。
「それって、つまり私に似てるキャラをオカズにしろってことでしょ?なんて言って渡したの?」
「"同居してたらもう代わりをつかまえる気にもなれないんじゃないかい、かわいそうだからこれあげるよ"……だったかな?」
かわいそうとはまた、勇気あるね。あと代わりって。
ナニを言っているのかわかってしまうけど、それこそエロ本どころじゃなくリゾットと私のダメージになるからやめておいた。リゾット、非常に申し訳ありませんでした。
「だってさあ、ポルポと同居してさあ、初めっから一緒に買い物とかも行ってたんだろ?四六時中一緒にいて、食事も掃除も仕事も風呂上りも寝起きの姿も見て、ポルポはリーダーをカワイイぬいぐるみみたいに扱ってべたーっとくっついたり、密着したりで警戒してなくてむしろ好き好き言ってて、それに大抵ノーブラだったんだってね。羨ましい。俺にもやってほしかった。やってくれるかい?」
「ノーブラで抱きつけばいいだけ?」
「俺がリーダーならひと月と我慢しないね。まあ、俺がリーダーだったら六年も我慢しないんだけど」
「さすが!」
「二股かけるなら俺にしなね。リーダーのほうを二番めに変えてやるから」
その自信はどこからくるんだ?経験則か?どんな恋愛を楽しんで来たんだろうね。でも、どこかの女性の不倫相手がメローネって想像しやすい。年下のかわいくて格好いい端正な青年との疑似恋愛を楽しむマダム。あるな。
ギアッチョが、りんごジュースを持って戻ってきた。こちらをじっとりと睨みながら席につく。りんごジュースの匂いが向かいの私にまで届いているよ。
「その本ってよお、オメーが俺に意見きいてきたヤツか?」
「そうだよ。俺が音読してやったヤツ」
「頼んでねえし気色悪くて途中で出てったよな?メローネキメェ」
「途中まできいてたのがあんたのイイトコだよな!別の理由で自分の部屋に帰ったのかと思って追っかけなかったんだぜ?さすがに気を遣うだろ?」
勇気あるね。ギアッチョにそんなこと言うなんて。
案の定ギアッチョは、ブチ切れもせずに心底まで凍りつくような冷ややかな視線を向けた。めげないのはメローネのメンタルが強すぎるからか、そもそもそれをご褒美と感じているからか、どっちなの?"「良好」"だし、興味と仕事のためならテンションクソ高くてウイスキーとか飲んじゃってたもんね。ちょっとズレたか。
「途中までしか読ませてもらえなかったんだけど、そんなに似てるかな?金髪でおっぱい大きかったら誰でもいいの?」
描写を思い出して言うと、メローネは憤慨したようにぶすくれた。
「それだけじゃねえもん。吟味したんだぜ。まず、その通り、ふわふわした金髪と張った胸だろ?それから、いっつもブラウスと、ビジネスっぽいのにカジュアルな膝上のスカート。俺はミニから変えなくてよかったと思ってるけど。それから立場も、厳しい男社会で唯一の女性管理職。パッショーネの幹部ってのと近い。そしりにも嘲笑にも大人の対応ができて、性格も、いっつもニコニコ笑ってるタイプの明るさがあって少なからず仕事仲間に好かれてる。俺らとかあっちのヤツらみたいにね。プライベートでは、控えめでも肉食でもないっていうのは半分外れだけど、甘いものが好きっていうのはまあ、共通してると言えなくもない。この設定は後から、"食事も、好物の甘いものも、恐怖と不安はその味を砂のように変えた"につながる」
立て水のようにペラペラと説明してくれた。そう言われると似てる部分もあるな。管理職とはうまい言い方だ。企業戦士な私たち。
悪口には大人の対応をしているのではなくそもそもなにも感じていないだけだよメローネ。
知ってるけど、そんな主人公なかなかいないぜ。
それもそうか?
「こいつ、野郎にもこだわってたぜ。よくそこまでの本があったっつーモンだよ。オメーが書いたんじゃねーのか?」
「俺ならもっとあざとく書くよ」
「あーメローネキメェ」
思わず笑った。毎日こんなやりとりしてるもんね、このふたり。文句言いながらも付き合ってるギアッチョは、メローネのことが嫌いじゃないんだとわかって、なんだか胸があたたかくなりますなー。
「男のほうはリーダーをイメージしたんだ。凌辱モノは、立場的にも、リーダーがやってられなくなったらそうするしかないだろ?」
「(リゾットはその選択はしないと思うけどなあ……?)」
「ぶっちゃけポルポを逃げらんなくするのって、俺たちにしてみたらカンタンだし。信頼があるから、何か理由があるに違いない、って思って、最初は抵抗してたけど、むしろ母性発揮しちゃってリーダーを逆に追い詰めるトコロ、容易に想像できるし」
「オメーはアリそうだな。あーメローネキメェ」
それは語尾なの?
「逆に追い詰めるというのはー、いわゆる、"いっそ嫌いになって遠ざけて逃げてしまって追いかけられなくなってほしいのに、相手が理由はどうあれ自分をすべて受け入れようとしたのでウオアア"?」
「近いと思うぜ。リーダーなら俺とおんなじで鳥籠エンドをつくっちまうかもしれないけど?」
「それセオリーか?ナンデわかってんだよオメーはよお。メローネキメェ」
鳥籠エンドとかよく知ってるなこの子は。日本のエロゲも勉強してるのか、イタリアにそういうのがあるのか。進化してますからね、時代も。世紀末越えたし。そして今の"メローネキメェ"はそれこそ言われのない誹りなのでは。
「で、男の話だけど」
「うん」
「白い髪に赤目はさすがにムリだったから容姿は違うけど、主人公ポルポとはだいたい、うーん、15cmくらいの差がある。これは確か、壁に押し付けられるシーンでポルポの視点がどこにあるかが書かれてたと思う。あんたもそれくらいじゃなかった?もーちょっとかな?」
「主人公はメリルですよ」
「感情移入できるかなって」
感情移入が必要とは思えませんなメローネくん。なぜ擬似的に犯されねばならんのだ。
「男は口数が少ないけど、メリルを追い詰める時は愉しみを感じて言葉を選んでる。まあそれはゆがんだ愛情の結果で、最後は逃げ道を失ってボロボロになったメリルに手を差し伸べることで依存とも言える信頼を得て、メリルにとっても、メリルの笑顔とか、笑顔が崩れて自分にだけ向けられる恐怖の表情とか言葉もすべて愛していた男にとってもかりそめのメリーバッドエンドになるんだーけど、まあいいよな。その男の口調がなんとなくリーダーに似てた」
「そんだけ?」
「同一視できないキャラが好きな人を模したキャラに手をだして手ひどくヤって最後にはずっと一緒にいることになる。それを読んで、ディ・モールト不愉快なのに、ポルポに似たキャラの無理やり引き出された痴態には目を惹きつけられてしまう。この矛盾がイイかなって思って」
「メローネキメェマジで星に帰れ」
こだわりがあるのね。そして善意じゃなかったのね。あ、いや、これがメローネの善意なのか?
「リーダー、いっぱい読んでたかい?気に入ってる様子だった?」
ディ・モールトわくわくしていたので、伝えられた事実を正確に答えた。
「一度読んだきり本棚に放置してたんだってさ」
残念がるかと思ったら、メローネはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべた。
「へえ、読んでも捨てなかったんだ」
そう言われればそうだな。メローネに感心したわ。着眼点はそこか。