05 とける


肯定を返されて、リゾットは視線を落とした。そうか。
意味のないくだらない質問を、ふと思いついて投げかける。それは男か?
「うん?うん、男の人……めっちゃ、……」
"めっちゃ"、何だというんだ。
冷静を装った自信はあった。握られていた手をほどいて、両手で、ポルポの輪郭を包む。
「それは誰だ?……ポルポ、お前が好きだという男は、誰なんだ?」
ゆっくりとポルポが目を開いた。リゾットの、血を一滴落としたような赤の瞳と、ポルポの、潤んで薄くなった夕焼けの瞳がかち合った。
その一瞬、夕焼けの焦点がはっきりとリゾットをとらえた。
「!」
まさか、覚醒したはずはない。理解していても、心臓が大きく脈を打つ。
すぐに瞳はぼやけ、ポルポの、白くて華奢な手がリゾットの腕を撫でるように、肘から上腕、そして肩へ滑る。リゾットがそうしているように、柔らかな手が彼の露わな輪郭に添えられ、指先が首筋に触れ、親指が目元を撫でた。酔っていつもより暖かくなった、しっとりした手のひらに気を取られる。愛玩の表れなのだろうか。寝ているポルポに声をかけると、寝ぼけながら「なんだ、ただの猫か……」と呟くことと同じく、ふわふわと霞のかかった思考でリゾットを猫か何かと勘違いしているのかもしれない。
そんなことがよぎって、それから開かれたポルポの唇に、愛おしげに細められた瞳に視線が戻った。
"誰か"への愛に満ちた、そんな目を、向けないでくれ。
苦しげに眉根を寄せたリゾットには気づかず、ポルポは言った。優しく、愛に満ちた声だった。
「誰よりもリゾットがすき」
「……、……」
ぽかんと目を丸くしたリゾットを見られなかったことを知ったら、ポルポはとても残念がっただろう。膝を打って悔しがったかもしれない。

リゾットは、ポルポがいったい何を言っているのか、ふたたびかみ砕けなかった。惑うようにリゾットの手がポルポから離れた。
聞こえた言葉の理解はできていた。けれどそれと現実がリンクしなくて、つい、「ポルポ」、と訊き返してしまった。
「質問の意味がわかっているか?」
「はい?」
ポルポはリゾットの首を指の背中でさりさりと撫でながら、怪訝そうに眉根を寄せた。
「好きな人、誰、って、きいたじゃん……?」
「……そうだな。訊いた」
肯定すると、ポルポは眉を戻した。
「だから……、リゾット、って、こたえたのよ、私……」
ぽろりと、こぼれそうなほどにじんでいた瞳から雫が落ちた。きゅう、とリゾットの顎の下で手が握られる。堪えるように眉間にうっすらしわを寄せて、けれど眉尻はなさけなく下がっていた。
ポルポはぽろりと落ちる涙を止めようともせずに、顔を隠すように手でリゾットの視線を遮った。ひっく、としゃくりあげて、うう、とうなる子供のような泣き方に、リゾットは咄嗟にポルポの薄い肩を支えた。ほんの少し遮蔽の腕が下りて、赤く染まった目元と、堰を切ったように零れ落ちる涙が見えた。
「ポルポ、……」
言葉が浮かばなかった。
迷うように浮いたままのリゾットが手を握りしめられる。惑ったリゾットの視線は、落ちた涙がシャツに吸い込まれるのを追った。
泣きながら、しゃくりあげながら、嗚咽を漏らしながら、彼女はとうとう「うわああん」とリゾットの手を抱き寄せて、抱ききれずに額に当てて泣きだした。
「好き、好きな、の……きづいちゃったの、私、どうしても、……どうしてもリゾットのことが、うう、好きなの。どうし、て、リゾ、う、ううう」
「…………」
目標、完全に沈黙。
リゾットは考えもしなかった展開に、とてもとても驚いていた。

ポルポが泣くことはとても少ない。なにかにひどく恐怖した時や、トラウマのフラッシュバックでわずかに涙ぐむことはあっても、こんなふうに声を上げて泣いているのを見るのは、リゾットにとって2回目だった。
今は放棄されたアジト、リゾットの借りている一室に駆け込んできたポルポが、堪えるように涙して、声をかけたリゾットを見た瞳がひどく安堵したようにゆるんだのを覚えている。思いきり飛び込んできた身体が思っていたよりも弱弱しく、感情のまま吐きだされた泣き声が鼓膜を揺らして、ああ落ち着かせなければ、とすとんと理解して背を撫でた、あの記憶。

ポルポはまた、泣いている。喉をひきつらせて、決して大きな声ではないのに、なにより胸の底を騒めかせる音だ。そこに、確かな歓喜がようやく染みだした。水に紙の端を触れさせた時のように、じわりじわりと、その感情はリゾットの、あまり動かない表情を、目元をほんのり緩ませた。感情の処理に困ったように眉根を寄せて、細めた瞳で、愛に泣いている女を見る。リゾットへの愛に泣いている女の、ポルポのその姿を。
ポルポが顔を上げた。
「でも、……でも、リゾットに迷惑かけたくないんだよ、私、……じょうし……めんどくさい……で、でも、じゃあどしたらいいわけよ、リゾット」
「迷惑とは、…………とりあえず、過呼吸になる、落ち着け」
「おち、おちついてられないわよ、ばか!好きなのよ!!……どうしたらいいの、……リゾットに嫌われたくない、ずっと一緒に、一緒にいたい……」
細い腕が頼りなく伸びた。リゾットは、距離を詰めて彼女の肢体を受け止める。より深い接触を望むのだと全身で訴える。リゾットの脚を跨いでソファに膝をついたポルポの縋るような力を受けて、リゾットは、それよりもずっと強い力で抱きしめ返した。目を閉じると、濃厚なアルコールのなかに、確かに彼女の匂いがあった。
1oたりとも隙間はなく、ただ無言で抱き合うだけだ。それだけだった。それでよかった。
リゾットの中に凝っていた苛立ちや寂寥が消えていく。花開くように、そこに新しい心地が生まれた。
ふたりは、示し合うことなく、どちらからともなく腕の力を抜いた。リゾットの太腿の上に、ポルポが座っている。いつもの体勢だった。
「りぞっと、今だけでいいから、明日からはちゃんと、わすれ、わ、すれるから、今だけ、好きなのを、ゆるして」
ポルポはまだ泣いていた。勢いのおさまった滴が時々頬を滑り落ちる。赤くなった目元と頬とを撫ぜる。
「それは、ダメだな」
「……う、……うん、ご、ごめん……」
「最後まで聞いてくれ、――……」
何と呼べばいいのか、リゾットは正しい答えを知らなかった。ポルポという名前の後ろに隠されたそれを、いまだ彼は手に入れられていない。
だから、彼女の額に自分の額をこつりと当てた。
「ちゃんと聞こえているか?」
「うん、……きこえてるよ、リゾット」
彼女を酔わせたのは自分だったし、その配分を間違えたとは思っていなかったが、リゾットは確かめた。そしてふらついた声でしっかりと返事をされて、そうか、と瞼を伏せる。
開くと、間近に夕陽の色があった。
「俺はお前が好きなんだ」
「…………え」
ポルポの呆然とした声が落ちた。
「聞こえたか?」
「……あの、……」
額が離された。見ると、驚きすぎた彼女の涙が止まっていた。いいことだ、とリゾットは涙の残滓を指で拭ってやった。その指の動きを、彼女の目が追うことはない。じっとリゾットだけを見ていた。
「ええっと、……あの、……」
「いつからだったのか、俺にはわからない。気づいた時にはもうお前の存在が当たり前だったし、笑っていると安心した。メローネや、ペッシであっても、あまりにもお前があいつらと、そうだな、近づいていると、あまり心地はよくない」
「あの、リゾット」
「風邪で倒れたお前を客間に寝かせた時、メローネとギアッチョも部屋で休んだが、正直に言うとあの時は眠れなかった。仲間であっても、他人がいると落ち着かん」
「……あ、だからなんか眠そうに……」
リゾットは頷いた。
「冬に、お前が俺のベッドで寝た時にはどうしようかと思った。不思議と眠れる気はしていたから、それはどうでもいいんだが、お前にとって俺は落ち着く相手で、よく癒されに来た。それはまあ構わないが、例え落ち着く相手だったとしても、……男の部屋で、男のベッドに寝転んで無防備に寝るのはどうかと思う」
「えっと、……ごめん?それ……めろね、にも言われたような」
「どういう状況だったのかは後で聞こう」
「は、はい」
リゾットの眼差しがきつくなって、ポルポは肩をすくめた。
いくつか与えられた情報を段取り悪く整理して、ポルポは戸惑ったように首をかしげる。
「んーと、……私は、リゾットが好きなんだけども」
「あぁ。……あえて呼ぶが、ポルポ。俺も、お前をとても好きだ」
「……あ、ありがとう。……えっと、どちらかっていうと、あれ?私、……あれ?これでいいのか?」
ポルポが首をかしげた。だんだん酔いが醒めて、意識がはっきりしてきたのだと、リゾットにはわかった。彼女がわずかに頭を振って額を押さえる。聞こえた言葉が幻聴じゃないか、ぱちりぱちりと瞬きをして確かめる。
「何が問題か言ってくれ」
冗談めかしてなどいなかった。真剣に、リゾットはポルポの頬に手を触れた。
「私、……26歳で初恋ですけど……めんどくさい、です、よ?」
「俺は28だ。……こういう感情は初めてかもしれないな」
「マジか、リゾット、どうていか?純情なりぞっとちゃん……」
「ああ、だんだん素面に戻ってきたな」
「……」
涙や酔いのせいだけでなく、ポルポの頬が赤くなっていった。両手で顔を覆おうとしたので、リゾットは片手でそれを押さえこんだ。彼女は情けない声をあげて、自分を見つめてくるリゾットの視線から逃げようと、混乱した思考でリゾットに抱き着いた。
「(やはり酔っているな)」
酔っていてよかったとも思う。正気だったらどうするか、ポルポの行動は予想がつかないが、もしかしたら土下座を始めたかもしれない。
以前、ポルポはリゾットの部屋で一度だけ土下座を披露した。ニヤニヤと面白がるような視線に見送られたので何かあるとは思っていたが、まさかベッドに横になったリゾットの布団を?いで馬乗りになり服をめくってくるとは、さすがに思わなかった。指先が腹に触れて、くすぐろうとしているのが判った。しかしまさかそのまままさぐらせるわけにもいかない。
リゾットは逆にポルポを押し倒して、今後こんなことを思いつかないように思い知らせるつもりだったが、つい興が乗った。当人に全くその意図はなく、純粋に死にしそうなほど笑って苦しんでいたのだろうが、彼女から飛び出る普段とは違ったその声をもう少し長く聞いていたいなと思ったことはリゾットの胸にしまわれた秘密である。そのあと煩悩に苛まれるのは自分だったけれども。

ぐりぐりと額を肩に押し付けられて、リゾットはようやく、壁を眺める余裕ができた。
大切なものは腕の中にある。それで充分だった。
もぞり、とポルポがリゾットの肩に手を置いて、身体を起こした。暴れだしそうな心臓を呼吸を整えてなだめる。ポルポは、また潤んだ瞳をぎゅっとしかめた。
「リゾット、……私はあなたが大好きです」
リゾットが目を細める。それが喜びや、愛しさや、色々な感情を表すしぐさだと、ポルポは知らなかったけれど、とても綺麗な瞳だと思った。ずっと見ていたいと思った。
「ずっと一緒にいたいって、誰かひとりに対して思ったのは初めてで、……重くてごめん……。……でも、……」
重いなどと思うと考えてしまうところが、ポルポの弱いところなのだろう。リゾットは黙ったまま、ポルポの震えた唇からつむがれる言葉を待った。
「リゾットの人生、……もらったままで、もっとずっと抱きしめて持っていて、いいかな」
睫毛に滴をため、唇を引き結んだポルポがそう言った。
リゾットは彼女の頬と腰を手で支えて、何も言わずにキスをした。
びっくりして身を固くしたポルポの唇がリゾットのそれについばまれるように何度も触れて、ちゅ、と音を立てて少しだけ離れる。
「えっちょ、あれ、いまの私のファーストキ……」
残りの言葉は、音になる前に舌に溶けた。


0.5

二日酔いだ。完全にこれは二日酔いだ。誰だよ酒飲んだの。私だ。
「う……いてえ……」
呻いて額を押さえて目を開けて、はた、と気づいた。
部屋暗くね?
私の部屋のカーテンは遮光性が高くないので、日が昇るとすぐに明るくなるのだが、この部屋はとても暗い。あれ、なんか知ってる暗さだな。
というか。
ビビりすぎて、私は思いっきり目を見開いた。なに、なんで隣にリゾットが寝てんの?私、思い詰めすぎてとうとう寝こみを襲った?昨日何があったっけ。頭が痛んで思い出せない。
なぜか私はリゾットの部屋のリゾットのベッドにリゾットと並んで寝ており、しかも壁際に寝かせられていたため、リゾットを起こさずに外に出られそうにない。なにこれ詰んでる。
「ど、どういうことなんだ……リゾットが処女喪失……?」
「俺か」
「うおわあびっくりした!やめろよ寝たふりするの!」
本当に寝ていたのにお前が変なことを言い出すからだろう。なぜか窘められる私。
「あの、私、昨日何があったのか覚えてないんだけど、なんでリゾットの部屋で寝てんのかな……?」
「あぁ……憶えていないんだったな」
「な、……なにその台詞、なにその目……わ、私を見るな!」
「今度はポルポがどんな反応をするのかが楽しみなだけだ」
「……今度は?反応?た、楽しみ?」
何似合わねえ元気な台詞喋ってんだこの人は。もっとアレだろ。疲れてる雰囲気だろ。加えて楽しみってなんだよ。わくわくしているの?なんで?何に?わくわくするリゾットってどこにいるの?あっ、ここか。
私はその目が眇められるのを見て、頭の中にぐるぐると記憶が戻ってくるのを感じた。頬に触れたリゾットのゆるく閉じられた指の背が離れ、ぐに、と唇に押し当てられた。あれ、これって、あれって。
「ん、ん!?」
やべえええすべてを思い出した。今このタイミング。死ぬ。どういうこと。昨夜の私なにほざいちゃってんの?記憶曖昧だけど泣いた?泣いてたよ?なんで泣いてんの?て言うかリゾットちゃんはそれを許容しちゃうんだ!?懐が広い!ていうか、ていうか、これって。
「も、ものすごく大事な場面を忘れて、思い出すなんて、……ばかな……なんで記憶が残ってないんだ……」
「それは、……俺がもともと記憶が残らないようにと考えていたからだな」
意味がわからないしそのセリフなんかヤンデレくさい。
「それは後でいいや、……あの、……リゾットちゃん」
「どうした」
「……」
目を合わせているのが恥ずかしい。なにこれ26歳にもなって!これだから喪女は!つらい!
「ちょっと、後ろ向く」
掛け布団を少し持ち上げて体の向きを変えやすいようにしてくれるリゾット・ネエロ28歳まじどうした。やさしい。いや前も優しかったけど。比べる対象がおかしい。偶然リゾットが飲み物を注ぎに行こうとしたタイミングで私も立ったら淹れてこようかって言ってもらえた優しさと、同じベッドの中で体の向きを変える手伝いをしてくれる優しさは違うだろ!同じ土俵で!比べようよ!
なんて雑念でごまかしている場合じゃない。
記憶が確かなら、私は昨日リゾットに酒の勢いで告白をして、大泣きをして、奇跡的にドン引きされないで済んだと思ったらリゾットも私を好きだと言って(ここが強固な謎。ソリッドナーゾじゃなくて、ああもうそういう雑念)、よく思い出してみたら、告白、をして、もらう、いやしてくれる、時って言うのか、とにかくその時に、リゾットはあんまり私の名前を呼ばなかったような気がするんだけど、これって気のせいかな。なんか最終的に呼ぶ時も、「あえて呼ぶけど」的なことを言っていたし、これはなにか私の中二病と混合されてしまう前世の話にひっかかってくるアウトでしょうか。
あ、また思考が逸れてしまった。
「り、リゾット」
「起きている」
「あ、それはどうも……。……あの、私、……」
どう、言えばいいんだろうか。思いが通じてるっていうのがそもそも夢じゃないんだろうか。都合よすぎる。ソルジェラ、そうだよあいつらが爆撃落として気まずいと思ってたらなぜか私がしこたま酔わされて恋心暴露してうまくまとまってしまうなんて。
そわそわと落ち着かずに視線を彷徨わせていると、背中がひんやりした。あ、はい、起きるんですね、リゾットさん。私の頭の横、枕に手をついている。
スペースを空けるため壁際に寄ろうとして、肩が押されて背中がベッドについた。目の前に寝起きのリゾット。これは破壊力高い。かわいさとエロスを兼ね備えた存在、ヤバいな。攻めか受けかで言ったらガン攻め。
無駄なことを考えて、考えることがなくなって、じいっと、なぜかちょっと開いているパジャマの前ボタンとか、寝起きのどこか面倒そうな顔とか、あまりきらめかないけど静かで安心する赤い瞳とかを見つめていると、ぽろりと言葉が飛び出た。
「私、リゾットが、好きだ」
「そうか。俺もだ」
今のセリフは、私のリゾットを好きだよ発言にかかっているのだろうか。うわあ素面で言われるとものすごく照れるな。でもリゾットが平然としているから照れている私がおかしいのかもしれない。経験値の差が埋まらない。
起きよう、と思って私もベッドに手をついて、二度見した。
「ちょ、……これリゾットちゃんのパジャマじゃない?借りたの?私?ぜんぜん覚えてない、ごめん借りちゃって!」
なぜか同じ柄。この柄気に入ってるの、リゾットちゃん?あのベルトのコートも3着持ってたよね。気に入ったものを買い揃えちゃうタイプなのかな。亀の置物とか気に入ったら3つ並んでるんでしょ。かわいい。しゃれこうべとかを気に入らないでくれたら助かるんだが。それどんな状況だ。すなわち確実に3人殺ってるってことじゃねえか。
「気にしなくていい。お前があのあとにふらふらして、……俺の部屋にくると言ったから、あのまま寝かせるのも何だと思って着替えさせただけだ」
「誰かイルーゾォ呼んで……つっこむのつかれた……」
「イルーゾォは呼びたくないんだが……」
「うんごめん、ポルポジョーク……」
わかってるよ。リゾットの部屋にイルーゾォ召喚したりとかしないよ。できないし。というかその話の流れでリゾットの部屋に行きたがるとか、私は酔っ払っていてもやっていいことと悪いことの区別くらいつけよ?ほんとすんませんでした。リゾットさんすみません。なんて優しい人なんだこの人は。絶対私限定の優しさじゃないよ。素で優しいだろ、なあソルジェラよ!?リゾットが優しいのはだいたい私の為だよって言ってたけど、よく見てよこのリゾットの思いやりを……!
私はよたよたと起き上って、ベッドに腰掛けて脚を床に下ろしているリゾットの隣に座った。私のスリッパが置いてあってウルトララッキー。
ラッキーじゃないわリゾットありがとう。
私は一番上のボタンを外して、べらりと中を覗きこんだ。服の上から揉む。まあ苦しくないからわかってた。わかってたけど、どうなのこれ。どういうことなの。
「あの……下着がないん、ッスけど、着替えさせた、っていうのは……どっからどのへん……」
「……」
リゾットがすっと視線を逸らした。いつもの無感動な表情で、さらりと言う。
「酔っている人間を相手に悪いとは思ったが、ホックを外すだけでいいからと頼まれたから、そのまま放置するのもどうかと思って脱がせた。……悪いな」
「それ私が悪いよ!!すみませんでした!!」
酔っぱらいの戯言と聞き流してくれてよかったのに。で、着替えさせたっていうの何なの。気になるよ。
続きの言葉を待っていると、リゾットはこれ以上何か話すことがあっただろうか、みたいな顔をして首をかしげてから立ち上がった。えっ終わり?放置か。放置プレイなのか。超マニアック。ごめん低俗で。
着替えてくるか、と私も立ちあがった。立ち上がって、自分の思考で自爆した。
「(着替えてくるか、ってなに、くるか、って。ここに帰ってくるの前提かよ!!あほか!いやリゾットの胸に帰るけど!)」
もう朝からテンション振り切れてて、今日一日耐えられるのか心配になってきた。これが毎日続くと考えると、私、どうなるんだ。心臓持つのかな。