05 人生の交換を


よく考えたら、私が死なないとブチャラティが幹部になれないじゃん。今月ふたつめの死体を生み出して、私はようやく気がついた。
私の前の幹部みたいに、死なずに地位を剥奪されることもあるはあるけど、その後の人生を刑務所で過ごすなんていやだし、刑務所から出ても、組織の輪から外れた元構成員の末路がどうなるかなんて知れている。
「(どうにか死なずに跡目を譲ることはできないものかね)」
頬杖をつきながら窓から外を眺める。憎らしいくらいに晴れ渡った空だ。鳥のようにどこまでも飛び立って逃げたい。
「(鳥……、鶏……?チキンソテー食べたい……)」
ポルポだからか、おっぱいがデカいからか、私の燃費はひどく悪い。指食うかウイダーを水の代わりに飲むかしないと仕事ができないレベルだ。これが成り代わった代償だって言うなら関係ないけどボス殴る。

「ねえポルポ?どうしてあの甘ちゃんを暗殺チームに配属したのかしら?」
ずっとそれを考えて歩いてきたのか、追加の書類を持ってきたビアンカは部屋に入るなり私に問いかけた。甘ちゃんとはペッシのことだ。
ビアンカに言わせれば奇跡的にスタンドを目覚めさせたペッシは、私の一筆で暗殺チームに加えられた。これで、かのチームは9人がそろったことになる。そろそろ全員と顔を合わせて給料について相談しないといかんな。
縄張りについてはボスの一存にかかっているのでなんとも言えないが、幹部として、予算とかお給金について便宜を図ることくらいはできる。前の幹部の決めたテンプレプラスアルファでここまでやってきたが、さすがに9人を抱えるには厳しすぎるだろう。私はビアンカに適当な理由を説明しながらぼんやり考えた。
お腹すいて頭が働かないから、ご飯食べに行こう。


ビアンカがいなくても、ちゃんと私は動くことができるぞ。
基本的に、私がついてきてほしいと頼むことは少ない。ポルポポルポと名前を呼びながらビアンカがくっついてくるのだ。上司と部下にしては距離が近いと思うし、ビアンカのプライベートスペースが狭すぎていつもちょっと引いている。私もそれほど広い方ではないが、ビアンカの射程距離に入ることイコール身体の一部分を盛大に愛でられることだから、冬以外はちょっと暑苦しい。

がちゃがちゃ。開かない。仕方ないのでチャイムを押して待った。ドアが開いて、ひゃわああとペッシが変な声を上げた。
「ポ、ポルポさん!」
「チャオ。ねー、今みんないる?」
「えっ、あ、あの、ソルベとジェラートとホルマジオ以外は」
「そうなの?お昼ご飯食べた?」
「ま、まだでしゅ」
噛んでる、かわいい。
私はペッシの声に釣られて廊下に出てきたプロシュートに手を振った。一瞬顔をしかめられて、つい笑ってしまう。そんな嫌がるなよ、あんまり絡んでないだろ君には。
「なにしに来やがった?」
非常にぞんざいなイタリア語。発音は完ぺきにうつくしいのに残念なイケメンだ。残念なイケメンといえば花京院とかそのあたりだけど、プロシュートも分別の仕方によってはそこにあると思う。
「ご飯食べようよ。おごるからさ」
私とのご飯に惹かれたのか、おごりに惹かれたのか、メンバーが玄関に揃った。自分で言って悲しくなるけど、たぶんおごりに惹かれたんだろう。

それぞれメニューから好きなものを選んで注文する。私はピッツァとパスタのふた皿。これくらい食べないとおやつまで持たないことに、つい半年前くらいに気づいた。空腹にむせび泣いていた過去の自分に教えてあげたい。
「相変わらずよく食べるな、お前」
「だってお腹すくんだから仕方ないわよ。逆にイルーゾォはそれだけで足りるの?男の子なのに?それとももしかして女の子なの?」
「うるせえよ男だよ!!そっちこそなんなんだよスポーツ選手か!」
「やっぱりスタンドがあるとスタンドの分も食べないとやってけないじゃない?」
「俺たちも全員持ってるよスタンド!!」
つっつくと反応が返ってくるからイルーゾォはかわいい。プロシュートなんかは適当に聞き流すし、ペッシもあわあわしちゃってかわいそうだし、ギアッチョは面白いけどこの間キレてるところを笑いすぎて脛蹴られた。なんでみんな怒ると脛蹴ってくるんだろう。ギャングのスキンシップは激しい。メローネはビアンカと相性悪すぎてビアンカと一緒にいる時はビアンカに当てつけまくるようなこと言うからこわくって油投下できない。でも今みたいな食事の時はさりげなく四十八手のどれが好き?とかきいてくるレベルだから全然オッケー。
リゾットは一番古くからの付き合いなはずなのにスルー一色だ。そうか、とか適当な相槌しか打たないのである時思いっきりおっぱいでパフパフしたらそれから距離とって近づいてこなくなった。ひどい。
「あのさあー、ちょっと質問なんだけどね、ギアッチョ」
「あ?今ピッツァ食ってんのが見えねーのか?」
「見えてるしそれ私のピッツァだよ」
「メローネも食ってるしいいだろ。……で、なんだよ?」
みんな一皿しか注文しないと思ったら私のピッツァ一切れずつ食べていくんだもんな。結局私の食べるぶんふた切れしかないよ。ペッシには逆に私からあげた。いっぱい食べて大きくおなり。
「お給料、あとどれくらいいるかな?一件につき7×9くらいでたりる?もっといる?」
「……」
しん、とした。え、なにこわい。私がオレンジジュースのストローから唇を離すと、メローネがフォークを置いた。
「何、……ど、どしたの?そんなに足りてないの?ひ、ひとりあたり8?」
桁はお察し。もともとの数字を見ると2もなくて、ア何とかさんにドン引きした。彼はおそらく着服したお金で好みの少年を買い取ってウハウハやっていたのだろう。
私が暗殺と護衛両チームの直属の上司となってからは(とは言っても私直下の護衛チームはまだスタンド使いが揃わずすっからかんなのだけど)ちょいちょい給料を上げていって、予算の申請が下りない時には有り余っている自腹切ったりもしてたのだけど、この沈黙なんなんだ。あっ、ちゃんとブチャラティ貯金は積み立ててるよ。ブチャラティ貯金とは原作開始時にブチャラティが幹部になるための6億円がきちんと揃っているようにという私の特別な貯蓄のことである。今現在2億たまってる。1億/年のペースでがんばってます。
「はあ……」
90?と指できいてみたら、イルーゾォにため息をつかれた。
「イチマル……は、無理じゃないけどちょっと時間かかるよ!?あと管理費とかも出してるから、えっとー……2か月くらい―――」
「ポルポ、テメーちょっと黙れ。あと、メローネの顔見てみろ」
「はい。……やべえメローネなんだその表情!なんで全力で可哀そうなものを見るような目を向けるの!?この中で一番かわいそうなのは、前開きまくりのコートでチーズのたれやすいクアトロフォルマッジ食べてるリゾットだろ!」
「チーズ垂らすリゾットなんて見たことねーよ」
私はあるよ!何か月か前にピッツァを口に運んでる途中でチーズが垂れて、皿で受けとめ損ねて指についちゃっておしぼりで手冷やしてるところを見たよ!あんまりかわいかったから誰にも言わなかったけど。

プロシュートは頭痛を堪えるように眉間を指で揉む。イルーゾォはもう一度ため息をついて水に手を伸ばすし、ギアッチョは不明瞭に罵ってくるし、メローネはマスクの奥で目を細めてるし、なんなんだ。ペッシはあわあわしてるよ。かわいいな君。とりあえず、かわいいね、って伝えておいた。
みんなの反応が怖すぎて、隣に座ってるリゾットの方に椅子ごと近寄ると、リゾットはちなみに、と口を開いた。
「いくらが限度なんだ?」
「うちの護衛チームはまだすっからかんだから、べつにいくらでもいいよ。私の貯金を空にできるならやってみろ!ってかんじ?」
なにせ、幹部ってだけで風呂にたまる湯水のように金が舞い込んでくるのだ。ぼろい商売だよ本当。ただしちゃんと管理しないときけんがあぶない。命かかってるからね、真面目にやってるよ。麻薬取引からだんだん手を引いて別の幹部にまわしたり。ほら、だって危ない橋を渡ればわたるほど私の命が危険にさらされるわけじゃん。そういうのあんまり好きじゃないんで。

でも、真面目な話になるけど、暗殺チームにはいくらかけてもいいと思うんだ。私の好みは置いておいて、仕事が危険だからっていう理由もあるんだけど、それ以外にも。
ボスはあんまり彼らに金をかけることを快く思ってない、つまりいつでも切り捨てられるって考えてるみたいだけど、暗殺で見せしめのように敵対勢力の勢いを削いでもらってる今、ホイホイ切り捨ててしまうことの方がパッショーネにとっては損だと思う。
暗殺チームの9人の能力も姿もうちの組織の中ですら謎のまま隠れてるけど、その異様な死に方とか、気配なく近づいてくる影のような存在感とかは、水にインクがとけるようにじわじわとギャングの間に広まっていっている。詩的かな?まあいいや。
それは抑止力になるし、"パッショーネ"という組織に敵対すれば"奴ら"がやってくる、というイメージができることにもつながる。暗殺チームのメンバーを切り捨てたことによって殺し方が一変すると、まさか現場に「パッショーネ」とかサイン残してくわけじゃないんだから、うちの威厳みたいなのが一瞬の間消えることになる。そういうのってどうかとおもうのよねおねえさんは。
「だから、正直に欲しい金額を言ってもらいたい。私は君たちを大切だと思ってるから、その働きに報いたいし、お小遣いだってあげたいんだよ」
じっと全員を見回すと、ギアッチョの引き結ばれた口がむずむずと動いた。なんだ、言いたいことがあるなら言え。ギアッチョらしくないぞ。初対面で私に根掘り葉掘りきいて爆発してテーブル蹴り壊したギアッチョらしくないぞ。壊れたテーブルはスタッフがおいしくいただきました。
「ポルポ。……恐らくここにいる全員が同じことを言いたいと思うんだが」
「ん?」
「お前の金銭感覚はおかしい」
「新しい罵倒の仕方だ……」
我々の業界ではご褒美です。
しかし罵倒されてもどうにもならない。
今の私は女子大生じゃないんだ。ギャングの幹部なんだ。パーティに出なきゃいけない時はドレスのスパンコールの中にマジモンの宝石を紛れ込ませないといけないレベルの幹部なんだ。ドレスに宝石ってなんだよ!ってさすがの私も渡されたデザイン案に目玉飛び出たわ。誰が金払うと思ってんだ私だぞ。宝石なんかつけてる余裕があったら自宅で鍋パーティ開いて肉食いまくるわ。
「あんたが変人だって噂は聞いてたけどさあ、ポルポ。俺たちは暗殺チームだぜ?縄張りだって任されない、トカゲのしっぽみたいなチーム。そんなとこに金かけて、俺たちが明日にでも切り捨てられて飛ばされるか殺されるかしたら、ドブに札束を捨てるようなもんだろ?」
「何言ってんのかわかんなくはないけど、私は期待値としてお金を払ってるわけじゃないのよ。正当な報酬だと思うから振り込んでるわけ。次の日にメローネが死ぬことを知らされたとしても、私はあんたが望むなら100だって払う。1000だって10000だって。自分の価値っていうのは、本当は私たちが上から決めるものじゃないのよ。幸運にも、ここは縦社会だけど会社じゃない。時給で計れる話じゃない。君たちは要求する権利がある。私はそれを無駄だとは思わないし、入金先がドブに変わるとも思わないわ」
オレンジジュースを吸い上げる。喉が潤った。みんなはまだ黙っている。
この9人―――今ここにいるのは6人だけど―――が暗殺チームに入ったのは私が直上の幹部になってからのはずなのに、なんでこんなに鬱屈してるんだろうか。誰かになんか言われてんのか?いいんだよそういう時は私の名前を出して殴っても。ギャングのスキンシップで済ませるから。
「それに、私は君たちを切り捨てさせるつもりなんかない。見くびってもらっちゃ困るよ。君たちみたいな有能な人が就いてくれてるなら、それを黙って殺させるわけないじゃない。個人的にも好きだし」
私にそれだけの力はないかもしれないが、私にはそれだけの金がある。私の強みはそれだ。サバスたんが目覚めてよかったと思う点もそれだ。良くも悪くも、この世界は金が絡むから。
「ボスがあんたらを切り捨てたら、この私が貯金はたいて買ったげる」
さ、面倒な話はこれくらいにして、そろそろいくらがいいのかぶちまけてもらわないと、冷めかけてる料理が完全に冷める。

メローネはぽかんと口を開けて、それからぎゅっと、今度は強く目をつぶった。メローネ、若いもんね。わかるわかる、相手が自分の理論とは全然違う方向に突っ走ってるって判ったら、どう反応していいかわかんないよね。わかるわかる。私もビアンカに対してそんな感じ。
「……マジに、やっぱオメーは変人だぜ」
失礼なことを言うギアッチョ。ピッツァ分けたんだからその分は私を褒めてくれよ。
「はッ、こっちが吹っかけても文句言うんじゃねーぞ」
そう言うプロシュートは全然目を合わせてくれない。あんたにもピッツァ分けただろ。代わりに優しさを分けて。
「お前……組織の中でやっていけてるのか……?浮いてるだろ?絶対浮いてるよな?」
浮いてねえよ。私の変人レベルが5だとしたらボスは900だしこれから入ってくるであろうチョコラータは2000だよ。
「俺……ポルポのことよくわかんないって思ってたけど、……ポルポってすごく―――あッ、痛いです兄貴!」
「ドルチェでも選んでろ、ペッシ」
すごく、なに?気になる。兄貴からの規制が入ったのでペッシはそれ以後何も言わないでメニューを眺め出した。素直でとてもよいね。かわいいね、って伝えておいた。
「ポルポって、……誰に対してもそうなワケ?」
「なんだよ急に真顔になるなよ怖いから。耳赤いぞ」
「は!?……バッ、バカか、俺の耳は隠れてるだろ!」
慌てて耳を手で覆ったメローネがふくらはぎを蹴ってきたからテーブルの下で足踏んだった。くらえヒール攻撃。あっ今日の靴ヒールないわ。悔しかったのでプギャーしたら手払って逃げられた。お前ガン攻めのくせに逃げんなよ。私が悪いことした気分になるから。
「なんかみんな反応ひどくない?さっさといくらがいいか言ってよ!私はピッツァ食べたいんだよ!あとドルチェにカンノーロ食べたいんだよ!」
「ポルポ、最初から俺たちは増額してほしいとは言っていない」
「えっなにそれ話が長引いたのは私のせいみたいになってるけど」
ひどい。確かに俺語りとかしちゃって痛かったかなとは思ったけど。
リゾットは静かにこちらを向いた。
私もコップから手を離して、背筋を伸ばす。おっぱいが邪魔で手を膝の上には置きづらいので、テーブルの上に乗っていたリゾットの手に重ねてみた。のっけた瞬間、すっと引き抜かれて逆に私の手の上にリゾットの手が乗った。動きを制限されたくないとか、暗殺者意識高すぎる。
「お前が値段を決めてくれ」
「……えーっと」
私の話きいてなかったのか?もしかして真顔で聞き流していたのか?困惑してテーブルを見回すと、全員が私を見ていた。どういうこと。
「俺たちが値段を言えば、ポルポ、お前はその通りに支払いをするだろう」
いや、そうじゃなかったら聞いた意味ないよな。
私が真意をのみこめないでいると、私の手の上に重ねられたリゾットの指に少し力が入った。
「俺たちを必要としている、お前に価値を決めてもらいたい」
「……おぉ」
つまり、言い値で買おうと言った私に挑戦状をたたきつけてくるわけだね、リゾットちゃん。なるほどなるほど。私に価値を決めさせると。いったいどんな答えが正解なんだか。堪え切れずに笑ってしまった。
金を払えと言われればいくらだって払うけれど、私みたいに、金が有り余りすぎるとそれについての欲望はなくなってしまう。それに、もし私が彼らだったとして、ここで支払える限り最大の金額を示されても、きっと満足しないと思う。それはそもそもそこに'金'という尺度があるからだ。所詮は金で解決できると、私は思いたくないし、思わせたくない。
「じゃあ言うけど、いいね?」
伏せていた左手を持ち上げる。離れようとしたリゾットの右手を、その指を指でつかまえる。手のひらが向かい合うように指を絡めて、ぎゅっと強く握った。
「特別ボーナスです。一度しか言わない。……君たちには私の人生をあげる」
だからその代わりに、君たちの人生をくれ。
6人ぶんの命を、ここにいない3人ぶんの命を、私は抱えよう。たとえボスに背こうと、世界中から追われることになろうと、私は彼らをまもる。そして、どんな敵をも、倒したり買収したり殴り飛ばしたり矢をぶっ刺したりうっかりスタンドが発現しちゃったらビアンカにぱっくんちょしてもらったりしよう。
「リゾット。プロシュート、ペッシ、ギアッチョ、イルーゾォ、メローネ。そしてここにいないホルマジオと、ソルベと、ジェラート。私が君たちの上司であるということを、後悔させることはないわ」
色んなことをしまい込めるように、私の胸は大きく育ったんだからね。
どんと胸を張ると、メローネが噴き出すように笑った。あはははと声を立てる。その声が、すこしくぐもって、震えて消えた。リゾットと向き合っている私の後ろにいるから、メローネの表情は判らない。彼らがいったい何を言われて、別の場所でどんな扱いを受けたのか、私は知らない。
けれど。
「今度なんか言われたら、顔面殴っていいのよ。股間蹴ってもいいわ。そんで私の名前を出せばいいの。そしたらちゃあんと、示談に持ち込んであげるから」
「示談かよ!それダメだろ!!」
「パッショーネなんか金が絡みゃ地位だって買えるんだから問題ナッシング。あっでも私が死んだらちょっと面倒かな?ま、そん時までには体制作っておくから―――」
「バカか、テメーは?」
プロシュート、さっきからなんなんだ喧嘩なら買うけど。
むっと顔を向けると、さっきまでの険しい目元はどこへやら、不遜に口元をゆがめたプロシュートが大きく足を組んで水のグラスを持っていた。なぜかしらね、プロシュートがプロシュートであるというだけでそのグラスの中身がワインに見えるのは。
プロシュートははんっと盛大に鼻で私を笑ってから言った。
「テメーが老衰で死ぬ頃には俺たちも引退してるだろうが」
「だといいけど、私、どっちかっつーと早死にするタイプだからね。殺されるとかね、アリアリアリアリアリーベデルチだからね」
「アホか。それこそありえねえだろ。誰がテメーの下で働いてると思ってんだ?」
ほ。私は目をまるくしてその美貌を見つめる。今、この人デレた?ようするに、俺たち色んな角度から攻めまくり強すぎチート軍団が私を守るから安心しろって意味だよね。
にやあーっと感情に任せて口元をゆがめると、プロシュートはフン、と目をそらした。ペッシに絡み始める。逃げる時にいっつもペッシ使うのやめたげてよお!いや嘘だもっとやってくれ。
非常に頼もしいね。ぽろっと呟いてふと視線を動かしたら、ギアッチョとばっちり目が合って、ものすごい勢いで睨まれた。照れるな照れるな。
ところでリゾット、そろそろ手を離してもらえるとうれしいんだけど。ピッツァ食べたいし。
私がつながれたままの手を持ち上げて(と言ってもリゾットの腕が重くて持ち上がらなかったので気持ちだけ)ゆらゆら揺らすと、リゾットはそれを見てからするりと離れた。
「そっちから近づいてきたんだろう」
「そーっすねー。わ、ピッツァ冷めてる。…………いいや、リゾットあげる」
「いらん」
自分のかたまったクアトロフォルマッジにとりかかったリゾットは完全にこちらを無視だ。さっきまでの可愛い様子はどこにやったのか。
仕方ないので、私は方向を変えた。長いほうの髪で横顔をガードしてこっちを向こうとしないメローネのほうにピッツァの皿を押しやる。
「ほら、お姉さんがピッツァあげるから泣いてないで食べな」
「泣いてないから!」
「じゃあ泣いてないってことでいいから食べな」
「なんだよそれ、だからマジに泣いてないって!なあペッシ、俺泣いてないよな!?」
「うん、今は泣いてな―――」
「今はじゃねえよずっと泣いてないだろ!!プロシュート教育ちゃんとしとけよ!!」
はいはいツンデレツンデレ。ただの変態かと思いきや、若いころはぶっ飛んでないしかわいいところまみれだね。理解できないセンスの洋服の上から背中をさすってあげたらやめろよって言いながらこっち向いた。隠れてない方の目元が赤かった。

のんびりランチを済ませて、店の前で暗チと別れて仕事場に戻ったら、ビアンカがハンカチ噛んでてびっくりした。
「わたくしもポルポとお食事がしたかったのに」
でも自宅に押しかけてきた君と一緒にブレックファーストしたよね?上着を脱ぎながら首をかしげると、ビアンカは私の上着を受け取って、それからそれに顔をうずめて深く息を吸いながら言った。あれは朝じゃないのッ!わたくしは昼夜を問わずあなたと一緒にいたいの!
そうかい、ありがとう。だから匂い嗅ぐのやめようね。