拍手お礼 ポルポ


外側から見ると私って男を侍らす気楽な女なのよね。ショーウインドウに反射した自分の姿を見て再確認した。
まわりを個性豊か多種多様サラダボウル的なイタリア男九人で固めて歩く私は、他の人々の目にはどう映っているのだろう。年齢で考えると兄妹か姉弟か親戚の集まり、ウーン、それにしちゃあ毛色が違いすぎて邪推を招く。大学のサークルとも言いづらい年齢だ。若々しくいつまでもお肌つるつるなメローネでさえ、純粋にえげつないことを言う唇の裏には叩き上げられて硬質になった自信の塊と年月が隠されて、それらは微量、滲み出る。初対面の人にほぼ毎回年齢を訊ねられるのはそのせいだ。そして見た目が実年齢にしては若すぎるせいで驚かれる、っていうね。おきまりのパターンである。私はどっちかっていうと当たり障りなく相槌を打たれるほうだからちょっと羨ましい。言われたいな。イタリア男の対女性における気さくかつ丁重な反応から生み出される奇跡の褒め言葉で私を慰めてほしい。こ、これはニキビです。吹き出物じゃないんです。しかもストレス由来ですから暴飲暴食は関係ないし栄養不足でもないし肌荒れでもなくてですね。どうしようもないんだぜ。とりあえず家の中では肌をケアしてビタミンクリームを塗ってダメ押しのキップパイロールをのせて絆創膏を貼って生活しているよ。でも絆創膏とか貼ってると視線がすげえ刺さるんだよね。怪我じゃないから、って九回言った。こういうときに限ってみんな別々に動くから手間がかかるのだ。顔に張り紙でもくっつけておけばよかった。あっ、本当にそれは面白そうだったわ。失敗した。関係ないけど張り紙というと連想するのは中華屋さんのアレよね。冷やし中華が食べたくなってきた。うう、冷製パスタしかない。お肉と錦糸卵と野菜としょうゆ系だしスープってパスタに合うのかな。麺だしいけるか?出会ってはいけない材料たちが一堂に会して気まずい思いをしたりしない?大丈夫?合コンの幹事になった気分だ。やったことはないけれどね。また想像でテキトーなことを言ってしまった。

ぞろぞろと集団になって歩き、向かった先にはマーケットがある。それぞれの買いたいものが揃っているらしく、誰からだったっけかしらね、一人が行くと言いだしたら俺も俺もといくつも手が挙がって、いつの間にか全員で遠足みたいに出かけることになっていたのだ。ちなみにおててはつないでいない。おててつないで横断歩道を渡る成人男性チームってなにそれ。ヘブンでしか見られない光景じゃん。前世でどれだけの徳を積めばそんなワンシーンを脳内フィルムに焼き付けてネガを永久保存できたのか。とりあえず私の前世の生活内では決して積めないだけの量が必要なことは確かだ。や、やめろ、餅を喉に詰まらせた話は関係ない。あれは徳とか関係ないから。事故だから。うう、どうせ死ぬならもっといい感じな、クリティカルにポイントを集められるような死に方がしたかった。ん?もしかしてその死因って前世の前世でも中途半端な生き方をしていたから、とかそういうことじゃあないよね?もしそうだったら泣くんだけど。さすがにひどすぎるぞ私。輪廻転生こわいです。来世は都内に住むイケメンにしてください。むにゃむにゃ。
「でも私さー、女でよかったわ」
「あん?何の話だ?」
唐突に話し始めたので、隣にいたプロシュートが片眉を上げた。ぐぬぬイケメン。これが本当の美男ですよ。
「おっぱいがよく育つじゃない?」
「テメーは今日もくだらねぇこと言ってんな……」
「見た目的にも、紅一点の上司ってったらなかなか絵になるし」
侍らせているように見えても、個人的にはナニかのドンっぽくて悪くないと思う。
「それがバカの発想だっつってんだよ」
ええー。だって明らかにヤバいよ私。屈強そうな男に囲まれてるんだぜ。プライベートだからのんびりしてるとはいえ鍛えられた肉体と気配は隠しきれてないモンですから、普通の人は本能的に"うわつよそう"、って一歩引くよね。鋭い視線をさりげなく向けてくるのはへたっぴな同業者だ。もっとうまく様子を窺いなね。みんな気づいてるよ。親父はもっとうまくやるでしょ?がんばれっがんばれっ。なんで私が他勢力を応援しとるねん。
「はいはーい。んじゃあ俺、プロシュートが言いてえけどプライドが邪魔して口に出せねえこと通訳しまーす」
「え、なになに?」
メローネがへらへら笑って、馴れ馴れしくプロシュートと腕を組んだ。やだ何それ初めて見た気がするけど金髪コンビかわいい。よしもっとやれ。
神々の果実でも口にしたかと思うほど若々しくぴちぴちなお肌をたもつ青年がニッコリした。
「つまりプロシュートは、本質があんたであれば性別なんて関係ないって言いたいのさ」
「メローネちゃん、それって……」
「うん。デレてる。……だろ、プロシュート?」
美麗な顔がゆがみ、そらされた。
「バカどもがバカらしくバカなこと言ってんじゃねーよ」
君はどこの検事だ、と鞭を探したくなる台詞だったので思わずそうめんを噴くところだったけどそうめんなんて食べてなかったわ。危ない危ない。
しかししかし、かなり素敵な通訳だ。ツンデレ語も訳せるなんてメローネはすごいね。
そしてプロシュート兄貴もかわいいね。
ニヤついていたら、膝の裏を軽く蹴られた。
靴ではなかったところには、紳士を感じた。