拍手お礼 ポルポ



プロシュートって髪の毛切らないのかな。
棚をがちゃがちゃいじって何かを探す背中と、後頭部に並ぶいくつもの結び目を見て思う。
「ねえプロシュート、髪の毛切らないの?」
「あ? 切らねえよ」
「なんで?」
「なんでもいいだろうが」
「願掛け?」
「今日は一段とうるせーな、テメーは」
「気になるんだもん」
見る姿はいつも変わらない。ぴしりとしていて、たぶん髪の毛のお団子の大きさも一緒だ。気を抜いた姿など数回しか目撃したことがない。ああ、うん、私がパッショーネに居た頃、リゾットの家に集まったときにリゾットんちのシャワーを借りたプロシュート兄貴と洗面所でばったり出くわしたりとかね。最高だった。普通に肩を軽くグーパンされたけど。
ようやく目当てのものを見つけたのか、小冊子を持って椅子に帰ってきた。そういえばプロシュートは、あまりソファに座らない。私たちの前でなければ座ってるのかもしれないけど、いつもはだいたいテーブル席について頬杖を突き雑誌をめくったりヤジを飛ばしたりしている。うるさいのが嫌いなわけではないようなので、単に人前で気を抜きたくない、のかもしれない。うーん、兄貴の考えることはようわからんので、リゾットの前なら気を抜けるけど元上司の前ではそうはいかない、という結論にしておこう。
プロシュートは冷蔵庫の説明書を開き、目次に従ってページを進めた。速読スキルを身につけるのはリゾット(推定)とメローネ(確定)とソルジェラ(なんかもう何でもアリっぽい)だけなので、彼は普通に文字を目で追う。だんだん眉間にしわが寄っていった。
「オイオイふざけんなよ。電話すんのがかったるいからこうして説明書を読んでるんだろうが……」
「どしたの?」
説明書を読むほうがかったるくないかな、となんでもかんでも人に丸投げするタイプの私は思った。
「やけに霜が張るんでどうにかならねえかと思ったんだよ」
「へー。そんで、どうだって?」
「カスタマーサービスに連絡しろだと。修理のパターンじゃねーかよ」
「修理しちゃえばいいじゃん」
「家に他人が入るってのがな」
「意識高い」
「うるせーな……」
茶化したと思われたのか、プロシュートは軽く手を振ってこの話題を終わらせた。
「で?俺の髪がなんだって?」
「ああ、それね。いや、プロシュートっていつも同じ髪型だから、髪が伸びてるのか切ってるのかわかんなくてさ。どうなのかなって」
「伸びすぎたら切るだろ、フツー」
「プロシュートって普通じゃなさそうだから……。体毛の長さとか調節できるんでしょ、イケメンは」
「バカか?」
「よく言われるわ」
「だろうな」
プロシュートは冷ややかに言い放った。説明書を勢いよく閉じ、テーブルに放り投げる。その拍子にページが数枚巻き込まれて折れた。
「多少は短かった頃の姿も見てるだろうが?」
「でもちょっとじゃん。あれからあんまり切ってないよね?」
「邪魔にならねえ程度にだが」
「切らなくて、朝とか面倒じゃない?私と同じくらい……の長さあるよね?」
「まあな」
「私はおろしてるだけだからまだ楽だけど、そっちは結んでるし。大変そう」
何を考えながらヘアスタイルをセットしてるんだろうか。オシャレだからかな。確かにオシャレだけどさ。そのスーツもどこのブランド?特注のデザインじゃないよね?ペンダントトップとかもどこで売られてんの?手作り?
私が不躾にしげしげと眺めていると、プロシュートは秀麗な眉を器用に歪めた。
「大変だろうが何だろうが、これが一番落ち着くんだよ」
「へえー……」
男の人の考えることはようわからん。いや、プロシュートのこだわりがようわからんと言うべきか。
「邪魔にもならねえしな。いざとなりゃあ変装にも使える」
「と、仰いますと」
「髪をほどいて顔隠すだけで随分変わる」
「なるほどなー」
確かに、それは便利かも。
でも願掛けとかじゃなくて安心したような残念なような。ほじくるべき点でもないので、深追いはしなかった。願掛けだろうが何だろうが、あんまり私には関係ないしな。聞いておいてこりゃひどい。
「冷凍庫、直るといいね」
「ああ。いざとなったらホルマジオに配線見させて、直せそうだったら直接ナカに入れりゃいいだろ」
えぐい。リトル・フィートは配線修理用のスタンドじゃないんですよ。