拍手お礼 ポルポ


ハグをしていると落ち着く。誰に対してもそうなのかと思いきや、今のところこれほどまでのリラックス効果を望めるのはリゾットだけらしい。一体全体、私の精神には何が起こっているのだろう。たぶん、私がこのメチャバリクール無表情ガッツリ筋肉男を恋愛的に好きだとか家族的に好きだとかは関係ない。リゾットから癒しオーラがあふれ出ている。それを私がハグを通じて全身で受信しているだけなのだ。力説すると、ジョルノの曖昧な微笑みとブチャラティの真剣な肯定が私を突き刺した。二人は言葉は違えど似た返事をしてくれる。ポルポがそう思うならそうなんじゃあないか?私にはその後ろに付け加えられるべき「お前ん中ではな」が聞こえた気がした。
いいんだ、私だけがそう思っていたとしてもいいんだ。プラシーボだっていいんだよ。もしかすると私のアンテナが特別製でリゾットに対して特別ギンギンになっているのかもしれないけど、それはそれでいい。問題はそこじゃない。ギンギンっつうとセクハラに近いかな。訴えられたら負けます。
なぜリゾットはあれほどまでに(特定の個人に対してであれ)癒しの力を行使できるんだろう。気功の使い手かよ。彼の間合いに居る間だけHPが回復していくんですね、わかります。治癒功。どんなに疲れてへとへとでもう動けないしお風呂も入りたくないし寝るのすらしんどいし出張って大変だねプロシュート兄貴ィ、と家から徒歩15分のアパートに住まうプロシュートに脳内で助言を求めてしまうほどぐったりポルポさんな夜だって、渋々お風呂に入ってリゾットに抱きつき他愛のない話を持ち掛ければ、なんということでしょう、プロの暗殺者パワーによって私の体力がみるみる回復するじゃあありませんか。これがリゾットのパワー。圧倒的ですよ我が軍は。
「それはリゾットではなくポルポが特別なんですよ」
ジョルノ様のありがたいお言葉は再び私の頭を殴った。いや、でも、絶対。絶対リゾットと、ハグまではいかなくても会話してたら癒されるって。無表情無感動無味無臭なやり取りの中でちょっぴり混ぜられる、ジョークなんだか本気なんだかわからないすっとぼけ方。一度体験したら面白すぎて病みつきになる。面白さで疲れを忘れる。つまりリゾットには癒し効果がある。
個人的にはここでいやその理屈はおかしいとツッコミを入れてもらいたかったのだけど、私限定のイエスマンであるブチャラティと生ぬるい微笑みを浮かべるジョルノの前ではこちらの思惑など塵芥。
「そうだな、リゾットには俺の知らない癒し効果があるのかもしれない。もしそうだとしたら、それを一番に発見できているポルポはやはり視野が広いんだろうな」
こんなにも私を肯定してくれる無垢な言葉があるだろうか。私は両手で顔を覆った。マジかよブチャラティ、純粋すぎだろ。これを狙わずに言っているのだとしたらもう、私どうしたらいいの。ブチャラティを抱くしかない。こんな台詞がさらりと出てくるってどういうことだ説明してくれ苗木くん。狙って言っていたとしてもいいよ。よくぞここまで私を持ち上げた。おねえさんは複雑な気持ちだ。ブローノ・ブチャラティの優しさでネアポリスがヤバい。こりゃあ民間人キラーだわ。
「リゾットの癒し効果は知りませんが、僕はプリンに勝るものはないと意見させてもらいます」
「おお?珍しいね。でもとろっととろけるプリンよりもリゾットちゃんのとろける眼差しの方が、君ね、スゴくレアだし」
「とろける……眼差し……?」
カルチャーショックを靴下に詰めて思い切り振りかぶられた時にそっくりな顔だった。私も言っていておかしいなとは思ったよ。とろけるプリンを超越するほどとろけた表情のリゾットなんて見たことない。客観的に見ても寒天の塊って感じだ。でも好き。
「念の為に訊きます。……見たことはあるんですか……?」
「ないよ」
「そうですよね、安心しました。僕の中のリゾット・ネエロという人間像が揺らぐところだった」
ジョルノが大げさに胸をなでおろした。ブチャラティもホッと息を吐く。口には出さないものの、彼もジョルノと同意見なのだとわかって切なさが湧き上がる。リゾットがとろけた顔をしたらその瞬間に世界中で季節関係なく花が咲き乱れると思うんだけど、まあ真正面から見てしまうとあまりの衝撃に大興奮しつつもソルベを疑ってしまう可能性が無きにしも非ず。二人の気持ちもわかるな。とばっちりソルベごめん。でも、うわああ、アーッ、見たい。リゾットのとろける眼差しが見たい。急に見たくなってきた。これからはいかにしてリゾットをとろけさせるかという問題も人生の課題として自分の心に留め置こう。唇が弧を描く微笑みだって十年に一度見られるか見られないか、私は六年に一度見られた程度なのに、とろっとろな顔なんてもう、もうそんなのどうなっちゃうんだ。半世紀超えるんじゃねえかな。

帰宅後リゾットに向かってあれこれ甘い言葉を囁いてみたけど、彼は怪訝そうに眉根を寄せるだけだった。私の頬をつまんでぐにぐに感触を確かめながら、誰に何を吹き込まれたんだ、と冷静に訊ねてくる。うう、私のレベル及ばず何の成果も出ませんでした。リゾットたんの無感動さに蕩れるだけだ。ジョルノとブチャラティへ報告できるようになるまでは、まだまだ時間がかかりそうである。