拍手お礼 ポルポ


ホルマジオとイルーゾォの間には特別な絆があると、私は常々思っている。同い年のチームメイトだからだろうか。ギアッチョとメローネにも似たような呼吸があるが、デコボコした若い子二人に比べて、ホルマジオとイルーゾォのそれは、なんというべきか、熟している。熟年夫婦の四文字が浮かび、ぴんと来る前に弾けて消えた。
二人が同じ空間にいると、彼らの間に通じる慣れた空気が漂う。落ち着いていて、こちらまで居心地が良くなるような空気だ。
私以外もそう感じているのか疑問に思い、プロシュートにそれとなく「ホルマジオとイルーゾォって仲が良いよね」と感想を訊ねたことがある。兄貴は雑に頷いた。
「六年も付き合ってっからだろ」
「そうね」
六年は長いわよね。

ボールペンの頭を頬にくっつけて、ほんのちょっぴりの冷たさに憩う。寒い日でも、無機質な文房具のひんやりした感触は気持ちがいい。首の力を抜いて頭を傾けると、かちりと音がして芯が引っ込んだ。
二人は気の合う性質なのだろうか。ホルマジオの世話焼きな一面と、イルーゾォの不憫な体質がマッチしているのかもしれない。
いかつい容貌に反し、ホルマジオは迷子の子供を見ると放っておけないタイプだ。しゃがみ込んで背を丸め、目線を合わせ、相手が男子だろうが女子だろうが関係なく、交番まで付き合う。そんな性格がイルーゾォの面倒を見させるうち、どんどんと仲が深まっていったのだろう。ツンツンしていたイルーゾォの心がほぐれてゆき、やっぱり少しはツンツンしながらも相手の干渉を許すようになった。今では、イルーゾォが「あ」と言えばホルマジオが「オウ」と言い、ホルマジオが「ツー」と言えばイルーゾォが嫌そうに「はあ?馬鹿じゃねえの」と言う。そんな形の熟年した夫婦関係が成り立っている。夫婦って言うと語弊があるけど、この場合はぴったりだ。
熟年夫婦ねえ、と自分の表現を反芻した。熟年夫婦ねえ。
目でホルマジオの動きを追う。ソファから立ち上がった彼は、真昼間のビールを取りに冷蔵庫へ向かう。なぜわかるのかというと、彼が鼻歌をうたっているからだ。ビールを求めるメロディを奏でるごつい男。休日のネアポリス、彼らのアパートでの午後二時の名物である。
そんな彼に向って、イルーゾォがテレビから目も離さずに言う。
「ついでに、アレ」
「自分で立てよな。味は?どっちだよ?」
「甘い方」
「どっちも甘いだろ」
などと言いながら、冷蔵庫を開けたホルマジオには躊躇がない。ビールの他にもう一つの缶を取り、扉を閉めてソファに戻る。ぴと、と後ろからイルーゾォの頬にキンキンに冷えた缶を当てたので、思いっきり拳を振りかぶって殴られていたが、あの程度のへなちょこパンチは効かないようだ。
「ホレ、ペスカで良いんだろ」
「おう。……お前はまたビールかよ。太るぞ」
「シロップまみれのカクテル缶を飲んでるヤツにゃあ言われたかねェよ」
この調子だ。ちなみに、冷蔵庫にある缶のカクテルドリンクは二種類で、どちらも甘い。二択とはいえ、一瞬も迷わず桃味を取ったホルマジオに感服した。
二人はテレビ番組をそっちのけで、お互いの飲み物のカロリーを比べ合ってぎゃあぎゃあと言い争いながら楽しそうにしている。
「オメーは俺よりも筋トレしてねェだろ。消費としちゃあこっちが上だよ」
「うるせえ、向き不向きがあるんだよ。そもそもお前がビールを飲んでると際限がなくて嫌なんだよ。目の前に空き缶積まれるこっちの身にもなれよ」
「どんな身だよ」
「視界がごちゃごちゃして邪魔」
「しゃーねーな……、一回一回捨てりゃあいいんだろ、捨てりゃあよォ」
早く飲まないとぬるくなるよと後ろからアドバイスしようかとも思ったが、口を開きかけて、やっぱりやめた。この空間には口出ししない方がいいだろう。
かちりともう一度ペンを鳴らして芯を出す。さて、ホルマジオとイルーゾォの会話をBGMにしながら、残りの書類をやっつけてしまうか。