拍手お礼 ポルポ


星型にくりぬかれた人参があった。中華料理の中に紛れ込んでいたのだ。私はとあることを思い出し、ちらりとムッシューポルナレフの様子を窺った。彼は僅かに人参を見つめて、すぐにそれを食べた。
一瞬の間を言及する必要もないだろう。ポルナレフさんが感傷を抱いたとて、私が共感できるわけでもない。事情も知らないはずなのだし。
お皿の縁周りには龍の模様だったり唐草模様だったり、色とりどりの装飾が施されている。料理を干せば、底からは鳳凰が浮かび上がる。陶器の手触りはつるりとして気持ちが良いし、味も良かった。
イタリアで中華料理を食べるのは不自然に思えるかもしれないが、食べたくなったのだから仕方がない。いざ満漢全席と洒落込むつもりだったが、ポルナレフさんも名乗りを上げたので普通の中華のコースを選んだ。ブチャラティやジョルノだったら問題なく付き合ってもらうのだけど、ポルナレフさんは彼らほど若くはないし、ゆっくりと食事を楽しみたいのではないかなと、なけなしの気を回したつもりだ。昔の彼なら喜んで食べただろうけど、今は比較すると食も細いという。
「おいしいですね。家でも作ることがあるんですけど、レストランで食べるとまた趣が違って楽しいです」
「そうだな。私も君が食べているところを見ていると気持ちがいい」
「遠慮もしないでいてすみません。食べられる時においしいものを食べておくことにしているので」
三時のおやつにフルーツゼリーと生絞りのジュースをかっ食らった事実は秘密にしている。
「君とお茶をする機会は増えたが、まさか夕食まで一緒に……それも、二人きりでとることになるとはな」
「驚きですよね」
一般の出入り口とは別の場所から入れてもらったから、表の喧騒はわからない。この空間は静かで、食器が微かにぶつかる音と、穏やかな音楽だけが耳に残る。ポルナレフさんはたまに椅子を軋ませて座り直し、そのたびにすまなそうな顔をした。気にしなくていいのにね。
「これも何かの縁なのだろうか」
冷たくされた鶏肉を食べる。
縁と表現するほど、偶発的なものではない。中華を食べに行くけど誰か一緒に行かない。誘った時に手を挙げたのは彼だ。偶然の出来事で一緒の卓につくことになれば、それは縁かもしれないが。
口には出さずに、ごま油の浮くスープに手をつける。私は猫舌なので熱いままでは飲めず、ずっと放置していたのだ。そろそろぬるくなった頃合いだろう。予想通り、スープはちょうどいい温度になっていた。
皿は一枚一枚片付いていき、そのたびに給仕の男女がテーブルを綺麗にした。
「そもそも私たちが出会ったことが、縁の一つなのかもしれない。ジョルノとのそれは運命と言っても差支えがないだろう……皮肉なことだがな。しかし、君とはどうか?ふふ、まさか金の矢を呑み込んだスタンド使いが、金の矢を持つ私と出会うことになるとは思ってもみなかった」
そう言われるとそんな気持ちになる。本来なら私たちは出会うはずもなかった。えー、絶対に誰にも言わないことなんだけど、そもそも私はこの世界に云々かんぬん。
「では、その縁を大切にしないといけませんね」
「そうだな」
ポルナレフさんは私と自分のお茶を見て、給仕の人にメニューを頼んだ。
「酒でも飲まないか」
これはもしかして、ポルナレフさんの好感度を上げることに成功したという証明か。やったあ、ポルナレフさんがデレた。
私は自分でもびっくりするくらい落ち着いた気持ちで微笑んだ。
「いいですね。種類はポルナレフさんにお任せしても?」
「やはり、ここは中華らしい酒を飲んでおかなくてはいけないだろうな」
ポルナレフさんは二種類のお酒を頼み、私に向かって同じような笑みを浮かべた。
すぐに運ばれて来た杯を僅かに傾けて乾杯の代わりにする。
「私たちの未来に」
噴くかと思った。肩を揺らして腹筋と格闘した私の表情に面白さを感じたのか、ポルナレフさんは珍しく声を立てて笑った。
「冗談だ。今日の良い日に」
「はい。お仕事もお疲れ様でした」
「君もな」
お酒はきつくて、少し甘い。目を伏せて杯の中身をちょっとずつ空けていくポルナレフさんは、武骨な身体つきをした男性とは思えないほどに色っぽかった。