拍手お礼 ポルポ



リゾットちゃんに抱き付いたら、リゾットちゃんは疲れたようにため息をついた。どうしたの、疲れてるならおねえさんのおっぱいで癒してあげるよ。
テキトーなことをほざいてみると、リゾットはゆっくりと首を振った。特に疲れているわけではないと言われ、首を傾げる。じゃあなんでため息ついたのかな。私がべたべたくっつくのがうっとうしかったのかな。でも、一度小さくため息をついたあとはもう、いつもと同じように私の腰の後ろで手を組んで私を支えてくれている。うっとうしがっていたら正直に、邪魔だ、とかなんとか言ってくれるはずだから(だってソルベとジェラートにはそんなふうにきっぱりと物を言っているし)邪魔に思っているわけじゃあないのだろう。
「どうしたの?」
考えていても仕方がないので直接問いかけた。
リゾットの視線が少し横に動いた。私が眼の動きを追いかけるより先に、彼は"なんでもない"、と本当になんでもなさそうな声で答えた。
「そう?」
「あぁ」
短く肯定される。それなら私が気にすることでもないのかな。リゾットちゃんが否定した以上、難しく気を回して遠慮するのも失礼かなあと思ったのさ。
ぐでりとリゾットの胸に体重を預けて、はあー、至福。
「この一瞬の為に仕事してる……」
リゾットちゃんたちは私にとっての職務後のビール。これがあるから頑張れるんだね。
しっかりとリゾットちゃんの首に腕を回して思いっきり抱きしめる。私処女だし男とかよくわかんないけどリゾットなら今私の腕の中にいるぜ。それで充分だろ。


そんなこともあったっけ、と記憶をたどって苦笑い。憶えてないんだよね、私。悪いんだけど。
「あのあと俺らがどんだけ大変だったと思ってんだよ!?なあ!?お前はいいよな、やるだけやってさっさと家に帰ればいいんだからさあ!」
その言い方だと私が最低なやつみたいだね。言われてみれば結構ひどい行いをしていたのだなあと理解もできるが、当時の私にリゾットの本心がわかるはずもない。暗殺チームのリーダーである男がこっちに覚らせようとしてないのにド素人の女が彼の心情を覚れるかって話よ。
くだをまいたイルーゾォは、顔を真っ赤にして、とろんとろんの瞳で私を睨みつけた。そんなことしたって怖くないしむしろぺろりと食べちゃいたくなるよ、イルーゾォ。無駄口を叩いた私をホルマジオが後ろからすぱんとひっぱたいた。暴力反対。振り返ると、もうそこに剃り込み男の姿はない。やるだけやってさっさとソファに戻ってしまったようだ。イルーゾォはやり逃げを怒るなら今のホルマジオにも怒るべきだ。意味合いが全然違うっていうのはもちろん理解しているが。
「お前はリーダーに凭れたまま寝ちまうし、リーダーはお前を起こさないようにそのままにしてるし、見てるこっちも息が詰まったっつうんだよ!なあ!聞いてんのか!?」
「聞いてる聞いてる」
「飯の匂いで起きたお前はお前でリーダーのほっぺにキスとかしてっし!」
「親愛の証じゃん。ていうかイルーゾォがほっぺとか言うとすごいかわいいねもっかい言って」
「うるせえ言わねえよ!!」
「うるせェのはオメーだよ……」
ホルマジオが呟いたのが聞こえた。
イルーゾォは酔うとこうやって私の前に過去の余罪を並べ立てて責めてくる。だいたい標的になるのは私かホルマジオかプロシュートなんだけど、今日は私だったみたいだ。色々と記憶にござらん思い出を引っ張り出しては怒られてかれこれ1時間。よくぞ気力が持つなあと感心しながら3つ目のアイスクリームを掘っていると、元々へろへろだったイルーゾォがテーブルに突っ伏した。ううう、としばらく唸って、やがて静かになる。寝落ちしたらしい。
「お疲れさん」
「聞いてて楽しいから全然疲れてないよ」
「オメーの数少ねェ長所はそこだな」
私の長所はいっぱいあるぞ。おっぱいとか。鉄の胃袋とか。
ホルマジオは相棒らしく、眠るイルーゾォを引っ張り起こして並べた椅子の上にぶっ倒して寝かせてやっている。客間にお姫様抱っこで運んであげればいいのにね。シーツ新しいよ。
一般受けしない黒歴史に基づいた思想はアイスクリームと一緒に胃の腑に落とした。
しかし、まあ、なんかごめんねリゾットちゃん。
黙って静かにテレビを見たりお酒を飲んだりしていたリゾットちゃんをちらりと見て、内心で手刀を切る。知らなかったとはいえ、迷惑をかけたことは事実だよね。うん、反省してる。してるんだよ。してるんだってば。その割には何度言われても改善が見られないと冷静な自分が言ったけれど、反省はしているんだよ。ただ、今は恋人同士だからいいんじゃないかなって囁く内なる悪魔に負けているだけなんだよ。

夜のアイスクリームは太るからなあ、と心にもないことを考えた私がクラッカーにチーズをのせはじめた。イルーゾォは椅子の上でうんうん魘されて可哀想だ。時々その口から、「ポルポ」「痛い目見ろ」「バカ」「俺もう知らねえ……」と漏れ聞こえてくるのは気のせいだろうか。とても申し訳なく思ったのだけど、もはや誰に謝罪すればいいのかもわからない。心の中の碇指令が重苦しい雰囲気を漂わせ、私もまたクラッカーと一緒に雑念を飲み込んだ。うん、本当、過去の自分に会うことができるんだったら教えてあげたいよ。お前後々めちゃくちゃ怒られるからやめとけ、って。
「……」
リゾットをじっと見ていたら目が合った。へらへらっと笑いかけて、笑顔の裏で自分に呆れる。怒られるってわかっていてもやめないだろうなあ、絶対。