12 びりびりマシン


私は落ち込んでいるアヴドゥルさんの姿しか見ていない気がするんだけど、この人って笑うのかな。笑うのは知っているけど、ここのところはアヴドゥルスマイルを無理やりに封じられて、はた目には痛々しいほどである。
「煮沸……」
何かをうわごとのように呟いている。大丈夫かな、本当に。どうしたのかは訊ねるだけ酷というものだ。訊かなくても無慈悲な承太郎くんが教えてくれたし。
ポルナレフとアヴドゥルさんの位置が交換された余波がこんなところにまで。ジョースターさんは便器を手でこすって綺麗にさせられそうになり、アヴドゥルさんは、その。
承太郎くんが早めにジャスティスを倒したから事なきを、えー、たぶん得たものの。承太郎くんもそこのところは俺にもようわからんと言っていたので、私も言及はやめておく。
「煮沸……」
また何かが聞こえてきた。
視界を奪っていた町の霧が晴れると、土の上には白骨死体が一人分転がっていた。返事がないただのしかばねのようだ。並ぶのは名の刻まれた墓碑であり、吹き抜けるのはなまぐさい風だ。死臭に混じってジープのタイヤがギャギャギャと悲鳴を上げて駆動し、ホル・ホースが私たちの車をパクッて逃げた。いたのか、ホル・ホース。
「ナイスなねえちゃんよォ、あんたも用事がないならこんな奴らとはオサラバしちまいな!恋人を捨てて俺と一緒にランデブーとしけこんでもいいぜ、安全な所まで送り届けてやっからよォ。気が固まったら俺の名前でも呼びな、駆けつけてやるぜ」
彼は女性を尊敬し、重んじ、殺さないと決めているらしい。九割死にそうな旅におっぱいしかなさそうな女が同行している現状に思うところがあるのだろう。恋人を捨ててのところで声出して笑った。笑ったら、復活したアヴドゥルさんに服を掴んで怒られた。
「不吉な想像は冗談でもやめてくれ!」
別れるなんて考えたこともないんですよ。私が捨てる立場なのかと思って面白くて笑っちゃっただけだ。こちらが愛想を尽かされないように頑張る立ち位置にあると思っていたもので、ホル・ホースの優しい見方に感動したとも言える。リゾットにそう言うと、彼は私に心底呆れていた。ご、ごめん。なんかごめん。君が優しいのは知っているよ。
「そうじゃない。まだ何も解っていないのかと驚いただけだ」
「いやいや、わかってるわかってる。リゾットの愛がヘビーなのはわかってるよ」
「どうだかな」
アヴドゥルさんが、こればかりはリゾットに同感だな、と私を諭した。恋人からの愛を疑うそぶりなど見せてはいけないし、ああいった誘いはきっぱりと断るべきだ。節度ある態度でないと、関係にひびが入ることもある。
「わたしは多くの例を見てきた。大人ぶるつもりはないが、君が心配なのだ」
「これはアヴドゥルさんに惚れるしかないわ」
「や、やめてあげてくださいポルポさん」
花京院くんがおろおろしているのがわろし。
老婆をお姫様抱っこするのは承太郎くんだった。実に気難しそうな顔をして歩いている。嫌な気分だぜ、と彼は腕の中の重みを示した。よく素直に受け入れたなあと感心してしまうが、実のところ、ここでは言い出しっぺの法則が適用された。そして同時に提案したジョースターさんは早々に地図を両手に持った。残された承太郎くんはスタープラチナですぐに相手を殴れるからという理由で暗黙の裡にプリンセスホールドを強制され、煙草も吸わず黙々と歩いている。
駅でやけに贅沢な装飾の施された馬車を借り、金に糸目を付けぬ貸し切り状態でカラチまで進む。たくましい馬の筋肉に惚れ惚れし、中東の景色と大型の馬の動きをあちこち眺めてきょろきょろしていると、ジョースターさんが隠しもせず笑った。
「はっはっは、落ち着かんな。君はいつでも自分を見失わんから、こちらも楽しい気持ちになるよ」
この人たちはさっきから私を攻略しようとしているのか、めためたに褒めてくれている。ニコリとしてお礼にキャンディを渡した。ありがたいことを言われたらお返しをしなくてはいけない気がするのは私の悪い癖だ。貢ぎ癖というやつかな。何かをしたら何かを返すのが当たり前で、踏み倒したら大変なことになるパのつく組織で青春の3分の2程度を過ごしていたので、損得勘定の付きまとう感覚が残っているのかもしれない。直そう。
ジョースターさんは受け取ろうとして、手を引っ込めた。荷物袋をごそごそ探り、マキロンを取り出して手袋にびゃああとかける。風で乾かして、ようやく手のひらを出した。朗らかさの裏に見てはいけない体験を見た。恐ろしいスタンドだったんだな。

カラチの賑やかさは、私たちに懐かしさをもたらした。長い移動と悲惨な体験で欠けていた他人の気配が一気に耳から頭へ流れ込み、情報の奔流とクラクションの音がうるさいくらいだ。
また、ドネルケバブの食欲をそそる匂いがあちこちから漂う。恥をかなぐり捨てて告白すれば、私は激しく空腹だった。お昼にピッツァとパスタを食べてもおやつの時間になるときちんとお腹が空いてしまう私が長旅に耐えられるはずなんてなかった。
飴ちゃんで誤魔化すのも限界だ。どう切り出そうか迷っていると、リゾットが店に気づき、少し時間が欲しいと言ってくれた。ジョースターさんたちの視線が私に集中する。な、何だ。確かにお腹が空いているのは私ですよ。でも、チコッとでいいからリゾットの食欲を疑ってもいいんじゃないかな。私に対する一種の信頼なのか、別の意味で信頼が/Zeroなのか。ぐうの音も出ない。
「どれ、わしが買ってやろう。ン?6人でそんなにするのか?高いね! リゾット、君はどう思う」
「こちらの相場はわからないが、イタリアでは近い軽食がその半額以下だ」
「あー!うんうん、近いって言ったらアレかな。おいしいよね」
名前を挙げると、リゾットは頷いた。地方が違うのでネアポリスではまだなかなか見かけないけど、食べられるお店もなくはない。連れて行ってもらって食べたことがあるから、なんとなく味は憶えているよ。
リゾットの言葉で火のついたジョースターさんと、ボる気満々だった店主の激しい値段交渉の末、6人分のケバブは半額以下まで値下がりした。
しかし、満足し意気揚々と財布を取り出したジョースターさんの隣からアヴドゥルさんが手を挙げる。
「ジョースターさん、まだぼったくられていますよ。6個で元値の10分の1です」
「何ィ!?」
「さすがはアヴドゥルさん」
食べたがっているのは私なのに完全に人任せ。拍手するとアヴドゥルさんが照れた。咳払いをし、無かったことにしているが、私はしっかり見たので何度もリプレイすることにしよう。呪いのデーボは恨みを忘れないが、タコのポルポは人のレアな表情を忘れないよ。
相場以下で食べ物を手に入れた私はひと口かじって思い出す。カラチだったか、地名は定かじゃあないけど、この辺りでジョースターさんが襲われ承太郎くんが屈辱を舐めるイベントがあった。エンヤ婆を連れて行動し始めたすぐ後に起こった筈だから、節目であるこの町で間違いはないと思う。

エンヤ婆が目を覚まし、彼女の体内から肉の芽が出るシーンを、幸運にも私は見ずに済んだ。アヴドゥルさんの大きな身体が壁になったのだ。そんなもんを見たら今かじったものを全部吐くかもしれない。グロ注意ってレベルじゃないでしょそれ。リゾットたちは直視したのでSAN値が削れたと思う。ケバブを買う私たちを馬車で待っていた承太郎くんなんかはもう、惨劇の真横に座っている。青年のメンタルを削らないで。あと、私のメンタルも削らないで。
「……むッ」
ジョースターさんたちが不審な男の影を見た。中東の衣装を脱ぎ捨てた男は、言うなればイルーゾォ以上5部ナレフ以下の美貌と言ったところか。イルーゾォと比較したのは黒髪繋がりで連想しただけで深い意味はない。あの男のドヤ顔が懐かしい。
「わたしたちはあの老婆に対して複雑な思いがある」
アヴドゥルさんが言うと重みが違う。煮沸煮沸と呪文のように唱えていた数十分を知っているからこそ感じるね。
「だが、お前には容赦しない」
「5対1だが躊躇しないぞ、覚悟してもらおう」
もちろん私は戦力に数えられていない。スタンガンは持っているけど、このスタンド使いが相手では役立たないだろう。そもそもスタンド使いには効かなさそうだ。象も倒れるぞ、とジョースターさんがジョークを飛ばしていたし、出力を最大にすれば屈強なスタンド使いでも多少は痺れさせたり昏倒させたりできるのかもしれないけど、今回は相手が悪かった。
「(……ん!?)」
ハッとしてリゾットを見た。もしかしてこの人も気絶するんじゃないか。私は気絶したリゾットをいじくり回し、盛大に可愛がることができるんじゃないか。さすが私、発想が神がかっている。リゾットとの間に禍根が残る可能性と、スタンガンを突きつけさせてくれなさそうな点を除けば完璧だ。粗とデメリットしかない試みなので、私はそっと欲望をしまい込んだ。スタンガンで気絶させられるリゾットって、何それヒロイン?黒塗りの車に押し込まれぐったりしたまま倉庫街に連行され脅しの材料になっちゃうんでしょう。知ってる。目覚めたリゾットがその場を血で飾ることも知ってる。
スティーリー・ダンの『ラバーズ』戦では、ジョースターさんがスタンドの攻撃を受ける。スティーリー・ダンが痛いと思えば数倍の痛みがおじいちゃんを襲うし、苦しいと思えば息が詰まる。今まで切り札的に思われていたチートメタリカアッサシーノリゾットもこの時ばかりは手出しができない。ダンが血を吐いた瞬間、ジョースターさんがショック死するかもしれないからだ。そういえば心臓に毒薬のウエディングリングを仕込まれたりラバーズに侵入されたり、この人、体内に問題を抱えすぎじゃね?
ポイズンウエディング同様、今回ももちろん解決すると思うし、解決してくれないと困る。
ただ、不安がある。
原作ではハイエロファントとチャリオッツがジョースターさんの脳内に飛び込み、ラバーズを攻撃して見事に倒したが、今はポルナレフがいない。代わりに立つのはアヴドゥルさんだ。彼はジョースターさんの身体の中で炎を行使できない。マジシャンズ・レッドって物理で殴るタイプじゃあなさそうだけど、破壊力はあるはずだから、拳の方も強いのかな。見た目的には、殴られたらヤバそうだ。
思い切り拳を振りかぶってダンに殴りかかろうとした承太郎くんの学ランを引っ張って止める。
「ま、待て待て待て、待って。ジャスティスの時と同じく、不意を突かれてもう攻撃を食らっているかもしれない。まずは優しくキスでもして様子をだね」
「キスぅ!? 冗談じゃあありませんよ、承太郎からのキスなんて虫唾が走る……。これから"丁寧"に説明して差し上げますよ」
ダンは手を、こつんとテーブルにぶつけた。

低い呻きが承太郎くんの喉からこみ上げ空気を震わせた。びりりと痺れた自分の手を見下ろし、ダンを睨みつける。激昂して殴りかからなかったのは、"丁寧"な説明のひと言が承太郎の冷静な部分に働きかけたからだろう。何の準備もなくダンに攻撃するのは危険だと察したのだ。高校生とは思えない、落ち着いた態度だ。私はといえば、うまい止め方もわからず一人胸の中で呻き声をあげている。しまったあ、キスとか言うんじゃなかったわ。これで私の発言の真剣みと信憑性が更にお亡くなりになった。
「てめえ、何しやがった」
スティーリー・ダンはけろりとした顔でスタンドの能力を説明した。
何も言わず挑発して自分を殴らせ、承太郎くんを自滅させることだって可能だし私ならそうするんだけど、あえて打ち明け相手の動きを封じたところを見ると、やはり悪趣味。肉の芽を植え付けて殺すことが大事なのかな。もしそれがきちんとDIOから指示されているとすると、肉の芽とDIOの感覚は繋がっているのかもしれない。確実に殺した感覚が欲しい、とかさ。でも、肉の芽って自立してもいそうだったよなあ。DIOって花京院くんやポルナレフが肉の芽を摘出されたことを感知していたっけ?てっきりDIOは、ジョナサンの肉体に表れたハーミット・パープルに似たスタンドでこちらの姿を念写して、花京院やポルナレフの離反を知ったのかとばかり思っていたけど。これは今度、ジョースターさんに訊いてみようかな。
「承太郎、ポルポ、ひとまずここは退くんじゃ!テレビを探せ、わしのスタンドでお前の脳みそを覗く!」
「あ、はい!行こう、リゾッ……、……えっ、全員ですかジョースターさん」
「……あっ……それもそうじゃな……」
ダンは肉の芽で承太郎くんの頭を食い破らせると言ったし、そうする可能性が一番大きいけど、全面的には信用できない。
ラバーズ自体に殺傷能力はないが、ダンがちょっと全身を壁にぶつけてみたり、それこそ宝飾店から物をギッてボコボコにされたら、承太郎くんが、その、アレだ。今にも落ちて来そうな空の下に行ってしまう。アカン。
私は非戦闘員だから役には立てなさそうだけど、名指しされたので反射的に一歩踏み出してしまった。皆まで言うまでもなく、ジョースターさんもすぐに気づく。全員が離れてしまうのは、あまり宜しくない。
「見張りが欲しいでしょうねえ」
ねっとりした声だ。納豆というよりはめかぶである。何だこのたとえは。
「誰でも構わん……とは思ったが、リゾット・ネエロは駄目だね」
「だろうな」
「わかる」
思わず同時に頷いた。リゾットのイメージって、いざとなれば承太郎くんが死ぬことになってもメタリカでダンを殺しちゃいそうな感じだもんね。わかる。DIOからの情報にはそんな情報まで含まれてるのかよォ。偏見反対だよ旦那ぁ。
却下されたリゾットは、ジョースターさん側に私ともども一歩下がった。ひょいと手を振ったダンが私を指さした。
「そっちの彼女は置いて行きな」
「は?パードゥン?」
「そっちの彼女は……」
「いや、二度は言わないでいいです」
黄金聖闘士に同じ攻撃は通用しないし、私も聞き取れなくてパードゥンと呟いているわけではない。しかしもしここにスマホと実況アカウントがあったら、大量にクエスチョンマークをくっつけたツイートを連投していたに違いない。なんで私?飛び火じゃねえかな。
気持ちはわかるよ。私は攻撃もできないし、しばらく傍に置くのなら野郎よりも女がいいよね。私でもそうする。誰だってそうする。たぶん。相手がビアンカでなければそうする。
リゾットの目がかすかに細められた。不穏な仕草だった。怖いしちょっと痛いから手の力を抜いてほしい。あと、ダンを睨むのやめてあげてほしい。
この要求に怒ったのはリゾットだけではなかった。アヴドゥルさんは下劣な卑怯を前にムカ着火クロスファイヤーハリケーンスペシャル。額に青筋を立てている。
「あ、あの……落ち着こう?こういうのってサバンナでは日常茶飯事だし……」
「何の話をしているんだポルポ!?」
誰かの盛大な怒りを見ると、こちらが怒っているのが悪いような気になって相手を宥める方向に気持ちがシフトしてしまう。あの、落ち着いて。ダンもそれ、サバンナでは同じこと言えないから。リゾットもアヴドゥルさんも落ち着いて。承太郎くんには時間がないんだし、とりあえずみんなには先に行ってもらおう。
まあでも怖いよね。誰かが居てくれたら心強いし、その誰かはリゾットであって欲しかったんだけど、ここでダンに逆らうのも完全に間違えている。
大人ぶって、なあにすぐに追いつくさと死亡フラグをあえて立てておいた。死亡フラグだと自覚してフラグを立てると生存するという逆フラグに変化するんだよ。わざと死亡フラグを立てたままガチで死亡してしまう例もあるけど、それには目を瞑った。
「……ポルポだけでは……。……わたしが残る。先に行ってください、ジョースターさん。承太郎を必ず救って……こいつを倒すのです。リゾット、ここはわたしに任せてくれ」
「素直に行くと思うか? 察しているだろうが、優先順位だけで言えば、俺はここで承太郎が死のうが構わない」
「えっいま承太郎って言った」
名前で呼んだ。初めてじゃん。これレアどころか国宝に指定すべきじゃねえかな。ああ、うん、当の承太郎くんに時間がないのは知ってる。
アヴドゥルさんと花京院くんはリゾットをきつく睨んだ。ここで仲違いは良くない。ニヤニヤとこちらを見ているダンの思惑に嵌ってタイムアップになるのも怖い。オッケーオッケー、わかった。承太郎くんを助ける手伝いをしてからダッシュで戻って来てダンをボコボコにしてくれ。そうしてくれ。リゾットならできるって信じてる。
「私は承太郎くんが死ぬのは嫌なのよ、リゾット」
なぜなら個人的に大好きだし、大切な人だから。ジョジョ的な意味で。
真摯に見上げると、リゾットが眉根を寄せた。上目遣い下手くそでごめんな。
「平行線だな」
まったくだわ。私がリゾットの立場でも、立ち去り難い。それでも私の意思を尊重してくれたリゾットに乾杯。攻撃要員が花京院くんしかいなくなったのは非常に不安なんだけど、どっちにしてもアヴドゥルさんは承太郎くんの脳内では大暴れができない。血管焼き切れちゃうからね。

必ず戻って来るからな、と言い残して走り去っていったたくましい男たち。
一方、私とアヴドゥルさんはダダダダーンとまったく可愛らしくない男の傍にはべらされていた。イルーゾォ以上5部ナレフ以下の顔面レベルの男とごつい占い師とおっぱいボインな私の髪が一瞬の風塵になびく。
胸の下で腕を組み、おっぱいが重いなあと現実逃避。アヴドゥルさんがスティーリー・ダンに殴り掛からないかが心配だ。いつでも振りかぶれるように拳をつくって待機している。
ダンは私を手招きした。おっぱいを揉みたいのかな。魅力的だもんな。オランウータンに揉ませるよりもスティーリー・ダンの方が抵抗がないのは問題かな。でもあっちは本能むき出しで生理的にゾワワっときたけど、こっちはまさか即揉み即ヤ、いや下品だったな。えーっと、即座にアレソレ、とはいかないだろう。アヴドゥルさんが「承太郎も理解してくれるだろうッ」と叫びながら幻想をぶち壊しにかかってはたまらないのはあっちの方だ。アヴドゥルさんの腕の太さならたぶんダンくらい殴り飛ばせる。ついでに承太郎くんが複雑骨折する。
スタンド使いは私の胸には手を伸ばさなかった。じろじろと顔を近づけて品定めし、ぐに、と目の下を指で押した。
「良い眼じゃないか。リゾット・ネエロとお揃いか?」
それね、思うよね。違うんだけどな。
「すました顔して、余裕ぶっていられるのも今のうちだぜ。あっちのアヴドゥルを見習ったらどうだ?今にも俺に殴り掛かりそうだ。なあ、殴るかい?顔か、胸か、腹か?承太郎くんはどうなるだろうなア」
今時こんな台詞を吐く人が本当にいるのかと心が震えた。余裕ぶっていられるのも今のうちだぜ。キリッ。一度は言ってみたい。こんな薄い笑みを浮かべ女の顎を手ですくいながら真剣に。
「くっ……!」
アヴドゥルさん、聞き取れないけど憎々しげな響きの母国語出てますよ。
もっとソレっぽいことを言ってくれないかな。身の危険が迫っているとは思えない期待が募る。夜まで待ってしけこむとするか?くらいは言って欲しい。
ダンは私を裏切らなかった。
「さて、まずはどうしてもらおうか……。アヴドゥルは思う存分パシるとして、あんたが問題だ。まあこっちに来い、ゆっくり二人で楽しもうぜ」
口元に手を当てて目を逸らし大草原。本当に言った。本当に言った。私は目先のことをもっと考えるべきだ。今ここに迫る非処女の危機。
アヴドゥルさんもスティーリー・ダンも、私が恐怖で震えているのだと思い、それぞれの表情を深めた。
「わ、私をどうするの?」
「直接身体に教えてやるさ」
もう耐えられなかった。
両手で顔を覆って盛大に崩れ落ちかけた。ヤバいもうだめだ、さっき思っていたこととは真逆だけど早くこいつを黙らせてくれ松田ァ誰を撃ってる。
「(助けてリゾット……)」
いつからダンをまともなチンピラだと錯覚していた?
わざとらしく慰めるように私の肩を抱いたスティーリー・ダンが追い打ちをかけた。
「震えてるのか?怖がるこたあないすぐに楽しくなるぜ」
お金払うから黙って。スタッフー!
「抵抗された方が承太郎にダメージも行くし、燃える気もするがな」
ほんっとこの人、エンターテイナーになった方が良い。
アヴドゥルさんはそうは受け取らない。私も現実が見えているつもりだし、このまま行くとダンだけじゃなくて見張り役だったアヴドゥルさんにも大変なことが降りかかる未来しか見えない。さすがに私もそこまでの状況に陥ったら、承太郎くんの痛みも構わず懐のスタンガンで。
ん?
今、私ってば天才的な閃きを見せたんじゃない?
アヴドゥルさんの罵声をBGMに、私はそっとポシェットに手を入れた。そして至近距離で私の髪の匂いを嗅ぐ鋼入りの男に、黒っぽい塊を押し付けてスイッチオン。バチバチバチバチッ、と激しい音がして、スティーリー・ダンは数秒もせずおかしな具合に身体を痙攣させ気絶した。
「……第3部完?」
「まさかそれが役立つ時が来るとは……」
本体が気絶してスタンドが消え、残った肉の芽は花京院くんが引っこ抜いてくれる。スタンガンの威力を体感したことがないのでよくわからず、意外と冷静に押し付けはしたけど起きないかが心配だ。
アヴドゥルさんが首を振った。一時間は起きないだろうとのことだ。されたことがあるのかな。
数十分後に4人が駆け戻って来る。承太郎くんは少し身体を引きずっていた。マジでゴメン。
それから、こちらも。
「リゾット……、あの……あのですね……、疚しいことは何もないと言うか……」
リゾットは私を抱きしめたりはしなかった。戻って来てもひと言も喋らず、倒れ伏す男の横でアヴドゥルさんと談笑していた私の肩を掴んでそっと自分の方に向ける。私も両手を顔の高さまで上げてこくこく頷く。大丈夫、何もなかったよ。私が内心で大爆笑していただけだよ。草が生えすぎて刈るのが大変。もしかすると怖すぎて笑っていただけかもしれないが、ラリッたテンションで楽しかったから結果オーライだ。いざとなればなんとかなると思っていたのもある。ポルポさんは現実を見ないのが大得意だった。
眉根を寄せて私を見つめるリゾットに、アヴドゥルさんがおろおろと話しかけた。
「リゾット、彼女には何もない。英断だったし……気丈だった。わたしは彼女が泣くかと思ったのだが、あ、すまない」
泣かないですよ。だけど彼の言葉からは思いやりがあふれていて、すごく気を揉んでくれていたのだと言葉ではなく心で理解できた。もどかしそうに手を動かし、必死に私をフォローする彼を無条件で甘やかして何に対しても同意してありがとうを繰り返したくなるこの想いに名前を付けて保存したい。親心かな。勘弁してくれ。
「とにかく、何もなかったんだ。優しく労ってやって欲しいのだが……」
健気極まるアヴドゥルさんの言葉に感涙。顔で笑って心で泣いて。意味が違うが、この際気にしない。
リゾットは私に顔を近づけて、おでこにキスをくれた。
「離れて悪かった」
「え、あ、いや……、……だ、大丈夫だよ、仕方ないことだし……」
しどろもどろになってしまう。低く囁かれると状況に関わらずテンパってしまうんで、普段のトーンを崩さないでいてもらえると嬉しいのだけど。
ふぅ、と深呼吸をして、場の雰囲気を自分の方へ引き寄せる。リゾットの手に手を重ねてニコッと笑った。余裕を持って優雅たれ、と唱えてから。
「もう一回してくれたらもっと大丈夫かも」
少し離れたところで律儀に目を逸らしていたアヴドゥルさんがポツリと言った。
「あんなに震えていたのに、……やはりリゾットの存在は大きいのだな」
ねえ待って震えてない。震えていたとしてもそれは別の、その、笑い的な震えだと思うし、今ここまで治まった空気を掻きまわさないでほしい。本当に震えてないんだよリゾット。ちょっと怖かった、ような気がするけど、それもチューで吹き飛んだよ。大丈夫大丈夫、大丈夫。
「詳しくは後で聞く」
「ここで終わらせたかった」
切実に。


リゾットと私の間に流れた気まずい空気を風切り音とともに晴天の奥深くへ吹き飛ばしたのは、誰あろう承太郎くんだった。
「気絶した相手をぶちのめすのは気が引けるぜ」
なあんて言って思い切りスティーリー・ダンへの恨みを晴らしている。私のことはちらりとも睨まなかったし、恨み言も言わない。なんて良い子なんだろう。
「……大丈夫だったのか?」
それどころか心配され、あたたかい気持ちになる。なんて良い子なんだろう。大事なことなので二度言いました。大丈夫だったよ。今思えば相当なドキドキサバイバルだが、無事にみんなと合流できて幸いだった。
しかしまあ、エロ漫画から飛び出して来たような男だったな。紳士の皮をかろうじてかぶっていたらしいのが逆にそれっぽい。
「カラチを嫌いになってしまっただろうか……?」
いじわるな駆け引きを持ち掛け、彼氏の機嫌を損ねてしまった彼女みたいな発言だ。
アヴドゥルさんは真剣に悲しんでいるようだった。いやいやそんなことないですよ、と全員で首を振った。
何かと騒がしかったカラチから抜け出し、船を貸し切りペルシャ湾を渡る。
船の中は静かだったし、旅に支障はなさそうだった。舵を取る航海士も、スピードワゴン財団から派遣され、カラチの近くで待機していたれっきとした一般人だ。
私と高校生組は、船室で地図を見るジョースターさんとアヴドゥルさん、それからリゾットを横目に見ながらトランプで遊ぶことにする。花京院くんがカードを切って素早く分ける。半分にした束を両手で持ち芸術的にシャッフルする彼は平然としていた。貴様この作業慣れているなッ。
私の手札にジョーカーはない。道具があればドンジャラで青年たちを真っ裸にむいて差し上げるところなのだが、残念ながら船室には備えられていなかった。そりゃそうだ。
姿の見えないババを見極め、引くカードを決める。承太郎くんがスッと一枚差し出すようにカードを押し上げたので、遠慮なくそれをいただくことにした。裏の裏を読んでシロと見たよ。はい、ババでした。
悔しいが表情には出さない。こちとらババ抜きには一家言持ってるんだぜ。何年付き合ってきたと思っているんだ、君たちよりもずっと多くのババと向き合い愛し合い時に喧嘩し共に生きて来たんだぞ。前世の小学生時代はババ抜きで負けるたびにきなこ棒を奢らされたから必死だったしな。おっと、余談。
「しかし、承太郎が攻撃を受けた時はいったいどうしようかと思ったぞ。孫の脳みそを覗くなんて、一生のうちに何度あるかなァ?」
「本来ならば一度もありませんよ、ジョースターさん」
「それもそうじゃな」
アヴドゥルさんは6人分のマグカップに飲み物を用意する。5人にはコーヒーを注いで、私には紅茶を淹れてくれた。トランプの散乱するテーブルに3つのカップを置き、ニコリと微笑んで席に戻る。
「流れでテレビを買ってしまったが、カラチで売り飛ばせて助かった。捨てるわけにも、ここに持ち込んでわしが念聴するわけにもイカンし」
小型のブラウン管テレビはスタンドの茨が絡みついただけで傷もなかった。船に乗り込む前に売りさばき、購入時よりも少し減ったお金を取り戻したジョースターさんは、そのお金で新しい食糧を買った。それにはおやつも含まれていて、私たちはこの勝負を終えたら勝った者から順に好きなものを選べることになっている。中東のジンギスカンキャラメルと名高い菓子が一つ混ぜられているので全員が水面下で必死にもがいていた。ただの遊びのつもりだったのに、あえて賭けを持ち出して来た花京院くんは自分の手腕に絶対なる自信を持っているようだ。大人として負けるわけにはいかない。
「うおあッ!?」
承太郎くんが花京院くんから一枚のカードを引いた時、ぐらりと船体が揺らいだ。カップが倒れ、飛沫が靴にかかる。異常事態を受けて咄嗟に立ち上がった私たちの中でも、ジョースターさんが一番にドアを開け外を見る。
一分ほど待っても、二度目の揺れは起こらなかった。敵でないのなら船に何か問題があったのかと、アヴドゥルさんとジョースターさんが並んで様子を見に行く。
すぐに戻った彼らは揃って首を振った。
「横波に煽られたらしい」
「敵ではないんですね」
ジョースターさんは頷いた。
「どの船を選ぶかはわしらがランダムに決めたし、操舵も財団から派遣された航海士に任せているからな。彼は少し怪我をしたらしいが、擦り傷で済んだようだった。進行に問題はないと言うからバンソーコーだけ渡して来たよ」
今のペルシャ湾は比較的穏やかだが、海は何があるかわからない。無事にやり過ごせたのなら良かったと声をかけ合い、すっかりめちゃくちゃになってしまったトランプを集め直した。再開する気分にはなれず、箱にしまう。
「お菓子はじゃんけんにしようか」
「そうですね。リゾット……さんはどうしますか」
歩み寄ろうとしているのか、花京院くんはカラチ以降リゾットによく話を振っている。
どうなのかと見守れば、案の定彼はいらないと言っていた。まあ、予想はできていた。
でも、付き合いであっても高校生とお菓子を張り合ってじゃんけんをするリゾット、ちょっと見たかったな。
「(……)」
ふむ、じゃんけんをするリゾットか。何を出すのかな。チョキを出したらその手を肩の高さまで持ち上げてピースさせたい。二度と私とじゃんけんしてくれなくなるだろうけど。
「おいジジイ、腕をどうした?」
「ン?」
承太郎くんが目ざとくジョースターさんの腕に付着する血を見つけた。ごしごしと手でこすると赤色が掠れた。ジョースターさんの傷ではない。
「ンン?何じゃろうな」
「航海士の彼を治療した時についたんじゃあありませんか」
「そうか。スマンが布巾を取ってくれ」
血痕は拭われ、船は航路に戻る。話はそれで終わるはずだったのだけど、まあうまくいかないのが奇妙な冒険というものだ。
「うっ……」
ジンギスカンキャラメル的なものを見事に引き当てた花京院くんが渋い顔をしているので、私もひとかけら食べさせてもらう。本当にまずくて吐き気がした。邪悪だ。これは忌むべきものだ。名状しがたい殺人兵器。口を手で押さえて俯く。ちょっと吐いて来る。
「そこまでの味か?」
「じょうたろーくんもたべてみなよ……」
異物を排除しようと猛烈に唾液が出ていて喋りづらいが、くそまずいエキスに汚染されたものを飲み込むのもつらくてほにゃほにゃした喋りになってしまった。
「ああ、揺れに気をつけてな」
すべて解った顔をするアヴドゥルさんもまた、過去の犠牲者なのだろうか。
一向に飲み込めない異物を口の中の一角に封じたまま、こみ上げる嘔吐感を理性で止めて廊下を小走りに行く。世界に対する負の感情が一気に膨れ上がった。
私と入れ違いにトイレから出て来たジョースターさんは、真っ青な顔をした私の背中をさすってくれた。船酔いだと思われたっぽいけど、ごめん、私は口内にダークマターを有しているのでひと言も喋れない。
自分の惨状で手いっぱいだったため、彼の腕に大きめのデキモノがあることには気づかなかった。


吐くのが下手くそでまったくゲロれなかったけど(汚い話だわ)、浴びるように水で口をゆすぎかろうじてSAN値を回復させた私は、ふらつく足で船室に戻る。分厚いドアの向こうからかすかに数人の声が聞こえた。何だろう、じゃんけんですごく盛り上がっているのかな。それともフルーツバスケットでもしているんだろうか。
確か、次の敵はデス・サーティーンとか、えーっと、影の薄い太陽のスタンドとかその辺りで、船の中では何も起こらない、と思っていたんだけど。
私の大きい胸には砂漠を越えてセスナに乗る前に覚悟を決める準備しかなく、船でのことなんて吹き飛んでしまっていた。私の記憶違いだろうか。印象に残らなかっただけかな。
念の為にドアをノックした。途端に、内側からガチャンと鍵を掛けられてしまう。
「えっ新しい嫌がらせ」
もちろんそうではなく、入って来るなと言いたいらしい。つまり部屋の中では何かが起こっているのだ。私には手出しのできない緊急事態が5人を襲っている。
何もせずに待っているだけというのも気が引けたが、本当に私には何もできない。敵の正体にだって心当たりがないくらいだ。ポルナレフなら憶えているのかな。だけど、本当にこんな場所で何かが起こっていただろうか。
ゆっくり考える時間を手に入れてしまったので、腕を組んで壁に凭れる。タロットのアルカナの数は増減しない。小アルカナまで出てきたら詰むけど、まさかまさかだ。
扉の向こうからつんざくような悲鳴が聞こえ、船が再びぐらりぐらりと大きく左右に揺れる。まるで誰も舵を取っていないような。
血痕と、見えもしなかったデキモノと、ジョースターさんと異常事態を結び付けろと要求するほうが無茶なのだ。私は自己正当化に余念がないぞ。血みどろの部屋に招き入れられ、惨劇を目にするまで、さっぱり状況を理解できなかった。いやはや、こんなことになっているとは。なにこれは。激しく困惑した。
「お前は大丈夫そうだが、よく部屋に入って来なかったな」
リゾットは私を褒めたのかな。入りたくても入れなかったんだよ、鍵が閉まったから。
視線がアヴドゥルさんに集まって、彼は最もドアに近い位置で真摯に言った。
「すまない。敵はジョースターさんだけに狙いを絞っていると思い、彼女が入って来るのは危険だと判断したのだが……敵が複数いる場合を考えて、我々のうち誰かひとりが抜けるべきだったな」
「人に対してずっとトイレにこもっていて欲しいと願ったのは初めてでしたよ」
そんなことを願われていたのか。
「ポルポが無事で何よりじゃ。わしは無事じゃあないがな」
「いったい何があったんですか?」
ジョースターさんの腕は血まみれで、床には切り刻まれた肉塊が転がっている。よく動揺しねえなと承太郎くんが呟いた。動揺してるよ、別の意味で。
肉塊に見覚えはないし、今も正体に心当たりはないけど、刃物もじゃらじゃらにまき散らされているところを見ると、この血だまりにはリゾットが関わっているようだ。ジョースターさんの腕から何かを切り離すついでに内側からメタメタにメタリカちゃんで四散させたのかな。さすがポルポさん名推理。
ここらでベナレスのことを思い出した。そういえば、襲撃には抜けがあったっけ。もはや自分の中で説明を組み立てる必要もないわ。エンプレスじゃん。なるほど、海を渡る前に襲ってきたのかあ。知識とおっぱいだけが武器なのに、ここまで後手後手だと笑っちゃうな。ちょっと変則的に襲って来られると困る。ポルナレフでも困ったと思うし、たぶん私は悪くない。よし、元気を出そう。嫌な話だけど、次があるよ、次がね。なんつって本当に次があるからやっぱり困るんだよな。
「わしの腕にこいつが寄生しておって、近くにいたリゾットを食おうとしたんだが、まア……それより先にリゾットがナイフでわしを刺そうとしたもんで危うく死ぬかと思ったぞ」
「狙ったのは腕だ」
「躊躇なく刃物を振り切られたら流石のわしもビビるんだよォ!敵ながら、受け止めたエンプレスには感謝する」
「受け止めたの!」
そりゃスゴイ。ヘイネエロッ、スタンドはスタンドじゃないと倒せないんだよチュミミーン。そんな感じで嘲笑われたのかな。
ジョースターさんの顔色はジンギスカンキャラメルに殺されかけていたさっきの私レベルで青かった。わかる。怖いよね。私もリゾットが真剣に刃を砥いでいるだけで怖い。あの白刃の煌めきがさあ。ぴかぴかだと更に恐怖を煽られるよね。
「アレには僕たちも冷汗をかきました。こちらが攻撃しようにもハイエロファントは食われかけたし、エメラルドスプラッシュはジョースターさんに当たってしまうかもしれない。アヴドゥルさんの炎で焼くわけにもいきませんし、承太郎が動こうとしたんですけれどね。そうしたらリゾット……さんがスタンドで敵を攻撃して、あっけなく片付きましたよ」
腕の肉ごと切り飛ばしたんでしょうね。答え合わせをしたら正解だと赤ペンで花丸を貰えた。ジョースターさんの腕に寄生しているなら血も通っているもんな。お前の血は何色だーと訊ねて実行してみて鉄分まみれの赤色だったらリゾットの勝ち。
「すげえ痛かったんじゃよ。これでわしは二度もメタリカを食らったことになる」
「でもそれって凄いことですよ、ジョースターさん。リゾットのメタリカで本気の攻撃をされて生きてる人って本当にいませんでしたからね!」
「褒めとるんかそれは」
何度も頷いた。リゾットのスタンドの正体を知りながら生き延びる敵は今までに数えたことがない。一度逃がしたとしても二度目はないタイプだ。
「"私の"リゾットは最強ですからね」
冗談だったんだけど、アヴドゥルさんは引いていた。