27


ポルナレフは少しだけ認識を改めた。思い出した、と言ってもいい。
そう、砂漠の真ん中で、は確かに友情を口にしたのだった。

血まみれで倒れる花京院に、初めのうち、少年は気づいていなかった。
やって来た救急隊が怒鳴りながら担架を動かす。小柄な身体は「邪魔だ」と突き飛ばされ、たたらを踏んだ彼を承太郎が支える。ポルナレフはそれだけを見て目を閉じた。
ポルナレフ自身、相当に疲労している。身体は軋み、痛くて仕方がない。すべてを忘れて眠ってしまいたかった。
意識を繋ぎ止めたのは、承太郎の鋭い声だった。
!」
あの青年がこんなにも声を荒げるとは、ポルナレフには意外だった。
しかし、それも仕方のないことだろう。ポルナレフだって、もしもあの場にがいたのならば、きっとそうしたはずだ。答えがわかりきっていたとしても、縋りついたはずだ。アヴドゥルは無理だったとしても、イギーなら。イギーの傷を何とかしてくれと。
承太郎は花京院を示したようだった。
、テメーにしかできねえことだ」
は悲痛な声を出した。
「僕に死ねって言うのか?僕に……承太郎が……」
「一度はコントロールした。今、やらなきゃあ、花京院は死ぬんだ」
別々の救急車に乗せられたため、ポルナレフにはそれ以上のやりとりはわからなかった。
たった一度の『コントロール』が何のことだったのかも、花京院がまだ生きていたのか、それとも承太郎の見間違いだったのか、それからがどうしたのかもわからなかった。

花京院は意識もおぼろげながら、の手を拒んだ。
出血のショックだけでなく、生命力を最後の一滴までスタンドに注いだために彼の命は今にも潰えようとしていたが、震える手が腹部の血を小さくかき混ぜるのを感じて、声を絞り出した。
「いらないよ……」
この傷をのスタンド能力が引き受ければ、の命がどうなるか。『等価交換』だとが言うのならば、きっとこの傷はそっくりそのまま彼の綺麗な腹に穴をあけてしまうのだろう。
自分はもう助からないと思っていた。
花京院は瞼を下ろし、深く息を吐く。不思議と痛みはなくなって、心地よい眠りがやって来る。
「じょうたろう、承太郎、僕に、死ねって、言うのか」
の声は泣きそうだった。承太郎は、どうしても花京院を救いたく思っているらしい。光栄だと、心で思う。
だからこそ、死ななくていい。友情の証を命で立てる必要はないのだ。花京院はもう充分からの、屈折した友情を受け取っていたつもりだったし、承太郎もそれをわかっているはずだった。たとえ花京院が生き残ったとして、その代償にが死んでしまっていたら、誰も喜びはしないだろう。
一方で、考える。
なぜ承太郎はにそんな無茶を言うのだろうか。
思い出されるのは、花京院の目を切り裂いた魔の手のことだ。水の刃は彼から視力を奪うところだったが、のスタンドにより窮するを逃れた。その時、傷を吸い取ったの目には、傷は移らなかった。
もしもあのことを引き合いに出し、にスタンドのコントロールを命じているのだとしたら、あまりにも的外れなやり方だと花京院は思う。承太郎はのことを良く知っているはずなのに、強引な方法に出たものだ。それしか花京院を救う手立てがないとはいえ、はこの程度で自己を制御できるほど大人ではない。付き合いの浅い花京院にも、容易に察せられる。
案の定、は癇癪を起して花京院の服を傷ごと握りしめていた。もう痛くもなんともないが、嫌な感覚は伝わる。
「もういいよ」
言ってやれたら、どれほど良かっただろう。
花京院にはもう、口を開く余力すら残されていなかった。

強い意志のもとに、スタンドは動く。
承太郎には確信があった。人は、スタンドは成長できる。
必要なのは意志と選択だ。何を捨て、何を拾い上げるのか。何に重きを置くか。スタンドの能力を成長させた者として得た真実はそれだった。そして一度、は選択を成功させている。
傷はどこへ行ったのか。の視界にひびを入れた痕跡は。
『選択』の末に、『等価』の代償としてスタンドが差し出したのは自らの木偶の身体だった。丸い頭部に刻まれた二筋の切れ込み。花京院のものでも、のものでもない傷痕だった。彼がこのことに気づいたのは、ホテルでを問い詰めたその時だった。
「承太郎」
はとても低い声で言った。
「おぼえていろよ。お前と、花京院は、一生、僕の下僕だ」