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戦えないはDIOの館に入ることを許されない。
ここに来て、ジョセフは冷静な判断を下した。は冗談でも「行きたい」などとは口にしなかった。
「オメーなあ、冗談でもいいから『僕も行く、みんなを待ってるだけなんてできない』……とかなんとか言えねえのかよ?」
「僕は正直だから、思っていないことは言えないね」
は与えられた決断を甘受し、それならばとカイロのホテルで悠々と時を過ごしていた。
たっぷりと夕食を摂り、丁寧に身を清め、きちんとケアをしてテレビを見る。
道行く人が犠牲になってはいけない。しかし、夜は吸血鬼の時間だ。折り合いをつける為、ジョセフたちは明け方を待って出発した。朝陽が徐々に昇っていく早朝に叩き起こされたは、悠長にも二度目の惰眠を貪りにベッドへもぐりこんだ。
普段ならば、昼頃まで眠っていることだってできる。
けれどこの時は、うまく寝付けなかった。今この瞬間にも、知り合った男たちが、知らない男と戦いを繰り広げているという事実に、気が昂ぶっていたのかもしれない。
は冷笑した。
そんなことは、今の自分には関係がない話だ。待っていろと言われたのだから、は待っているしかない。心配だからと宿を抜け出し、可憐な肉体が暴漢に穢されでもしたらどうするのか。出て行ったところで、自分にできることはない。
カーテンを開け、窓を開ける。
砂っぽく、冷える街に顔を出し、眉根を寄せて目を眇め、ぼやけた視界で空を見た。向かいの通りの看板すら見えない。自分の爪先だって危うい。視力はだんだんと低下していた。
しかし、見えないながらも、街の様子が変わったことには気がついた。
盛大な音を立てて、何かの塊が足元へ吹っ飛んでくる。は脱兎のごとく部屋の奥へと逃げ込んだ。割れたガラスが落ち、窓の外に出っ張るように造られたベランダに、何かが引っかかっていた。ぴくりとも動かない。
それはポルナレフの身体だった。

仕掛けた攻撃をことごとく避けられ、逆に弾き飛ばされたポルナレフは、何が起こったのかわからないうちに壁へ叩きつけられていた。
ホテルの石壁にひびを入れるほどの衝撃だ。骨は折れていたし、全身に打撲を負っている。
意識がふつりと途切れそうになった時、遠慮なく肩を揺さぶってくる華奢な手が容赦のない痛みを思い出させた。
「おい、お前、承太郎は?承太郎はどうしてるんだ?」
「おまえ」
ポルナレフは声を絞り出した。
「他に言うこたあねえのかよ……」
「治さないからな」
「ちげえよ……」
言いたいことは山ほどあった。報告しなくてはならないことも、言うべきこともあった。何よりもまず、「逃げろ」と言ってやるべきだった。
どこにあっても変わらない、ふてぶてしく、わがままで、残酷な少年に、ポルナレフは苦笑した。誰かと重なる苦笑だったが、それを指摘できる者はいなかった。
「承太郎は戦ってる。……お前は、逃げろ」
は真っ当なことを言った。
「どこへだよ?」
ポルナレフは答えられず、くたびれたカーテンを爪先から振り落とした。冷たい風が喪失によく沁みた。