25
少年のいない道中がこんなに静かなものだとは。アヴドゥルは苦笑交じりに首を振った。
が口を開いても、皮肉か文句しか飛び出さない。自分本位で、わがままで、アヴドゥルとは相容れない存在だった。共存を目指しても、彼の方から拒むのだ。
―――頭のいいやつは早死にする。
いつだったか、ずいぶんと頭に来ることを言われたものだ。具体的な時期はおぼえていなかったが、アヴドゥルの記憶にはその言葉だけが焼き付いていた。
心が傷ついたわけではない。ムッとすると同時に、「なるほど、そういう考え方もある」とも思った。彼が他人のことをそういうふうに評価する、ということも意外だった。
しかし、一回り以上も年下の子供が口にするにはあまりにも残酷で、卑劣な言葉だと感じた。だからアヴドゥルはをたしなめたが、彼はまったく堪えた様子もなくつんとそっぽを向いた。
あの場違いな声が聴きたい。
文句ばかりを吐き出す、可愛らしい唇を見たい。
なぜかアヴドゥルは強く思った。非日常へ向かう足取りが、想像していたよりもずっと重かったからかもしれない。戦いに赴くこの重圧を、高みから見下ろして嘲り、笑い飛ばしてもらいたかった。
イギーはのことなどどうでもいい。も、イギーのことなどどうでもよかった。
二人の道は交わらない。犬と人間、どちらもお互いを気にしないまま、数日を終えていた。
目に映るのは白いタイツだ。つやつやとした靴は、きれいに磨かれていたが、履きつぶされかけていた。そういうことしか思い出せない。
はイギーに何も言わなかった。コーヒー味のガムを渡されたこともなかったし、可愛がろうと手を伸ばされたこともない。は犬に触りたがらなかった。イギーには、無駄な接触がなくて都合がよい。
少年が置いて行かれると知って、当然だろうなと漠然と思った。どうにもばからしいことだが、イギーが脚を一本犠牲にして手に入れた情報は、あの子供には重すぎたのだ。老人たちはに、これ以上の同行を求めなかった。
戦えないものを置いて行くのは当たり前のことだ。
イギーにとって、とはその程度の存在でしかない。そしてまた、にとっても。
太陽の光で男の身体が崩れてゆく。
荒い呼吸で、灰と化す敵を最後まで見届けて、ポルナレフは空を振り仰いだ。
「アヴドゥル……、イギー……」
呆然と考えた。はきっと、死を理解できない。
死ぬ覚悟も、死の悲しみを分かち合おうともしないやつだ。
だから、にはきっとポルナレフの気持ちがわからない。誰にもわからないまま、ポルナレフだけが自分の悲しみを蓄積させて生きていく。
は何も言わないだろう。アヴドゥルとイギーが、わずかな亡骸を残してポルナレフに背を向けてしまったと知っても、何も言わないに違いない。いつかの船上で、救えない命を見過ごした時と同じように。
何も感じない筈はない。多少なりとも心には動揺が走っているはずだ。それでも、少年の目には、かけらたりとも涙は浮かばないのだ。
そのことがどうしようもなく羨ましかった。