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ドリーム小説
の手を掴んだのは承太郎だった。
同室に配置された二人は、カイロでの素早く過ぎていく夜を見つめながら、翌日への準備を済ませていた。
シャワーを浴び、ふわふわの栗毛に丁寧にドライヤーを当てるは、身だしなみを整えていきながらとても楽しそうにしている。美を追求し、誰よりも美しくありたいと願う少年だ。毎日の手入れは欠かせず、その時は彼自身の日常の彩にもなっていた。
「なあ承太郎」
唐突に上がったアルトの声に、承太郎は煙草の煙を長く吐き出した。天井に立ち上るくすんだ匂いをドライヤーの温風で吹き飛ばしたは、嫌そうな顔をして灰皿を指さす。肺が汚れるし匂いがつくからと、は同じ空間にいる人間が煙草を吸うのを時折嫌がった。
承太郎が彼の主張を無視していると、少年は「フン」と鼻を鳴らして立ち上がり、大げさに手を伸ばして夜を映す窓を開けた。冷たい風が通り、承太郎の視線が抗議を帯びる。
「寒い。閉めろ」
「じゃあ吸うのをやめろよ」
は顔をしかめて腰に手を当てた。ネグリジェの内側に隠れる細い腰が強調される。承太郎は特に何も感じないまま、白けた顔で煙草を灰皿に押し付ける。
「それで、何を言いかけた?」
は「あぁ」とベッドに胡坐をかく。窓からは冷たい風が吹き込み、承太郎は渋々スタープラチナにそれを閉めさせた。ぴたりと封じられた部屋に、の楽器のような声はよく響いた。
「なあ承太郎」
くるりと前髪を人差し指で弄る姿は、透き通って見えるほどに儚く、可憐だった。
「僕がお前に好きになってもらいたくて、ノーマルなお前に愛されたくて女の子を目指したって言ったら……嫌いになる?」
ちらりと承太郎を見上げた眼は、愛されるために生まれて来たようなものだったが、一抹の不安を含んでいた。相手がどこにいるのかをきちんと見極めようとするように、わずかに目が凝らされる。出現したままのスタープラチナはそれを見逃さなかった。
二重の意味で眉根を寄せた承太郎は、「」と名前を呼ぶことしかできなかった。
突然の出来事を同時に処理し、適切な対応を思い浮かべるほど、青年は老成していなかった。
「なんてね」
その隙をついて、は小悪魔の表情で首をかしげる。
「冗談だよ承太郎。びっくりしたかい?僕の女装は趣味さ。こんな美貌を男のまま枯れさせるなんてもったいないからね」
承太郎の唇が重く動いた。
「……てめーは性格が悪いな」
「そういうところも可愛いだろ?」
けろりと笑う少年は、ベッドに手をついて、サイドテーブルのコップを探した。細く華奢な指先が彷徨った。
彼の手を掴んだのは、承太郎だった。
沈黙が降りた。
は青年の手を振りほどこうとしたが、しっかと閉じられた手指は、まるで鍵のかかった窓のようにびくともしない。
「なんだよ」
は承太郎を睨みつけた。
承太郎は答えない。の指先から遠い位置にあったコップを、反対の手で取って、ひやりと冷えた表面をおもむろにに押し付けた。薄っぺらい肩がびくりと跳ねるのを見て、低く名前を呼ぶ。
「、俺に言ってねえことがあるな」
「あるさ。たくさんね。よく言うだろう、秘密を着飾って人は美しくなるって」
「冗談をふかしてる場合じゃあねえ」
の言葉は途切れ、少年らしい力で承太郎を突っぱね振り払う。
いつもなら、承太郎はすぐに手を離す。の癇癪に付き合うのはご免だと思っているためだ。だが、今は離さなかった。痕がつくほどに手首を締め付け、真実を引き出すまで異国の色をした瞳で、女の姿をした少年と睨みあう。
に助け舟をよこす者は、二人きりの部屋の中には誰もいなかった。