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ドリーム小説
安堵の息を吐いたのは、ダービーだった。テーブルに広げられた相手の手札は、ダイヤのワンペア。ばかばかしいハッタリだ。
「君の負けだ」
ダービーは自信たっぷりに、宣言通りのスリーカードを提示した。ジョセフがの名を呼び、は短く頷いた。
「あ、そう」
ただそれだけだった。魂は抜けない。ダービーは今度こそ激しく動揺し、カードを置いた指が震えるのを感じた。
「じゃあもう一戦しよう。次は僕がロイヤルストレート―――……」
「フラッシュだ」
「それだ、承太郎。―――それを引く」
バカなと笑い飛ばす声は震えていた。
このビスクドールのような少年はとんでもないこと言っている。
確かに、一度きりの勝負だとは誰も言わなかった。ダービーはこの少年の心を一度でくじくことができると確信していたからだ。ジョースター一行に激震を走らせるだけの威力はあるとも考えていた。自信満々の少年が強気を折られ、コインにおさめられる。その瞬間はダービーの目前まで迫り、今や手が届かんばかりだったというのに。
はまったく、ダメージを受けていないようだった。
自分の手札に自信を持っていれば持っているほど、予想が外れた時の恐怖は大きい。ダービーの経験上、そういう相手の魂こそが容易に手に入るはずだった。
それが、この少年は自分が負けたことに何も感じていない。
「何見てるんだよ?さっさとカードを配ればいいだろ?」
彼は信じ込んでいるのだ。頭からつま先まで、自分が敗北したなどとはかけらも感じていない。次は確実に王者の手札を引き寄せられると、疑いもしない。敗北感などはおぼえない。
苛烈なまでの衝撃を受けたのはダービーの方だった。誰にもばれないいかさまを仕掛けている身であるにも拘らず、次は、この愛くるしい少年に負けると思った。ハッタリを嘲笑するつもりが、呑まれていたのはダービーの方だった。
「(負ける)」
そして、知らずのうちに雌雄は決されていた。

ポルナレフはの評価を改めた。
こいつは図太く、諦めが悪く、まったく潔くない。性格も良くないオトコオンナだ。だが、その度胸と鈍感さが良いように作用した。
「ちったあ見直したぜ、
「あぁそう。どうでもいいけど―――うわッ」
ぶちん、と音がしたかしなかったか。はポルナレフの目の前で大げさに転倒した。見ると、白いソックスがさらさらの砂で汚れ、少し離れた場所に靴が転がっている。ジョセフが拾い上げたエナメルの靴はストラップが切れていた。
「ああああッ!最悪だ!僕の靴が壊れた!ひどい!ひどすぎる!」
は何度もクリーニングに出してきらびやかに着飾っていたが、靴だけは毎晩自分で磨くだけしかできていなかった。満足のゆく靴屋に出会えるかもわからない旅路で、靴底やストラップにかかる負荷はどれほどのものだっただろう。激しく消耗した靴には仕方のない末路だったと言えた。
しかしは納得などしない。
「最悪だ……」
ぐず、と整った鼻を鳴らして嘆く。まつげが濡れているように見えて、承太郎は大雑把に手を差し出し、を立たせてやった。
は承太郎の制服で思い切り目元をぬぐった。
「靴屋にも行けない……」
それくらいの分別はついていたのかとアヴドゥルは意外に思った。時間に猶予がないとは、さすがのにもわかっていた。
「これくらいならわしが夜に直してやろう」
励ますように笑ったジョセフを見上げて、はこくりと頷く。素直に、「そうしてよ」と礼にもならない礼まで言っていた。にとっては精一杯のお礼のつもりなのだ。
よほど気に入っていたのだろう。
「確かに似合ってっけどよォ」
素材もデザインも、のファッションの系統ではありふれた靴に見えた。
こだわりの強いが執着するとは思えなかったが、少年は、すっかり機嫌を損ねた顔をして答えた。
「承太郎が似合うって言ったから」
「は?」
呆気にとられた花京院とポルナレフを振り返って、は思い切り鼻を鳴らす。「冗談に決まってるだろ」と言い捨てられ、二人は顔を見合わせた。
承太郎は何を考えているのかわからない顔で、帽子のつばを引き下げ、を引き連れて砂の街をゆく。