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ドリーム小説
ポルナレフによく似た子供は叫んだ。
「ダメだおねえちゃん、その影に触れたら……!」
戦闘能力を持たないは、いきなり向けられた警告の声に構えることもできずびくりと身をすくませた。咄嗟に固まったを承太郎が引き戻す暇もなく、二人は不穏な影に絡め取られる。
ぐぐぐと、風船がしぼんでいくように青年らの姿が縮んでいく。ポルナレフは絶望の声を上げた。
「あああッ、おねえちゃんとおに、アレ……、お……ねえ……ちゃん……?」
承太郎に突き飛ばされ尻もちをついたは、中学生くらいの年齢に退行していた。だぼついたスカートがめくれ上がり、細く華奢な太ももはタイツの上からでもわかる少年らしい若々しさがあった。ポルナレフの幼いおつむが混乱する。
「僕に手を出したら承太郎が黙ってないからな!承太郎、やっちゃってよ!」
の姿がボロボロなのは敵のせいではなく突き飛ばした承太郎が原因だったのだが、はそのことには目を瞑った。居丈高に命ずると、承太郎が緩くなった帽子を引き下げる。
、下がってろ」
小学生ほどの身長にまで縮んだ青年は、幼い拳を全力でふるう。
哀れな男はやわい鼻骨をへし折られた。

一行が合流する頃には全員がすっかり体力を消耗していた。
「やれやれ、とんでもない目に遭った」
承太郎の肩を叩いたのは花京院だ。彼は螺子やビスをぶつけられ全身に青あざを作って戻って来た。は「うええ」と顔をしかめる。
「あざくらいなら問題ないだろ。唾でもつけて治しておけよ」
非情な言い草だ。
しかし強く出られない花京院は苦笑をするに留めた。確かにこの程度のこと、の能力を使うまでもない。

は生来細かい作業には向いていない性格だ。おどおどと大人しかった時も、女の子のような外見に釣られて学ばされた手芸ではひどい目に遭った。
勝つのは絶対的な『差』であり、いかに卑怯な手を使っていたとしても最終的に自分の利益になれば何の問題もない。
の考え方の根本はそういったものだったが、しかし彼は美以外のステータスには欠しかった。ギャンブルもまた同じだ。細かい作業が得意ではないは指先も不器用だったし、心理的な駆け引きをすることなど考えたこともなかった。
なぜなら、すべての人間はの前にひれ伏すべきだからだ。そこに駆け引きは必要ないのだった。

彼女は―――彼は世の技術の粋を集めて作られたビスクドールにも似ていた。
透き通るような白い肌はエジプトの太陽にも負けじと輝く。栗色の髪は絹糸のように柔らかい。強気そうな眉に長いまつげ。瞳は丸く、目の形はこれ以上ないまでに整っていた。鼻は可愛らしくを少し童顔に見せ、唇は薄く塗られた桜色のリップクリームでぷるりと潤う。胸元を彩る青いリボンが冴え冴えとした印象を与えた。
愛くるしい姿で、は言った。配られた手札すら見なかった。
「先に言っておく。僕は一番強いものを持ってる」
「……ロイヤルストレートフラッシュのことか?それともファイブカードのことかね?」
「どっちでもいいよ」
ダービーは沈黙した。配った札はワンペアだ。ノーペアにしなかったのは、可憐な少年に対する餞別のつもりだった。
五枚のカードはテーブルの上に整然と配られたままの様子で並んでいる。あまりにもお粗末なはったりだった。
「では私も公表しよう。私はスリーカードだ」
わざとらしくカードを確認して宣言すると、は興味を失ったように首を振った。
「中途半端でつまらないな。同じ手札でぶつけて来いよ」
無茶を言う、とジョセフはよほど口を出したかった。相手は必ず何かを仕掛けてきている。少年の魂をみすみす奪わせるわけにはいかなかった。
今すぐにでも代わってやらねばと思ったが、立候補したのは自身だ。面倒事を嫌がる彼女―――彼の意外な言葉に、ジョセフはいさめるタイミングを失ってしまった。
その結果が、これだ。
「せめて手札を見ろーッ!」
声の裏返った指摘はもっともだ。敵が何を仕掛けているかもわからないのに、のあの自信はどこからやって来るのか。
「幸運の女神でもついてるつもりかよ!?」
ポルナレフの言葉に、はようやく振り返った。
「いいや、違うね」
ギャンブルの土俵にすら上らず、勝利する者の笑み。
「僕が幸運の女神なのさ」
の手が一枚一枚、伏せられたカードをめくる。