19


、……どうして……」
花京院の表情はには見えなかった。目は包帯で覆われ、視界は暗闇に包まれていた。
は何でもない口ぶりで言った。
「アレを貸しだと思われたら困るからね。僕はお前に借りなんか作らない」
「貸し、だなんて……僕はそんなこと、そんなこと思ってやいなかった!」
「どうだかな」
は肩を竦めた。厭味ったらしい仕草だった。
仲間からの酷薄な言動への耐性が酷く薄い青年は、愕然と、身体から力を抜いた。の服を指先が滑り、だらりと身体の横に落ちる。
「なあ」
笑んでいた。
の輝く瞳は隠されていても、つんとした鼻と、可憐で意地悪な唇はいつものように笑顔を形作っていた。
「花京院、リンゴ剥いて」
「……は?」
頼りなくの手が彷徨った。承太郎は枕元の籠から見舞いの果物を取って渡してやる。するとはそれを、どこにいるともわからない花京院に突き出した。
「お前はしばらく僕の『目』になれ」
幸いなことに、は失明していなかった。数日もすれば包帯も取れるという。そこにどんな傷があるのかは、今のところ承太郎しか知らなかった。そこに何の傷もないことも、承太郎しか知らなかった。
が『ピンクペイン』で吸い取ったものに、瞼の傷は含まれなかった。
本体であるも知らないことだったが、『ピンクペイン』はひどく従順だった。持ち主のが心底から恐怖していると知って、本人も知らない間に多少の『進化』を遂げていた。
美しさが損なわれてしまうかもしれないことに。視力を失うかもしれないことに。
それでもが『行動』したのは、自身のエゴのためだ。少年は自分のことしか考えていなかった。自分が唯一で、自分が一番で、だからこそ花京院を治療した。
その『行動』に、スタンドが応えたのだった。

明晩承太郎から、の目元に傷がないことを聞いたジョセフとポルナレフは、自分が安堵していることに驚いた。
危険な旅に傷はつきものだ。しかしは仲間の傷を癒す役割でありつつも美を追求するあまり、傷とは無縁なように思えた。
フリルのついた長袖のブラウスは腕を隠し、白いタイツは脚を隠している。今まで彼女が―――彼が治してきた傷は仲間たちの目に入らない。清潔感のある青いリボンや乙女らしいスカートは過酷さから程遠いものだったから、ポルナレフにもジョセフにも、のじゅうぶん手入れされた柔肌に傷がつくことなど、不思議なことにまったく想像できていなかった。
この旅が『異質』であるということを目の前に突き付けられ、が声高に『被害者』であることを叫ぶ要因が表れなかったことに、ポルナレフとジョセフは自覚もなく胸を撫で下ろしたのだった。