17
漁村の宿でシーフードカレーを食べる。
疲れた身体に濃い味が馴染み、花京院は異国の味に舌鼓を打った。
「こういう味つけには飽きるかと思っていましたが、そうでもないですね」
ちらりと目をやると、が黙々とスプーンを動かしているのがわかる。あのですら文句を言わずに食べている。よほど空腹だったのか、文句を言う体力もないのか。
ぶうぶうと頬を膨らませるの姿が見られないことは、不思議な寂しさをもたらした。友人がいつもの調子を取り戻すまでには、あとどれくらいの時間がかかるだろうか。
花京院は理不尽にぶつけられる不平不満に親しみを抱くようになっていた。
「、おいしい?」
の隣に座る承太郎は、向かいに座るポルナレフの言葉に不愛想な相槌を打っている。
花京院はポルナレフの隣から、斜め前に座るに声をかけた。
整った唇を布ナプキンで丁寧に拭うと、は汚れたそれをくしゃくしゃに丸めてテーブルに置いた。
「まあまあだね」
言葉とは裏腹に、彼の食の進みは早かった。
気に入ったのだなと笑いが零れる。花京院はこういう会話に憧れていた。
なんでもないことを、なんでもない口調で、なんでもない時に話す。
そんな場面に、どうしようもない憧憬を抱いていた。自分でも気づかないほど深くに押し込められていた想いだった。
だから、花京院は友人を助けた。
仲間だとか、回復の為に必要な人材であるとか、そういったことは考えなかった。
承太郎はいない。
ジョセフたちと今後の作戦を立てる為、今晩はとは別室を取っている。だからこの場にいるのは花京院だけで、動けるのもまた、彼だけだった。
ただ、「隣にいる友人を守らなくてはいけない」という思いに突き動かされてタオルケットを跳ね除ける。
DIOの放った刺客がナイフを振り下ろす。
は眠っていて、花京院だけが張り巡らせたハイエロファントの索敵網に引っかかった敵を見つけていた。
「エメラルドスプラッシュ!」
緑色の宝石がいくつも男の身体に撃ち込まれる。吹き飛ばされた男が宿の壁に激突した音で、はようやく目を覚ました。ハイエロファント・グリーンの放つ薄ぼんやりとした緑色の光は、の寝ぼけた頭を現実に引き戻す。
「え……、何が……?」
は床に転がったナイフに気がついた。それが自分を殺す為の道具だと思い至り、「あ……」と声が漏れる。
「、怪我は?」
「ない、けど……」
の頭の中では整理のつかない考えがめぐっていた。花京院は今何をしたのか。自分に何が起こったのか。この男はいったい誰なのか。
もしかすると、自分は今、死にかけたのか。
恐ろしい推測に、の着心地の良いネグリジェの下に鳥肌が立った。
「助けて、くれたの」
質問ではなかった。花京院は首を振らず、否定も肯定もしなかった。助けることは当然だと思ったし、それについて、から何かお礼を貰いたいわけではなかった。
「……礼は言わないからな。僕を守るのは君たちの義務だ。当然のことだし、……そう、当然のことだ」
は自分に言い聞かせるように言った。震えるため息を吐いて、タオルケットを握りしめる。
「だけど、……褒めてあげてもいい」
花京院は笑った。言うに事を欠いてそれか、とくすくす笑みをかみ殺して肩を揺らす。
呻き声も漏らさずに気絶する刺客は、の命令で花京院がきつく縛り上げた。