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ドリーム小説
中学に上がると、は抑えていたものをぶちまけるように傍若無人な態度をとった。
それは今も変わらず、承太郎はの荷物を持ってやる。知らずの内に存在を許容している。彼にしては破格の対応だった。
はそれを知ってか知らずか、承太郎にべったりとくっついて離れない。承太郎の学ランの裾を握りしめて、可愛らしい仕草とは裏腹に吐き出される言葉は毒ばかりだ。
黙ってさえいれば誰からも好かれるだろうにと、ジョセフは思う。
だがその一方で、の刺々しい態度に慣れてきている自分も見つけていた。にちょっかいを出してつれなく切り捨てられたい。面白い欲求だと、ジョセフは孫でも見るかのようにを気にかけていた。わがままでも聞いてやろうじゃないかと寛容な気持ちが芽を出すのだ。
「僕は泳げない」
スキューバ以前の問題だった。は水が嫌いだ。プールの授業も海も、塩素の匂いと髪の軋みが嫌だと拒んでいた。ばたばたと足を動かすことが精いっぱいで、水をかくこともおぼつかない。それならばスタンドに牽引されればよいのではとアヴドゥルが提案したが、にべもなく却下された。
「スタンドも泳げない」
海水が流入する小部屋で、確かに『ピンクペイン』は水流に呑まれてゆらゆらと漂うだけだった。
「しゃーねーな……、俺が連れて行ってやる」
手を差し伸べたのはポルナレフだった。の背中をひっつかんで連れて行こうとしていた承太郎は、持ち上げた手をレギュレーターの調節の為に使った。まるで最初からそうするつもりだったように装われたが、花京院の目は承太郎を見逃してはいなかった。
「残念だったね、承太郎」
「なにがだ?」
承太郎は花京院の顔も見ずに頭上を見上げる。梯子を上って、水の中へ飛び出した。

臼のような歯に承太郎が投げ出された時、何より取り乱したのはだった。届くはずもないのに手を伸ばして、「承太郎」と大きな声で名前を叫ぶ。
声は水に溶けてがぼがぼと泡が立っただけだったが、近くにいたポルナレフにはの焦燥がよく伝わった。
「離せよ、承太郎が、僕の承太郎が」
子供のような所有欲だった。
自分より美しいものがいるわけがないだろう、と胸を張ってふんぞり返り女教皇の逆鱗に触れた張本人であるは、自分が原因であることも忘れてもがく。を羽交い絞めにするジョセフを下手くそに罵倒して、泳げない身体で必死に手足を動かした。
「承太郎なら、承太郎なら大丈夫じゃ。聞こえんか、?」
閉ざされたハイプリエステスの口の中には波も立たない。
しんとした水を伝わって、聞き覚えのある咆哮がの耳に届く。

濡れて重い服を引きずり砂浜に上がった六人は、岩陰に倒れる女を見つけた。
「うええ、歯が全部折れていやがる」
様子を見に行ったポルナレフは顔をしかめて戻って来た。相手が気絶していると知って安心したも、好奇心のまま、承太郎を引きずって女の顔を覗き込む。
「うわ、可愛くねえ」
は思わず、言葉遣いを粗雑なものに変えた。女の顔はスタープラチナの剛力に殴られ歪んでいた。
「承太郎には殴られたくないな、僕」
そんなことを許しもしないくせに、平然とどうでもよく思っていることを言ってみせる。
もちろん彼女は―――彼は本気なのだったが、承太郎からしてみれば、あり得ない状況をわざとらしく仮定するの態度は意味のないものに思えた。
合理的でない、無駄な話は好きではない。
承太郎はが掴む学ランの、濡れた内ポケットから煙草の箱を取り出した。が取り乱し、自分を求めた一瞬は、切り取られたように承太郎の瞼の裏に焼き付いていた。
「……チッ」
短く舌を打つ。煙草は一本残らずしけていた。