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ドリーム小説 アヴドゥルの生存を知ったポルナレフはあることを思い出していた。
自分以外の全員がアヴドゥルの死の正否を理解していたということに憤りはしたものの、彼の脳裏によみがえったのは一人の少年の姿だった。いつだったか、遠くない過去、怒りと不条理をぶつけて罵った相手の孤独な後姿だった。
―――できないって言ってるだろ!!
あの時の叫びが本当だったのだと、今ならばわかる。
ポルナレフ、花京院、あの場にいた二人と同じようにもまたアヴドゥルの死を確信し、は救える命と救えない命を区別した。DIOを倒すという大いなる目的の為に一人を切り捨てた。その痛みは誰しも変わらず、の叫びには彼の薄い胸が引き裂かれるような慟哭が混じっていたようだとポルナレフは思い出した。似合わない声を出すと感じたのは間違いではなかったのだ。

仲間たちは海辺の家でポルナレフを待っていた。
ポルナレフがスタンド使いに襲われたことも知らず、呑気に承太郎の隣で承太郎に出された茶菓子を食べている。そのくせ紅茶に砂糖は入れない。「砂糖を入れると太るだろ」と、甘いチャイを指しても言っていた。
アヴドゥルと並んで家に戻ったポルナレフはひとしきり、秘密を共有できなかった不満をぶちまけた。それから、その様子を傍観していたの前にやって来た。
「悪かった、。俺はオメーのことを、薄情で、仲間意識なんてなくて、命なんかどうでもいいと思っている、自分本位な、阿呆の、格好だけの、顔だけの、人間として最低な奴だと思っていた。船の上でのことも……アヴドゥルのことも。だが俺の認識は間違えていたし、お前は決して無情じゃなかった。自分の名誉の為に俺に秘密をぶちまけたりもしなかった。大事が見えている奴だった。悪かった、
は黙って聞いていた。ポルナレフに向けられていた胡乱な視線は徐々に気味悪そうに距離を置くものに変化していたが、そのことに気がついたのは承太郎だけだった。他の三人は、ジョセフも花京院もアヴドゥルも、ポルナレフの態度の軟化に驚いていてそれどころではなかった。
「僕の偉大さを理解したというのはまあいいさ。だけど僕たちは最初から歩み寄ったり、わかり合ったり、そんなことはしなくていい関係だ。ビジネスってそういうことだろ。その証拠に僕はポルナレフから何を言われたってこれっぽっちも傷つかなかった。だから君が謝る必要なんてない」
「……」
黙り込むしかなかった。いやに静かな沈黙が降りて、花京院はが自分のことを友人だと認めてくれたことこそが夢だったのではないかと錯覚した。眩暈がした。
だがあの時のの言葉に嘘がなかったことは、花京院自身がよくよくわかっていた。
あの後、は承太郎に凭れながら花京院の目の前で美容についての講釈を延々垂れ流し、自分がいかに異性や同性に好かれてきたかという、花京院にしてみればまったく興味のないことを笑いながら話していた。その様子が作り物とはとても思えなかった。
「ポルナレフ、きっと僕と君は性格が合わない。合わないとわかり切っているのに会話を続けたり、歩み寄ろうとしたり、そういうのって無駄じゃないか?大変だろ?」
ひどく冷淡な理屈を、は貫き通すつもりのようだった。本気でそう思っているのだ。
しんと静まった部屋の中で、花京院はどうしたらいいのか自分の動きを決めかねていた。友人にどこまでの干渉をしていいのかをまだ計りかねていた。を叱っていいものか、同意をしておかねばならないのか。
ポルナレフと繋がる仲間の絆とと繋がる友情の絆のどちらを優先すべきか考えあぐね、花京院はどちらも選べなかった。
「……オメー……は、仲良くしようたぁ思わねえのか」
「できるならする。できないならしない。したいっていうのならもちろん受け入れるけど、僕は去る者は追わないんだ。追いすがるなんてみっともないからね」
が気にするのはどこまでも自分のことだった。周りのことなんておかまいなしに、自分の考えのままに進んでしまう。
「君の視野はとても狭い。それは不幸なことではないか?せっかくの機会なのだから世界を広げるべきだとわたしは思うが」
険しい顔をしたアヴドゥルは、自分が不在の間にと仲間の間に何があったのかを知らない。ただこの不穏の渦中で、若い人間がどこまでも狭苦しく生きていることに大人としての忠告をすべきだと判断した。
それに対する答えは、心の底からうんざりしたように肩をすくめる仕草だった。
「そうかもね。でも、僕はそうして生きていく。君たちみたいに真っ当な性格をした人とは、きっと永遠にわかり合えないよ」
もう、話しても無駄なのかもしれない。
そんな思いからポルナレフは視線を落とした。
承太郎だけが、静かにを見つめていた。