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ドリーム小説 「僕を……信じてくれないのか」
腕の傷をさらけ出し仲間たちの不信を募らせた花京院は、恐れたことが一斉に起こったような絶望を浮かべて後ずさった。
花京院に突き刺さる視線はどこまでも冷ややかで、「僕はその傷を治さないからな」と少年は高くそびえる壁を立てた。腕に傷が移ることを忌避するは、青年に心を砕いてスタンドを出すそぶりを見せることすらしなかった。
「夢遊病だか自傷癖だか本当なんだか知らないが、いいか、僕はその傷を治さないからな。悪趣味な刺青みたいなものじゃないか」
が気にしているのは、どこまでも自分の見栄えだった。ただの刺傷ならまだしも、文字をかたどっているとなると抵抗感が増すらしい。『悪趣味な刺青』という言葉選びに、花京院は呆れかえった。そんな場合ではないのだと主張して、自分の要求を伝える。

赤子が危険なのだと再三訴えると、は指で耳を掻いた。フッ、と指先を吹き、ハンカチで拭う。
「じゃあぶちのめそう」
!赤ん坊じゃぞ!」
「そうだぜ、お前、血も涙もねえと思ってたがマジに赤い血が流れてんのか?!こんな赤んぼがスタンド使いなわきゃあねェーだろ!」
「冷静に考えなよ。どうせ僕らは眠るんだ。眠らずにいるわけにはいかない。なら、スタンド使いとして疑わしいやつは再起不能に叩きのめす。それが君たちのやるべきことだし、今までだってそうして来た。殺さずに仕留めるなんて簡単だろ?気絶するまで絞め落とせばいいじゃないか。それで僕たちは代わる代わるに眠るんだ」
の導き出した回答はよどみがなかった。躊躇せずに残酷なことを言い、同行者を閉口させた。
けれど彼が最後にぼそりと呟いたことに、ジョセフもポルナレフも気まずく視線を逸らす。
「今まで一緒に旅をしてきた奴の言うことを何も信じないで錯乱したと決めつけるのもナンセンスだと思うね」
「…………」
花京院の胸に泣きたいほどの感情がこみあげた。はバカにしなかった。端から否定するのではなく、勢いに流されるのでもなかった。自分の意見を持ち、花京院を信じることを選んだ。
傷ついた腕を伸ばしの肩を情けなく掴むと、彼はスタンドではなく自分の指で花京院の傷に触れた。ピリリとした痛みが走ったが、花京院には気にならなかった。
「治さないからな」
念を押されても、今度は呆れたりなどしない。
「いいよ、治さなくて。……ジョースターさん、今晩は僕が不寝番を務めます。もう一人、僕が赤ん坊に手をかけないか見張る役目をしてください」
名乗り出たのは承太郎だった。
「俺がやろう」
一歩前に出た孫をジョセフが止める。
「しかし承太郎、お前は主戦力じゃ。健康に支障のあることがあっては……」
「ポルナレフ、ジジイ、花京院の射程距離を考えろ。花京院に疑いを持っているポルナレフを一緒にしておくのもアホらしい。遠近のバランスをとるなら俺が起きているのが適っちゃあいねーか?」
「……ありがとう」
花京院は承太郎の右手をしっかりと握りしめた。
は―――……」
心なしか冷や汗を流しているように見える赤ん坊を冷やかに見下ろし、月明かりに冴え冴えと映える青いリボンを翻したは、栗色の髪を指でくるりといじくって言う。
「僕も起きてるよ。当たり前だろ。これがこいつのとんでもない妄言だとしても万一のことがあっちゃ困る。もしも僕が死んだりしたらそれは世界の損失だ」
「そこは素直に『信じているから』だとかなんとか言えないのかい?」
「信じてないのに信じているなんて嘘は言えないよ」
がりがりと頭をかきむしったのはポルナレフだった。
「何だよその会話はよぉ!テメー友だちいねえだろ!」
の唇が不満そうに歪んで、それから彼は少しだけ微笑んだ。
「いるさ。……だからこうして、肌に悪いことをしようとしてるんじゃないか」
ぎゅっと承太郎のたくましい腕に抱き付いたから、の顔は陰になって花京院からは見えなかった。
ただその言葉に込められた意味を読み取り、花京院の頬は熱くなる。屈折した性格のからの真っ直ぐな友情の証を感じて、花京院の心には初めての喜びが灯っていた。