12
ドリーム小説
スタンド使いの仕業によって気が狂うほどの熱に襲われ、は一時気を失っていた。
彼女を―――彼をヤプリーンの村まで運んだのは承太郎だ。肩に担ぐのでも小脇に抱えるのでもスタンドに持たせるのでもなく、承太郎は小柄なを人形のように抱いて不安定なラクダの上でバランスを取り、夜の砂漠を渡り切ったのだった。
「意外だったぜ、あの承太郎があんなことをするなんてのは」
ポルナレフが言った通り、承太郎はをぽいとベッドに放り投げると、首元を飾る青いリボンまで解いてやっていた。
襟をくつろげる意味があったのか、ただの気まぐれか。
ジョセフもよくは察せなかったが、見ていて悪い気はしなかった。孫の性根を改めて知った気がした。
花京院、ポルナレフと同室だったの目覚めは最悪だった。
あと五分という言葉を繰り返してポルナレフから失望と共に惰眠を買った少年はその穏やかなまどろみを叫び声で掻き消され、寝乱れた姿で不機嫌に起き上った。
「うるさい……」
隣のベッドで眠っていた花京院がうなされていることにはなんとなく気がついていた。
しかしにとっては花京院の不穏な睡眠など興味の範疇から外れている。
彼は自分の眠りが冒されない限り無視を決め込むつもりだったが、こんなにも恐れおののいた声音で朝の眠気を吹き飛ばされては我慢もできないようで、血圧の上がり切らない低い声で非難を表した。陰湿な風が大木のこずえを揺らしざわめかせたような、ささやかで重苦しい音だった。
「どんな悪夢を見たってどうだっていい。僕に迷惑をかけるな」
「す、……すまない、」
気が動転していた花京院は押し切られるまま、素直に謝罪を口にした。はじとりと眇めていた目をゆっくりと大きく開き、一つ瞬きをして窓の外に目をやった。空は晴れていて、砂地には風が模様を描いていた。
乾いた潮風にさらされ、今はアラブの熱風に悲鳴を上げる寝起きの髪をなでつけ、はうんざりした声を出した。
「もう砂なんて一生見たくないね」
さすがのポルナレフも反発することなく頷く。
厄介ごとを背負うなんてご免だと言ったのはだったし、正直なところ、ジョセフも花京院もそれに全面的に同意をしたかった。首を振ることは道義的に憚られたが、臆面もなく本音を口にしたに内心で何度も首を振る。赤子を抱えている余裕など、彼らにはなかった。
だがそれがセスナを引き換えにした取引だというのなら、同意せざるを得ない。時間的猶予もまた、彼らにはないのだ。
「飛行機に乗っているとよォ、なんだか眠くならねーか?」
「気圧が関係しているんじゃないか?僕もあまり眠れていないから少し眠るよ。正直、眠りにはあまりいい気持ちがしないんだが……体調を思うとそうも言っていられない」
二人が目を閉じてから赤ん坊が泣きだすまでにはそう時間はかからなかった。
幼子の必死の訴えを黙殺したは、つんつん、と隣の花京院の腕を指でつつく。花京院は目覚めなかったが、彷徨った手がの細い手首を掴んだ。ぎょっとしたをよそに花京院はそのまま、波に流されまいとするように力を緩めない。
「なんだこいつ、気持ち悪いな……」
こう言っただったがそれ以上は何も口に出さず、反対にいるポルナレフの足を思い切り踏んづけた。ぎゃあと痛みに跳ね起きたポルナレフを顎で使って赤子の面倒を見させる。
「お前はなんかしようとは思わねえのかよ?」
「どうして僕がやらなくちゃならないのかわからない」
「『協力』っつー言葉を知らんのかおのれは」
「知らない」
はしれっと言ってのける。
ポルナレフは額に青筋を立てて立ち上がり、狭い機体のあちこちに身体をぶつけることとなった。眠りの中、錯乱した花京院が操縦桿を蹴り飛ばしたのだ。
悪夢にもがく花京院の必死の抵抗に引きずられて座席から叩き落とされたは、きりもみ状態で墜落するセスナで再び悲痛に叫ぶ。
「信じられない!死んだら一生恨むからな!」
死んだら恨めない、とは誰も言わなかった。