08

ドリーム小説 ベナレスへ到着した一行はホテルを取り、一時の休憩をすることに決めた。ジョセフを病院へ行かせる為でもある。
ジョセフの腕のできものは膿んだのか徐々に膨らんで今にも弾けてしまいそうだった。
もしも感染病の前兆ならば、今後の旅からの離脱もありえた。健康を保てなければ過酷な戦いの連続についていくことは不可能だし、老人の命すら危ういかもしれない。他人にも症状がうつる可能性もある。は病気を"治せ"ない。治せたとしても、治すかどうか。
考えて、ジョセフは苦笑した。詮のないことだ。はジョセフたちの士気を著しく低下させることに長けていたが、そのスタンド―――『ピンクペイン』の能力はとんでもない。等価交換とはいえ、人の傷を治すことができるのだ。
しかしそれについて、嫌な想いは常にあった。
ジョセフは優先順位をきちんとつけている。承太郎は何を考えているか読み取らせず、花京院はスタンド使いという同胞に対して少し甘いところがあるが、ジョセフは違った。切り捨てるべきものは切り捨て、拾うべきものはきちんと拾い上げる。そういう意志が彼にはあった。そして彼の中で、の立ち位置はいつもあやふやなままだ。
彼はホリィのことを思うのなら非情になるべきなのだ。を治癒タンクとして消費し、すべてが終わったのちで莫大な金とSPW財団での最良の治療を受けさせることでそれに報う。自身が旅の始まりに言ったように、彼女―――彼との繋がりをビジネスとして割り切るべきなのだ。の放つ言葉はいちいち刺々しくて、可愛げがなく、ポルナレフは見かけの可愛さに騙された一瞬があったからこそ、そのあとに続いた悪辣な言動を許せないでいる。ジョセフもそうやって彼女を―――彼を割り切るべきなのだ。そういう人間なのだと、割り切るべきなのだ。
老人にはそれができなかった。どうしてだろうか。数日を共にし、同じ飯を食い、時に同じ部屋で眠ったからだろうか。少女のようなあどけない寝顔を見てしまったからだろうか。呆然と立ち尽くす姿を見たからだろうか。憎まれ口をたたいている姿が活き活きしていると感じたある時から、ジョセフはもう彼のことを切り捨てられなくなっていた。もしかすると、と思うほどには、のことを気にかけていた。
もしかするとは、自分たちに罪悪感を抱かせないよう、わざと可愛げのない態度を貫いているのかもしれない。
ポルナレフの連れたネーナという女性。彼女と美しさを張り合ってぎゃあぎゃあとやかましく騒いでいるを見て、ジョセフは不意にそう思った。

呼んだが、は聞こえなかったようだった。ジョセフ自身、自分が何を言おうと思ったのかをうまくまとめられていなかったから、幸いだったのかもしれない。
だから花京院がそっとの肩を叩いてジョセフを示し、が怪訝そうに眉根を寄せても、ジョセフは何も言わなかった。
「いいんじゃよ、もう」
老人としては精一杯のやさしさを込めた言葉のつもりだったのだが、はそう受け取らなかった。突然意味もわからずにやさしさを向けられて気味悪がらないわけがない。
「"もう"って何だよ、"もう"って。喧嘩売ってる?」
「売っとらんよ!」
「じゃあ言いなよ。ほら。聴いてあげるから」
薄っぺらい胸を張られ、ジョセフは苦しい言い訳を絞り出した。
ちゃんは本当に可愛いのぉー、と思っとったんじゃよ」
誰もが嘘だと見抜いたが、はパッと表情を明らめた。心底から、本心で褒められたと思っているようだった。とても嬉しそうににっこりと、ひまわりの花が咲き誇るみたいに、ベナレスの焼け付く太陽に負けないくらいの笑顔を浮かべて大きく頷く。
「当然さ!」
ジョセフはできもののある方の手で胸を押さえた。
相手は少年で、性格も決して良いとは言えない。むしろ最悪だ。そうだとわかっているのに、悪意のない表情を見るのは初めてのような気がして、心臓がどきりと高鳴ったのだった。
ジョセフの表情を見たの眼差しが探るようなものに変わって、彼はじろじろと老人を眺めまわした。「あ、でも悪いけど」と一転して冷ややかな言葉が下る。
「僕のストライクゾーンは承太郎だから、ジョースターさんは対象外」
「迷惑極まりねぇ話だ」
「まんざらでもないくせによく言うよ」
ジョセフはとうとう苦笑した。
まったく、とは単純なようで読めない少女―――少年だった。