06
ドリーム小説
妹の仇を討つため同行をやめると言われ、アヴドゥルは激昂した。
どう見ても罠だ。このポルナレフを誘い込むためだけに敵はわざと姿を見せたのだ。アヴドゥルの胸は仲間をみすみす死なせたくないという気持ちと、自らの考えを理解されない憤りがせめぎ合っていた。今は憤りが勝っていた。
ポルナレフがアヴドゥルの手を振り払う。
「あんたは大人ぶって説教でも考えていろよ」
あばよと残して立ち去る表情はこわばり、足取りは重苦しかった。死の危険が大幅に増すことは理解していたが、譲れないものがあった。
「止めんのか、」
「止めないよ」
ジョセフの問いへの答えは早かった。どうして僕がそんなことをしなくちゃいけないのかと逆に問われ、ジョセフは答えられなかった。仲間というにはあまりにも絆の浅い繋がりだった。はポルナレフのことを理解しようとはせず、ポルナレフからの理解を拒絶した。スタンド能力のリスクについて、何度ジョセフは語ろうとしたかわからない。はそのたびに心底嫌そうな顔をした。恩を売りつけるような形で旅の快適を保障させた彼女―――彼とは思えない表情だったから、ジョセフもアヴドゥルもここまでの短い旅路の間、ずっと口を閉ざしていた。ポルナレフがについて知っていることはおそらくとても少ない。承太郎の幼馴染で、とても可愛らしく、女装を趣味にした、いやな人物だという、ただそれだけなのだろう。もまた、ポルナレフに対して何の感慨もいだいていない。ジョセフにはそんなふうに思えていた。
仲間の身を案ずるあまり、花京院はの手を引いた。
「来てくれ。もしも軽傷を負っていたら治してほしいんだ」
「……いいよ。ただし夕食は僕のものだけでもフルコースにするんだ」
「ジョースターさん」
「うむ、わかった。、頼む」
厚底の靴は砂地を走るのに向いていなかった。は体力もなく、走っている間何度も転びそうになったし、花京院に悪態を吐いた。花京院はすべて受け流して、ただひたすらアヴドゥルとポルナレフを追いかける。
辿り着いたその場で見たものは形容しがたい感情をもたらした。それは恐怖だったかもしれない。戦いの恐怖。仲間を失うという恐怖。花京院は知らず、の少女のような手を握りしめていた。
「、……治して……やってくれないか……」
声は震えていた。ポルナレフの涙を見て、花京院の声はより一層震えた。命が何物にも代えがたいのだということを知っていながら、知っていたからこそか、花京院はを無理やりに引き寄せてしまった。
「できない」
の返事は早かった。タイムラグもなくきっぱりと答えた。その声はやはりどこか呆然としていたが、今の花京院にもポルナレフにも、それを読み取る余力はなかった。
「その嬢ちゃんは賢いぜ。アヴドゥルはもう助からねぇ。ポルポルちゃん、かかって来ないのかい。俺はここだぜ」
アヴドゥルの額から外れた布が血にぬれて使い物にならなくなっていく。
「!我儘言ってる場合じゃ―――……」
「できないって言ってるだろ!!」
高い声が空気を震わせた。一瞬静まり返った街中で、は今にも踵を返して逃げてしまいそうだった。
花京院はようやく我を取り戻した。はあの傷を治すことができない。その通りだと思った。そして今になり、どうしてあの時船の上でが治療を拒んだのか理解ができた。はこの旅に最後まで同行しなくてはいけないのだ。誰かの傷を治すために、最後まで。
「お前、また見殺しにするのか……?」
「ポルナレフ!」
だから花京院はポルナレフがこぼしてしまった言葉を止めた。
は最初からわかっていた。だから死の危険は冒せなかった。救えない命が多くあることにはずっと前から気づいていた。
失われていく命を前に、誰もどうすることもできなかった。