05

ドリーム小説
は無言だった。無言のまま、承太郎にぴたりとくっついて離れない。
黙した彼女の―――彼の態度に業を煮やしたのはポルナレフだった。部屋で一人眉根を寄せる。
あの野郎、なんだってあいつの怪我を治してやらなかったんだ。
人の能力を勝手に説明するということはスタンド使いとしてのマナーに関わる。が言わない以上、ジョセフたちはポルナレフにの能力の欠点を教えることができなかった。だからポルナレフはのスタンド―――『ピンクペイン』が対価なしに傷を回復させられる能力を持つのだと思っている。

ポルナレフは呪いのデーボというスタンド使いに襲撃を受け、カミソリや電気コードで何度も攻撃をされ傷だらけになった身体を引きずって1212号室にやって来た。もしかしたらこの傷も、は面倒がって治すことを拒否するかもしれないなと自嘲しながら血を流す。
なら今、承太郎と一緒にチケットを買いに行っておるよ」
「だけどそれにしても遅いですね。あの少女も一緒にいるんだ、戦えないものを二人抱えている承太郎が少し心配です」
「そうじゃのォ……」
不在を聞いて、傷がすぐ治してもらえないというのに、ポルナレフは少し安堵していた。これ以上、見た目だけとはいえ可憐な少女に憎しみを募らせたくはなかった。
いつ戻るのだろう。
承太郎たちの様子を見に立ち上がった花京院を見送ると、ポルナレフはぼうっとの姿を思い浮かべた。胸元の青いリボンがやけに印象に残っていた。

青いリボンを翻し、はすぐに戻って来た。手は承太郎の学ランの裾を掴んでいる。指先で摘まむような可愛らしい仕草ではなく、皺が寄るほどきつく握りしめていた。承太郎は何も文句を言っていない。もしかするともう、文句を言うことに疲れたのかもしれないな。ポルナレフは豪快な青年を見上げて、彼の目の前でに話しかけることに少々躊躇いを抱いた。幼い時からずっと一緒に過ごしていたという少女を―――少年を、ポルナレフが言葉には出さないまでも批難していると、賢い青年は気づいているだろう。彼が何を思っているのか、ポルナレフにはまだわからなかった。
「傷をよォ、……治してほしいんだが、おめー今度は治せるか?」
少々口調が皮肉めいたものになってしまったかもしれない。
しかしはポルナレフの言葉尻にこめられたひと匙の悪感情には何の反応も示さなかった。
「できるよ。……今度はね」
それどころか、ポルナレフよりもずっと嫌な声音で言い返してくる。ポルナレフはもはや遠慮はいるまいと無言で足の傷を突きつけた。
ぎくしゃくとした空気は、ジョセフにもアヴドゥルにも花京院にもどうしようもなかった。家出をして、今は行動を共にする明るい少女にも口を挟むことはできない。
家出少女には見えない力が働き、ポルナレフの傷はどこかへ吸い込まれるように消えていった。
「……結構深いんだね。痛かっただろ」
問いかける形すらとらない。まるでその痛みを知っているようだとポルナレフは感じた。そして、彼の感覚は間違えていなかった。
傷の深さを知っていたジョセフはに椅子をすすめた。老爺の丁寧な気遣いに、も白けた顔をして足を休めた。ふくらはぎを膝に乗せるようにして乱雑に脚を組むと、背もたれに背を預けて、「飲み物」と短く要求した。
己の身をもって『ピンクペイン』の能力を知った花京院は、自然と身体が動いていた。部屋に備え付けられたポットからお湯をくんで紅茶を出してやる。自分の腹にあった傷が今の腹にあるように、ポルナレフの足にあった傷は今の足にあるのだ。白いタイツには血も滲まないから、不透明なタイツに覆い隠された足の異変に気づけるものは少なかった。
紅茶のカップを受け取ったは言った。
「僕はぬるくないと飲めない」
「……君、絶対に友達がいないだろう?」
思わず口にした言葉は、意外なほど敵意のないものだった。花京院が憤慨するに違いないと思っていたジョセフたちは目を丸くする。ポルナレフなど特にそうだった。
「いるさ」
微笑みは綺麗なものだった。