03
ドリーム小説
ひどい居心地だ。はこれ見よがしに肩をすくめた。
「両隣をオッサンと爺さんに固められるなんて悪夢だよ」
「仕方がないだろう。君は戦闘に関してはずぶのシロウトだし、スタンド自体のパワーもない。戦闘経験のあるわたしたちが守らなくて誰が君を守るんだ」
叱り飛ばしたのはアヴドゥルで、の目は胡乱にアヴドゥルの"美しくない"顔を眺めまわした。極めて可憐な美少女―――美少年からの無遠慮な視線にアヴドゥルがたじろぐと、は子猫のように、心くすぐる微笑みを浮かべた。
「せいぜいしっかり守ってね、アヴドゥルさん」
自分の魅力を知り尽くした少女―――少年からのアプローチに、そんな場合ではないと知りつつも、アヴドゥルの胸は大きく鼓動した。ため息で気持ちを落ち着かせる。空港での出来事ですでに充分把握していただろう、モハメド・アヴドゥル。わたしの目の前にいるこの少年は、可憐な女装趣味なだけの少年ではないのだ。
空港に到着した彼らがまず向かったのはチケット発券の窓口だった。はいったい何に使うのかと訊ねたくなるほど大きなトランクを持参し全員の呆れを誘ったが、そのトランクは今承太郎が引きずっている。本人は肩からかけたポシェットの細い紐を握りしめ、つやつやした厚底の靴で床をかつんかつんと叩いて歩いていた。
「、自分の荷物くらいは自分で持ったらどうなんだ?」
片手にボストンバッグ、片手にトランクを持ち両手がふさがっている承太郎を見かねてアヴドゥルが苦言を呈す。の返事はあっさりしたものだった。
「承太郎が持ってくれるって言ったんだよ」
「なんじゃと!?この承太郎がか」
空港のざわめきの中でもジョセフの声は一際響いた。ごほん、と咳払いをし、アヴドゥルが列の先を急ぐ。声はやや潜められた。
「……昔からの癖だ」
苦々しく呟いた承太郎の脳裏には幼いころのの姿が蘇っていた。あの可憐で女子にしか見えなかった子供が、今は完全に女子の姿をした少年へと進化している。あの時からはのままで、気に入らないことがあればすぐに文句を言ったし頬を膨れさせた。自分の考えが通らないことなどないと信じ込み、重い荷物は承太郎に任せた。突っぱねた承太郎に無理やり荷物を預け、承太郎がそれを捨てて歩くとやはり追いかけて押し付けた。
「両手がふさがっていると不便だろ?」
不便もなにも、が誇る自分の白魚のような透き通る肌と、毎日丁寧に手入れをしている爪先を使って何かをすることなどありはしなかったのだが、いつの間にか承太郎はそれが当たり前になってしまっていた。隣でグチグチと文句を言われることに辟易したとも言う。
その、両手ふさがることを嫌う子供のようなわがままは今でも残っているらしい。
空条邸に集合したからあまりにも面倒くさがりの気配を感じた承太郎は、つい、その空気を間近で感じていることに嫌気がさして手を伸ばしてしまったのだった。はパッと顔を輝かせることもなく当然と言った表情をして、気が利かないなあ承太郎は、と対応が遅れたことをちくちくと言葉で批判した。どこまでも人の神経を逆なでするのがうまい少女―――少年、だった。
「主戦力である承太郎の手がふさがっているのはよくない。は自分で荷物を持つべきだと僕は思う」
受け取ったチケットを裏返して読んでいたは気分を害したようだった。
「じゃあいいよ、承太郎。僕が持つ」
はそう言ったが、承太郎たちの目の前に現れたのは木偶人形だった。スタンドエネルギーが集束し、木偶人形はぎこちない動きでのトランクを承太郎からもぎとると、ぎいぎいと関節の軋む音すら聞こえてきそうなガラクタ極まりない歩き方で荷物を押し始めた。
「ま、待て待て待て!"それ"を使うのはナシじゃよ!そんなに持ちたくないのならわしが持とう!」
「あ、そう?ありがと、ジョースターさん」
けろりとスタンドを消したに一同がため息をつく。この少年とこれからの旅を共にするのかと思うと、ひどく気が重かった。
はまず機内食がおいしくないと呟いた。どうしろというのだ、とジョセフは思う。ずっと年下の少女―――少年の行動は何事でも寛容に受け止めてやりたいと思っていたが、ここまで一貫した態度をとられると苦笑が浮かんでしまうのは仕方がない。
「君は今まで日本でよくやっていけたのう」
「うん。承太郎がいたからね」
ふいに落とされた柔らかい声に、ジョセフは面食らった。まるで承太郎のことを大切な友人だとでも思っているような声だった。この少年のことだから、幼馴染の青年のことですら手足にしか思っていないのではと考えていただけに、これはジョセフにとって予想外の声音だった。
少女は―――少年はすぐに表情を変えた。
「何か困ったことがあれば承太郎の名前を出せばいいのさ」
老人は沈黙した。思っていたこととはだいぶずれた回答だった。