02

ドリーム小説
の反応はあっさりしたものだった。最初からわかっていたと言わんばかりの顔をして頷くのが、承太郎にはよく見えた。
「僕もスタンドを持っているからね。見えたっておかしくはないさ」
音もなくの後ろに現れた異形の影に、ジョセフは一瞬だけ警戒の構えを取った。すぐに半歩引いた足を戻し、害意などかけらも感じさせない可憐な少女―――少年の顔をまじまじと覗き込む。は堂々と胸を張って老爺の意図を受け止めた。『ピンクペイン』と名づけられたスタンドの棒切れよりも細そうな脚は、糸で釣られでもしているかのようにぎくしゃくと不自然に動いて、よろめきながらジョセフの方へと動いていく。
ジョセフに右手を差し出した木造のいびつな人形に、臆せずジョセフは握手をしてみせた。
「君の能力はどのようなものなんだ?」
次いで握手を求められたアヴドゥルは、大きな手で人形を壊しはしないかと危惧しながら木の手を取った。人形は関節をうるさく鳴らし大げさに両手を振ってみせ、そのたびにアヴドゥルの大きな身体がぎこちなく揺れる。
は己のスタンドの手を花京院に伸ばさせる。そうしながら、すぐにわかるよ、と年上への敬意など欠片もなく言った。承太郎はの眼差しがどことなく冷ややかなことに気がつく。
木偶人形は花京院に触れた。指先から繋がった二人はピンク色に淡く発光する。身を引こうとした花京院はあることに気がついた。痛みを覚えていた身体が、嘘のように軽い。
「怪我を……治せるのか?」
「……うん、治せるよ」
の声は厭らしかった。面白くてたまらない。そんなふうに承太郎を振り返って、知らなかっただろ?と秘密を打ち明ける。自慢げだった。鋭い観察眼を持つ幼馴染に、ずっとずっと隠し事をしていたことを誇っていた。
彼らはすぐにに要請をした。ホリィの命が懸かる今、躊躇している暇はなかった。彼らの旅は過酷なものになるだろう。その時に、の能力がすぐそこにあれば、どれだけ旅が楽になることか。
少女の姿をした少年は人差し指でくるくると髪の毛をいじる。栗色の髪は指先を滑り、余裕ぶった仕草がいつも以上にゆっくりに思え、承太郎は苛立ちをおぼえた。
さっさと返事をしろと思ったか、思わなかったか。承太郎が口を開く前に、は大きな瞳で上目を遣った。ジョセフの心に言いようのない不安が広がる。この少女は―――少年は自分たちとは相容れない存在ではないか。もしかすると、DIOの側にいた方が自然なのかもしれない。
長年承太郎の傍らで生活をし、馴染んだ子供に抱くには危うすぎる感覚だった。
「いいよ」
秒針が30度も動かないうちの返答だった。
「ただし、君たちにも知っていて貰わなくちゃあいけない。僕の能力はタダじゃない。君たちは僕に尽くす義務が生じる。僕は君たちの命を助け、君たちは僕の快適を助ける。ギブ&テイクってやつさ。文句があるなら僕は行かない」
「……解った。君の要求を呑もう」
「待ってくださいジョースターさん。彼女の言い分は理不尽だ。この旅は厳しいでしょう、そんな中で彼女に特別な気を遣う余裕があるとは思えません。ホリィさんの治療のサポートに回って貰った方が……」
異議を唱えた花京院は、が首を振ったことで言葉を途切れさせた。
のスタンドは傷を治せる。病気を和らげることができる。しかし、スタンドエネルギーの暴走で生じた苦しみを分かち合うことはできない。それはが完全にスタンドを制御できているためだった。スタンドを制御できる者は、スタンドを制御できない者の苦しみを"知る"ことができない。分かち合えない。理解ができない。形のないものは不安定で、"等価"として何を差し出せばいいのか、の木偶のスタンドには判断ができなかった。
「"等価"だと?どういう意味だ、
流水のようにつかみどころのないの説明の中で、承太郎にはそのキーワードだけが浮かび上がって聞こえた。もしかすると自身、意識しない内に強調していたのかもしれない。
は言葉で応じる代わりにブラウスのボタンを上から一つずつ外していった。止めるアヴドゥルを無視して、丸い襟にかけられたリボンが解かれ、可愛らしいフリルのついたブラウスの前がはだける。中に着ていたキャミソールを捲り上げると、と、のスタンド以外の全員が息を呑んだ。
そこには痣があった。つい先ほどまで花京院の腹にあったスタープラチナで殴られた痕跡が丸ごと白い肌を汚していた。
「痛みは……」
思わず、訊ねたのは花京院だった。何を言えばいいのかわからないまま、何よりも大切な疑問だけが口をついて出る。
「痛くはないよ。それほどはね」
多少はあるということだ。
ジョセフの手がの白くて柔らかく、少しだけ骨ばった少年の手を包み込む。キャミソールを下ろし、ボタンを丁寧に留めてやると、年齢特有の慈愛をこめた声で、言い聞かせるように懇願した。
「君の助けが必要なんじゃ。……わしらと共に来てくれんか」
「もちろん、いいよ」
可憐な花が綻ぶように微笑む
桜色のリップクリームが塗られた潤いのある唇からは無情な言葉が飛び出してジョセフを突き刺した。
「これはビジネスだ。よろしくね、ジョースターさん」
唖然とする花京院も、憤慨しかけているアヴドゥルも、帽子を引き下げた承太郎も何も言えなかった。に対して怒りを覚えても、それは自分たちの都合だ。の要求は彼が支払う"対価"を思えば許容できるもので、彼に同行を要請した以上、ジョセフたちには何も言えなかった。