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ドリーム小説 この世の中はあまりにも真っ当すぎる。真っ当すぎるから、にはそれが眩しい。
と云う繊細で可憐な名前を付けられた子供は、名前の通り繊細で可憐な姿へと育ち上がった。栗色の髪は二つにくくられ、胸の上でふわふわと踊る。リボンはいつも青色で、服はデリケートなレースのあしらわれた風を孕んでひらひらと舞い踊るスカートだ。
ひとたびが街を歩けば視線を集め、寄せられた羨望と嫉妬の視線に微笑みを向けると、コンクリートが増え続け出来上がりつつあるジャパニーズジャングルに小さな白い花々が一斉に咲き誇ったような清廉さが生まれるのだ。は容姿に恵まれていた。『少女らしさ』を一身に詰め込まれた精巧な彫像のように可愛らしかった。唯一この『少女』としての肉体に存在する致命的な欠点を挙げるならば、それはが男性だったということに尽きるだろう。
そう。
この世の花をすべて束にし、ウエディングドレスをまとう新婦が青空へ放り投げる幸運の象徴のように綺麗なは、紛うことなき少年であった。

どっかりと胡坐をかいた青年は、膝の上に少年誌を載せてぺらぺらとめくっていく。目当ての連載漫画を見つけると、手はそこで止まった。文字と絵を追って目が動く。
その様子を眺めながら、同じく膝を大きく広げた小柄な少年が、行儀悪くちゃぶ台に肘をついている。手を伸ばして籠から新しい小袋を掴みとり、豪快にティッシュペーパーの上にぶちまける。粗雑だった。
「……落ちたモンは食うなよ」
ちらりともを見ないで、承太郎は頁を繰った。
「失礼だなお前。僕はそんなことはしないよ。健康に悪いかもしれないだろ?例えば床に埃があって、落としたおかきを拾って食べるってことはその埃を身体に入れるってことさ」
厭味ったらしい仕草になるように気をつけて、畳の目をなぞる。ぴかぴかに磨き上げられた爪が電灯の光を反射してつやりと輝いた。
空条の家は広い。外国の血が濃い家だからか、設えられた家具もどこか、の知っているものよりも大きい気がする。しかしそれはの小柄な身体と比べた話であり、週刊の少年誌を読む青年と並べてみれば普通よりもずっと小さく見えるのだ。大柄な青年と小柄な少年は同じ和室でだらだらと放課後の空き時間を過ごしていた。
「埃はねぇ」
承太郎は数コマを読み進めてから指摘した。この広い家は毎日、彼の母によって丹念に掃除がされているのだ。まったく在り得ないと断言するつもりなどなかったが、わざとらしい仕草を見せつけられては気分がよくない。
否定すると、は少女のような小さな口にあられを放り込んで豪快に噛み砕きながら首を振った。
「例えばだよ承太郎。でも、ホリィさんには悪いことを言ったね、ごめん」
この場にいない女性への謝罪には誰の返事もなく、また承太郎は無言でページを一枚やり過ごした。バトルの繰り広げられる物語には未知の化け物が登場する。『優等』ではない行動をとる承太郎にしてみても、こんな不可思議は自分とは関係のないことだと思っていた。
学ランの青年を横目に海苔せんべいを吟味する少年の華奢な肩を不思議の影がもみほぐしていることには、もちろん以外の誰も気が付かなかった。