ドリーム小説
私は小柄で、彼はそれなりに大柄だ。筋肉もついているし、背も高い。歩き方もしっかりしていて、ガラス戸を開けてジェラテリアに入って来るとすぐにわかる。
「よォ、。元気だったか?」
「おかげさまで、変わりはありません。シニョールもお元気でしたか?」
「まあな」
彼らは私の所属する組織の末端に属している。対応もおざなりにされ、報酬もまばらで、縄張りも与えられない不安定なチームだ。私はそんなお先真っ暗な彼らと組織本部との橋渡しをする役目を負っている。いわゆる、連絡役というやつだ。思い入れを抱いてはいけないし、淡々と仕事内容の記された書類を手渡すだけの関係であるべき存在。
しかしまあ、実に因果なことである。わたしはいつの間にか、この待ち合わせ相手のことを好きになってしまっていた。唐突な告白だ。誰にも打ち明けてはいないし、名前も知らぬ男も気づいてはいないだろう。何度も会い、これで――いわゆるお付き合い――は三年目を迎えるが、私は二年目の半分を越えたあたりから想いを自覚していた。
とにかくこの男は柄が悪く見える。短く刈った髪に剃り込みが入り、鋲打ちの派手なジャケットを身につける。けれど姿は豪快なのに気遣いができ、私の名前を呼ぶ声が心地よい。ジェラテリアで何のフレーバーを食べようか悩んでいる後姿を見ているのは楽しいし、会話をしていると元気が湧いてくる。平均よりも少し身長の低い私にとって、ずい、と彼に顔を近づけられひそひそ話を持ち掛けられると、包み込まれているようでとても安心したし、ドキドキと胸が高鳴った。これを恋と呼ばずしてどうするのだろう。
相手は私の名前を知っているが、私は彼の名前を知らない。チームとの連絡役を任されているとはいえ、相手は能力すら明らかになっていない謎のグループだ。同じく末端である私が迂闊に聞き出してはいけないのだろうなと判断し、誰にも探りを入れないままここまでやって来た。習慣で問いかけようとしたら「任務に名前は必要か?」と逆に問い返されてしまったので、追及のしようがなかったとも言える。ちなみに、私の名前はジェラテリアの店主に訊けばすぐにバレてしまうので、自分から打ち明けることを選んだ。隠す必要もない。
「今日は新しい仕事か?」
わざわざ、私が彼を指名して呼び出すことなど、任務以外ではありえないはずだ。これは職権乱用、誰にも言えない傍若無人な呼び出しコールだった。
私は首を振った。
「違うんですよ」
シニョールは怪訝そうに眉根を寄せた。ジェラートが溶けかけていたので、それを眺めながら気持ちを整える。あのですね、と勇気を出して顔を上げ、話を切り出すと、彼は真剣な顔で私の目を見つめてくれた。
「私はあなたのことが好きなんですが、どうすればお名前を教えていただけるでしょう?」
この男が閉口する顔を、三年目にして私は初めて見た。