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刀剣乱舞 (彼氏持ちの女審神者の話)
第二部隊に配属される刀剣たちを引き連れて、彼女はかるい足取りでゲートをくぐった。行き先は演練場である。
もはや説明するまでもない。演練場ですることといえば模擬試合以外の何物でもありはしないのだから。
審神者を称する彼女は、化粧室で唇にたっぷりとリップグロスを塗り込んだ。出かける前にも武装はしていたけれど、時間が経てば劣化してしまうものだ。彼女は寸分の狂いも許さず、自分の魅力を千パーセント引き出そうと努力を怠らない。
鏡を一つ挟んだ隣では、同じく女性の審神者とおぼしき人物が友人と楽しげに談笑している。
聞き耳を立てる趣味などなかったが、自然と聞こえてしまうものは仕方がない。
化粧直しをしながらおしゃべりをBGMにしていたところ、どうやら彼女たちは己の刀剣と恋仲にあるらしいとわかった。最近、ようやく想いが叶ったそうだ。へー、と思いつつポーチのファスナーを閉め、審神者は正装の裾を翻した。もうここに用はない。なぜなら化粧は終わったから。
審神者の帰りを待っていた和泉守兼定は、頓狂な質問に目元をしかめて荒っぽいうなり声で返事をした。
「刀と恋仲だぁ?」
「そ。なんか……なんだっけ? いずみのかみ、と付き合ってる子がいてさあ。刀剣って恋心とか自覚しちゃえる系なの?」
「な、なんだよその質問……」
頬をほんのり赤らめてうろたえる。恋情ではないが、ある程度の親しみを持つ相手からこんな問いかけをされて動揺したのだ。まだまだ若いなあ、と鶴丸が己の白い袖にしわを寄せて腕を組む。彼もほかの刀剣と同様、審神者の『いいひと』の存在を面白くなく感じていたが、客観的に見ると笑ってしまう。お人が悪い、と一期一振が苦笑した。
「そりゃ、……あるんじゃねえの」
「ふーん。ちな、いずみ、のかみ。……は誰かと付き合いたいとかって思ったことある?」
「はああッ!? ねえよ! ばかっ、誰に思慕すりゃいいってんだ!!」
「わかんないけど」
ここで自分を示さないのが、彼女が彼女たるゆえんであった。
助け舟を出したのは薬研だ。そりゃあ恋情だって抱くさ、と審神者を肯定してから、「でもその相手は大将にだって秘密だぜ」と笑う。
「なにせ刀剣の恋だ。そいつぁ道ならぬモノって感じじゃあねえか、なあ大将」
「そー?」
「ああそうさ」
「へー」
この話題からの興味はすっかり消え失せたらしい。気まぐれな嵐のようだ。
審神者は視線を持ち上げ、電子ボードに目をやった。ふむ。自分たちの順番は次のようだ。
「じゃあさあ」
いざ行かんというときになって、彼女は刀剣たちを呼び止めた。あるじの声に従って一斉に振り返った彼らは演練の対戦相手から怪訝な表情を向けられた。非常にまじめで統率が取れているように見えたのだ。実のところはこの審神者の『じゃあさあ』から始まった提案事が不穏でなかったためしがないためびくりとしただけだったけども。まあ良いように取られるぶんには構わない。
――と、もっとも審神者はそこまで深く考えていないうえに『勢い強い』としか感じなかった。
「演練で負けたらみんなでコイバナね」
和泉守が手に力をこめた。実は無理やり演練にくっついてきた同田貫もこめかみに青筋を立たせた。つかを握りしめ、ぎらりと瞳を光らせる。全員が彼らの気持ちを理解した。理屈はすべて吹き飛んだ。
勝つぞ。
気迫やばい。
のちに対戦相手はそう語る。
2017 0211