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刀剣乱舞 (彼氏持ちの女審神者の話)


 湯呑をかざし、桜の花びらを追いかける。お茶の上に浮かべられないかなと試みるが、もう少しといったところでひらりと逃げてしまう。三回やって三回ともダメだったので、諦めるとしよう。
 茶柱も立たないし、花びらも落ちない。こういう時はひらりと風情が舞い込んできてもいいだろうに、空気の読めない風物詩だ。
 頬を膨らませた審神者に、おかわりの和菓子が差し出される。遠慮なく手に取った彼女は、意外にもちまちまとかじり始めた。

「気に入ったの?」
「うん」

 乱も、はくはくと桜餅を食べる。確かにおいしい。有名な店で買ってきたそうで、今朝がたのお使いに付き合った五虎退がほんわりした笑顔で審神者を見上げていた気がする。審神者が労うと、くすぐったそうにする。ふわりと綻んだ幼い頬が、肩にのる虎に舐められて濡れる。彼は今、また出かけている最中だ。
 桜餅と道明寺が並べられて、盆に置かれる。運んだのは薬研で、乱と審神者は縁側に座って待つだけだった。
 せっかくだからみんなで食べようかと言ったのは燭台切だった。と言っても、部隊を組んだ刀剣たちは遠征で出払っている。
 審神者の気持ちとしては、せっかくのいい天気で、菓子と茶が揃うのに何もしないのはもったいない。
 二度、やればいいじゃない。
 審神者独特の理屈に「仕方ないなあ」と巻き込まれることにしてやった燭台切は用意を進め、時おり吹きつける強い風で舞い散る桜の花びらのすぐそばに場を整えた。先の通り、食べ物は薬研が盛り付けて用意した。
 並んで、桜を眺める。綺麗だね、と言い交わす。

「おいしいね」
「うん」
「だけど、もう無しだぜ。あとはみんなが帰ってきてからの楽しみだ」
「うん」

 おいしいものを食べると、人は無口になる。
 小さな口で和菓子を食べきった審神者がぺろりと指を舐める。それを見てすぐに布巾を手渡した薬研と、出遅れたものの同じようにしようとした燭台切は、もうすっかり保護者の気分なのだろうか。
 薬研は使用済みの手拭きを受け取り、畳んで置いた。

「良かったな、大将」

 そんな歳でもないのに、幼子を相手にしているような気分になる。
 審神者の外見は実年齢にあまり近づいていないし、言動も間延びして自分本位だ。たまにこちらのことを気に掛けるものだから、そのたびにぐっとさせられてしまうが、こうしているとただの――。
 いや、と首を振る。

「悪い」
「何が?」
「何でもない」
「はぁ?」

 本人にはとても言えない。
 フッと口元を緩めた薬研は、自分の湯呑を持ち上げて、目を瞠る。
 桜の花びらが浮かんでいた。
 しばらく凝視していると、乱が薬研の手元を覗き込もうとする。
 どうしたの、という怪訝そうな声にはあえて理由を告げなかった。
 そうしているうちに遠くの方にざわめきが戻ってきた。おおよその時間を計算して出していたので、ほとんど同時に全員が帰還したようだ。
 視線を遣り、迎えに行くかと立ち上がった審神者を追いかける前に、薬研は花びらごと今日の思い出を飲み込んだ。
 空っぽになった器を残し、四人は玄関口まで歩いて行く。




20150403