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刀剣乱舞 (彼氏持ちの女審神者の話)
庭にしゃがみ込む審神者の背中に声がかけられる。
にっかり青江だった。
青江から見ると、審神者はお腹が痛くてうずくまっているように見えた。
「大丈夫かい?」
「何が?」
肩越しに振り返る彼女からは具合の悪さなどかけらも感じられない。
「いや、何でもないよ。何か見つけたのかな?」
「花が咲いてたから見てたの。ほら、これ。何の花だろうね」
下履きに履き替えて近寄る。確かに一輪、景色に似合わない花が咲いていた。大ぶりで、花びらの上に花びらが重なるような形だ。
「焼き鳥に似てない? 見てるとねぎま食べたくなるよね」
「いや、別に」
「そう」
花をつんと指でつつく。青江にはどう頑張っても焼き鳥には見えなかった。
「今日の夕ご飯、焼き鳥にしてもらおっかなあ。で、ビールをクイッと」
「昨日も飲んでいただろう。休肝日を作った方がいいよ」
軽い飲み物が好きと言う彼女は、本棚からカクテルの本を取り出して手先の器用な刀剣に預けた。「待ってるね」とにっこり微笑む。つまり、覚えて作れと言うのだ。シェイカーやリキュールは食品や雑貨と共に、段ボールで現代から邸に届けられた。こちらも有無を言わせず押し付け、もう後は待つのみだ。審神者が余りにもワクワクしているので断り切れず、試作品がいくつも次郎太刀の臓腑に染み入った。
人に飲ませられる程度に腕を上げたバーテンダーモドキは、カクテルの本を読んでリクエストする審神者に応え、最近は連日連夜酒を混ぜている。おかげで毎晩酒三昧だ。月が綺麗な夜は特に盛り上がる。昨晩は特に見事な快晴ぶりだったので、審神者も足元がふらつくほど度のきついカクテルを楽しんだ。
それを知っている青江は眉根を寄せてしまう。楽しいのは何よりだが、飲みすぎは身体に毒だ。
「ノンアルビールを仕入れなきゃなあ」
「炭酸水じゃダメなのかい?」
「味が違うでしょー、味が。ビールを飲んでる、って気分が大事なのよ」
「アルコールは入っていないのに?」
「そぉ。入ってないのに」
何でもあるのだな、彼女の時代には。
酒が入っていないのに飲んだ気になれるとは、おかしな話だ。ただのカロリーのある水なのでは、と思わなくもないが、青江の知らない味がそこにはあるのだろう。
花を見ていたはずが、酒の話になっている。
茎に手をやり、手折ってしまいそうな審神者の手に手を重ねて彼女を止める。
「咲かせておいてあげよう」
「や、折らないって。花なんてあんまり触んないから気になっただけ」
「あまり触らない、というと……君は恋人に花を贈られたりは?」
彼女らならありそうな気もするが。
思った通り、審神者は幸せそうに顔を綻ばせた。
「あるよ。青い花をくれたの。花言葉を調べてチョー感動した」
「へえ?」
「うん」
「……意味は?」
「『君をずっと信じてる』」
「ふうん。素敵だね」
思い出をなぞったのか、嬉しそうにしているものだから、青江も釣られて柔らかく笑ってしまう。触れたままの手から、ぽわぽわとあたたかいものが流れ込んでくるような気すらする。
この花に与えられた言葉は何だろう。
興味が湧き、青江は花の形をしっかり憶える。
「花言葉の本を持っていたら貸してほしいのだけれど」
「あー、たぶん……持ってると思う。探しとくね」
「ありがとう」
「これ調べるの?」
「うん、そうしようかと思ってね」
審神者は気のないように聞こえる相槌を打った。
立ち上がり、固まった膝を伸ばす。審神者は青江を引っ張り立ち上がらせるふりをして――実際は青江が自分で立った――下履きを脱ぎ捨てる。しかし申し訳程度の気持ちが働いたようで、素早く履物を揃え直していた。
後日、分厚い本を渡された青江は知る。
暇があればこまめに調べていたのが良かったようで、そう長引かずに見つけられた。
焼き鳥のようと言われた花の名前と、その花言葉を。
(『あなたに酔いしれる』……か)
あの時は花を手折らせないように手を添えたけれど、明日にでも摘んで、なかったことにしてしまったほうが良いかもしれない。
あれはきっと、彼女が彼女の時代から意図せず持ち込んでしまったものだ。
誰かの目に留まらないうちに埋めてしまおうと決める。
それにしても。
(不注意だねえ……)
今に始まったことではないから、まあ、目こぼしされているのだろうけど。
しょうがないので、こまめに面倒を見るとしよう。
改めてそう思い、青江はくっと笑った。
20150322