メローネはバイクをかっ飛ばし、短い緑で彩られる春過ぎの墓に立ち入った。
いくつかの墓標が花で飾られ、目的のそれの前で細身の夫婦とすれ違った。道を譲って礼を交わす。どこか見覚えのある顔立ちだった。
濃淡の鮮やかな花が風に揺れる。
あの少年の放った毒蛇のせいで声が出づらくなり、あまり長い間べらべらと喋っていたくない。喋りたい話もない。そもそもなぜここまで来たのかもわからない。なんとなくだ。燃料が足りていたので『行けるな』と思って走ってみた。それくらい気軽な行動だった。
「おめでとう」
彼はただ十字架に口づけた。
不敬も作法も構いやしなかった。あのバンシーじみた悲鳴が聞こえないかと耳を澄ます。
何も聞こえなかった。潔癖症が治ったのかもしれない。
肩にかけた鞄に手を突っ込み、スプレーを取り出してストッパーを解除する。
唇を押し当てた箇所にシュッと一度、消毒用アルコールを吹きつけた。
「俺って優しいよなあ」
片眉を持ち上げた挑発的な笑みを浮かべ、彼は墓に背を向ける。記憶の中のが、メローネの後姿を罵倒した。