ゆらがない、何もゆらがない




「えぇ!?どうしてと同室じゃダメなの!?」
ホテルで少女が喚いたが、どうしようもないことだ。ジョセフは彼女に一部屋を与えてやって、を手招きで呼び寄せた。
名残惜しげにと別れたポルナレフは、片手を挙げてクールにエレベータに乗ってみせた。
はアヴドゥルとジョセフに両脇を固められ、ポルナレフの次のエレベーターで階を上がった。
「いやあ、海路はちゃんの機転でずいぶん楽にいけたのォ」
SPW財団監視のもと、エテ公ストレングスは檻に入れられ新たな旅路についた。
日本の、記憶にあるものと比べてチープなつくりのエレベータにが不安を覚えているとも知らず、アヴドゥルも口を開く。
「あ……、その、君に助けられたと、彼も礼を言っていた」
「お?なんじゃ、誰の話じゃ?」
少女の頭上で偉丈夫が情報を交換し合う。部屋の鍵を開けてベッドに腰掛けるよう促されても、ジョセフの口は止まらなかった。
は早々に靴を脱ぐと、ベッドの上に足を上げてしまう。
枕元まで這うと、うつぶせに寝そべるように身体を伸ばした。アヴドゥルがオホンオホンと咳ばらいをする。服の裾がめくれ上がって、白い太ももが見えていた。は億劫そうに振り返ると、指先だけでちょいと直した。窺うようにアヴドゥルを見ると、彼は赤い目元を隠すように、鷹揚に頷いた。ジョセフが歯を煌めかせて笑っている。
備え付けの電話が鳴った。
誰よりも電話に近かったは、電話といえば取らねばならぬ習慣に突き動かされて受話器を持ち上げる。
「あ」
「あ」
「もしもし」
枕に顔をうずめたまま、受話器を耳に当てて応じると、焦ったようなポルナレフの声が聞こえた。
うんと低くうめいて身体を起こすと、は素早くスピーカーのボタンを押した。
「今、襲撃を受けてるッ!すぐにそっちに……お前か!?お前じゃねぇ!ジョースターさんを出せ!アヴドゥルでもいい!」
「聞こえておるぞ、ポルナレフ!」
「誰の襲撃だ!?まさか、悪魔のカード……呪いのデーボか!?」
ぶちり、と荒く通信が切れる。
不通音がむなしく響き、はさっくり受話器を置いた。
「呪いのデーボといえば顔に傷のある男……、見ればすぐに判るでしょう」
「襲撃を受けた、ということは……部屋におったということか?」
視線を受けて、は沈黙した。どう反応していいのかわからなかった。
アヴドゥルはすっくと立ち上がり、ポルナレフの部屋に向かおうとした。しかし、ジョセフが鋭く制止する。
「待て、ポルナレフは逃げてここに来るかもしれん。状況が読めない今、連絡を待ち、デーボへの対策を考える方が先じゃ」
「……そう、ですね。……ハッ、……君は……」
アヴドゥルの視線が躊躇するように彷徨ったあげく、をとらえる。問いかけていいものか迷ったのだ。
彼の見る限り、の意識はDIOから徐々に“こちら側”に移りつつあるように思えた。その意識を、問いかけることによって闇へ戻してしまうのではないかと懸念した。
決定的な質問を投げかけられるまで、物言いたげな視線を受けても、は無表情で待っていた。決して彼女の方から答えを差し出したりしない。その姿勢を、ジョセフは見ていた。口元まで上ってきている言葉を言おうか言うまいか悩むアヴドゥルの気持ちは痛いほど理解できる。だが一方、黙するの気持ちも想像できなくもない。冷えきった眼差しはまっすぐにアヴドゥルに突き刺さり、引き結ぶこともなく力が抜けそれでいてぴたりと閉じあわされた唇は震えもしない。大の男に半ば睨みつけられるような形になっても、まったく揺らがなかった。
(これが、DIOのカリスマか……)
硬質な少女の面持ちから、ジョセフは悪の偉大さを感じ取った。



*
やけに見られている……
何が言いたいんだ……
わからなすぎて困惑する……