ドリーム小説
がブチャラティに尽くすのはいつものことだ。飼い主の気を惹こうとする小型犬にそっくりな目をしてあれこれ役に立ちたがる姿は、チームの日常にすっかり溶け込んでいた。
彼女がポルポと名乗る男からスタンド能力を授けられ――というにはいささか語弊があるが――チームに配属されたのはつい最近のことである。街角でくすぶっていたところをブチャラティに拾われた経緯は、真摯な男の下につく仲間と同じだった。ただ、積極性が突き抜けているだけだ。
どうにかしてリーダーの役に立ちたい。の想いはそれに尽きた。欲を言えば、一番頼られる部下になりたい。戦闘面ではあまり助けられなくても、できることはあるはずだ。ついでにこんな願いも込めて、彼女はちまちまと献身的に細い身体を動かしていた。
そんなの働きを鼻先で笑い飛ばす男が、レオーネ・アバッキオだ。
こちらもブチャラティに特別な思い入れと執着を抱いており、ブチャラティに付きまとうを目の敵にしている。本人はを「相手にするまでもねえよ」などと馬鹿にしているが、ミスタやフーゴから見れば彼の突っかかりは歴然とした事実だった。
「まるで小姑ですね」
少年のたとえはミスタを爆笑の渦に沈めた。ブチャラティをめぐる争いは熾烈だ。

今日も今日とて、はテーブルに頬杖をつく。ブチャラティがいる時はぴしりと背筋を伸ばしハキハキと喋るが、年若い同僚の前では気を抜くのが常だ。マグカップの横に雑誌を広げ、ポップな飾り文字で書かれたこの春限定の菓子を眺めている。赤ペン取って、と手のひらを向けられたナランチャは、算数のテストで丸付けに使われていたフーゴのペンを勝手に借りた。キレたフーゴの小さな拳が思い切り振るわれ喧嘩が始まる。は気にも留めずキャップを外した。
「やっぱり可愛いのよりカッコいいのがいいかな」
「おー」
ミスタが新聞を広げ気のない相槌を打つ。はちょこまか飛び回るピストルズを軽く指でつついた。
「それよりこっち?甘すぎるものは人を選ぶし」
「そーだな」
「ブチャラティはこういうの、もういっぱい貰ってるかなあ」
「そーかもな」
ハシバミ色の瞳がミスタを睨んだ。
「もっとまじめに考えてよ」
完全に巻き込まれている。
ミスタは瞬きした後に目をこすり、手についた睫毛をフッと吹き飛ばした。ちょっとやめてよと抗議の声が上がる。雑誌に落ちたようだ。
見失った睫毛を適当に手で払い落してやり、記事に視線を向ける。食べ物に興味はあるが、恋する乙女にも似たへの助言と思うとどうにも気が乗らない。がブチャラティに心酔して以来、こういった相談を持ち掛けられるのはいつもこの青年だった。初めこそ乗り気で見てやっていたものの、回数が重なれば飽きもする。
「オメーから貰えるモンなら何だって喜ぶだろ、ブチャラティは」
「わかってるの!でも、ちょっとでも気に入ってもらいたいんだもん」
「あー……」
恥じらった顔は庇護したくなる。黙っていれば可愛らしい顔立ちなのに、とミスタは空しい気持ちになった。蝶番が呻く音を耳聡く拾い振り返った女の表情が、一気に歪む瞬間を見てしまったからだ。
ブチャラティの姿を期待していたのだろう。そうとわかるからこそ、この男も忌々しく眉根を寄せざるを得ない。礼を取るため立ち上がりかけた同僚が気を抜いて腰を下ろしアバッキオを迎えた。
「ブチャラティは?」
「下まで一緒だったが、用事があるとかでまた出かけてったぜ」
「……」
「残念だったなア」
せせら笑われたは爆発寸前だ。これ以上ないほど歯を食いしばり、雑誌のページを握りつぶす勢いで震えている。何もそこまでと思わなくもないが、恒例のことなのでやり過ごす。厄介なやり取りには関わらないのが一番だ。ぽつりぽつりと雨が降り出したら軒下に逃げ込むだろう。とアバッキオの喧嘩も同じだ。だから雑誌を見つけたアバッキオがを言葉で揶揄しても、ミスタはそっと席を立つだけで済ませた。ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を見てボソリと「痴話喧嘩かよ」と呟いたところ、揃った動きできつく睨みつけられたというのもある。こういう時だけ息を合わせるのはやめてもらいたいものだ。肩を竦めたミスタを迎えたのは、ペン一本のせいで椅子を蹴倒す乱闘を繰り広げたフーゴとナランチャだった。こちらはこちらで騒がしい。
早くブチャラティが戻ってくりゃあいいな。
ミスタはどさくさに紛れて茶菓子をくすね、立ったままがりがりかじり始めた。