いつも喧嘩を売られるので、はそれを安く買い叩く。コインを床にたたきつければ喧しく音を立てて跳ねまわるように、押しつけられる理不尽な態度にかみついて反抗する態度はチーム内の名物と言えた。フーゴは呆れて何も言わないし、ナランチャも頭の後ろで手を組んで椅子を揺らしている。ミスタもピストルズも興味を持たずショートケーキのカット方法を考えていて、リーダーのブチャラティも、完全に二人のやりとりを一風景として受け止めていた。空に雲ができてゆくのと同じだ。そこから雨が降っても、ああ雨が降ったのか、としか思わない。洗濯物を干すのに困ると感想を抱くように、今日は長くなりそうだなと予想し、部屋干しの準備を整える。空は放っておけば晴れていくし、とアバッキオのやりとりも大抵は放置すれば治まった。
今日のきっかけは、テーブルに置かれたホールケーキの一部がつぶれていたところにある。

これを持って部屋へ入って来たのはで、若い三人は諸手を挙げて彼女の善意を歓迎した。多少ケーキの形が崩れていても何も気にせず、がその部分を自分で食べると申し出ても首を振った。ブチャラティはむしろの気持ちを優先しを立てたが、誰の何にも問題はない。
ただ一人、必要のない文句をつけたのはアバッキオだった。
「これはブチャラティに出すモンだろーが。完璧な状態で持ってくるのが『意識』っつうもんじゃねえのか?」
全員が許しているにも関わらず、この言葉を発する。アバッキオの態度にかちんと来たも血の上りやすい方だが、わざわざ口にする男も大人げない。
「すみません、階段で躓いてしまって……」
が殊勝な態度をとると、アバッキオは鼻を鳴らした。
「言い訳か?」
この日の戦いはその瞬間に幕を開けた。アバッキオの隣に立っていたは、席につく彼の足を思い切り踏みつける。
「ただの『理由』でしょ!?」
「黙ってスミマセンで終わらせりゃあイイだろうがよ」
「あんたが突っかかって来たんじゃないの!ブチャラティは許してくれたもん!」
「ブチャラティに甘えてばっかりか?マンモーニ以下だな、呆れたぜ」
とんでもない形相でアバッキオを睨みつけるから、悲鳴じみた罵倒がいくつも飛び出した。
「ブチャラティ!早くこいつの口にジッパーをつけてください!!」
「おい、ブチャラティに対して馴れ馴れしいんだよテメーは!」
とうとう二人ともが立ち上がったが、ブチャラティの周りにだけは爽やかな風が吹いていた。真剣そのものといった表情で、男女をさとす。
、アバッキオ。埃が立つから座れ」
ひと言で室内が静まり返り、背の高い二人がそっと椅子に腰を下ろす。
ミスタは待ち切れず箱の内側についたクリームを指ですくい取りながら、しみじみ思った。
(宗教だよなぁ……)
これが、ブチャラティチームの日常だ。