ご説明いたしましょう


錚々たる顔ぶれの前でもブレないのが(駄洒落じゃないよ)、我らがジョルノさまである。私はブレるほうのポルポです。
そちらは、と振られた少年は優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります、ミスター・ラインヘルツ。僕はジョルノ・ジョバァーナ。言うなれば彼女の……」
私よりも10は年下の凄絶に美しい少年は、目を弓なりに細め、一片の隙もない笑みを浮かべる。
「護衛です」
きらきらしい美貌が私に向けられ、私はそうだねと言うほかにない。打ち合わせ通りとはいえ、この5部主人公さまを護衛扱いする私っていったい何様だろうね。遠い目で壁の模様を眺めるしかない。
「僕は単なる護衛ですので、ここに居てはいけませんね。どこかで待たせていただいても?」
「協力関係にあるとはいえ、ご不安な点もあるでしょう。宜しければご同席ください」
「そうですか。……ポルポ、どうです?」
全然どうでもいいんだけど、ダメだとしてもダメって言えない空気がある。それこそ狭量に見えそうだ。軽く頷くと、ジョルノはそれなりにずけずけと私の隣に腰を下ろした。メンタルが強い。
「今回のお話はですね」
腹芸とか難しい話とかが面倒なので、手紙を渡すからもうそっちで勝手にやっちゃってって感じなんだけどそうもいかない。私は精いっぱい真面目な顔を作った。横を見ると、ジョルノも真剣に澄ました顔でいる。矛盾しているようでしていない、余裕の態度だ。繰り返すけど私より10歳以上年下。色んな意味で。
ボスの発言はすべて書面にしたためられていて、私が喋るまでもなくあちらは内容を呑み込める。暇だなと思いつつ、ボーッと部屋の内装を眺める。統一感があって綺麗だ。
ぶぶぶ、とカバンの中でケータイが震えたのは、ジョルノが紅茶のカップに口をつけた時だった。ちょっと失礼、と取り出す。ボスからしかかかって来ない、寂しい機械だ。彼らが席を外そうとする前に、盛大に音量を上げたうえでローテーブルに電話を置く。そこはかとないデジャブを感じる。
「ポルポか」
「そうですよ」
「今は?」
「紅茶飲んでる」
「ひとりだろうな?」
「ジョルノもいますよ」
「……アレか。……まあ、いいだろう」
ジョルノが目を細めた。アレ呼ばわりはひどいよね。私もボスをアレ呼ばわりしたことがあるってのは内緒にしておこう。
「例の話はもうしたか?」
「これから」
「一片の気も許すな」
「次にボスは"身体もだ"と言う」
「お前はわたしのものだからな」
「冗談だしマジ勘弁だし……」
クラウスさんの耳があることを忘れていてちょっと気まずいし……。
「あの小僧にも、不用意に近づくな。同行を認めはしたが、……何か気に障る」
大人げない。ジョルノは、この世界の自分は下剋上を狙っているのだろうと推測していたので、ボスも組織を管理する中で何かを感じ取ったのかもしれない。こちらのジョルノも、どっかの幹部の護衛に選ばれるくらいには目立つ存在である。
不用意に近づくなと言われても、ホテルも同室だから何とも言えない。護衛だからさ。むしろ私にジョルノを襲うなよって忠告しなきゃいけないんじゃないかな、ボスは。
「ん、そういえばなんでボスはジョルノを就けたの?」
「どういう意味だ?」
クラウスさんとスティーブンさんの前で話す内容ではないが、ぼんやり抱いていた疑問をぶつける。ボスは首を傾げたようだった。
「気に障るんでしょ」
「ああ……、それか。だがポルポ、お前なら、ジョルノのような顔の子供が好きかと思ってな」
「ちょっおま」
大草原でむせた。
お前ならってなんだよ。好きだけど別に好きじゃないよ。ブチャラティを気に入っていた原作ポルポなら上玉の男の子が好きかもしれないけど、私の好みはそういうんじゃあなくて、いや好きだけど。好きだけど違う。ここで訊いたのが間違いだった。ボス殴る。心なしかスティーブンさんからの視線が痛い。
「人をショタコンみたいに言わないで!お願いだから!」
「んっ?お願い?」
「ごめんやっぱお願いやめるわ。私ショタコンでいい」
電話を切った。
どうもすみませんと言おうとした私に、ジョルノが触れる。彼は柔らかく笑った。
「いいんですよ、ポルポ。僕はそのつもりであなたについてきましたから」
「ねえ、みんなで私を社会的に殺そうとしてるの?」
「冗談ですよ」
よくここで冗談が言えるな、この子。虐められてんのは私なのに、これで取り引きがポシャッたらこっちのせいになるんでしょ?知ってる。
姿勢を正して、こればっかりは謝罪する。
「すみません、お耳汚しを。まさかこんな話になるとは……」
「こちらのことはお気になさらず。お気遣いをありがとうございました」
「ポルポ、あとで僕がゆっくり慰めて差し上げますから、ここは正気に戻ってください」
「もうやだこのパッショーネ」
新旧関わらず正気を奪ってんのはそっちだ。
クラウスさんと目が合って、ほんとに違うんですよと言ったら存じてます、って言われたけどあなたは私の何をご存知なの?怖い。気のせいでなければ、なんか信頼されてない?少なくともお稚児疑惑では揺るがない人物像が出来上がってる。
スティーブンさんにも、違うんですよと言っておいた。彼は、ええ、とどっちでも良さそうに微笑んだ。
まあ、ひとりの女の社会的な死はどうでもよくて。
いささか緩んだ空気の中、硬質なものを取り払い、リラックスした動きで手紙が封筒におさめられる。マジで私の小汚い趣味カッコ誤解カッコトジの影響で拒否されたら困るな。
常識的に考えてそんなことはなく、少々時間をいただきたい、と言われた。どうぞどうぞどうぞ。煮るなり焼くなり好きにしてください。たかだか一組織の為に、いくつあるんだか知らんそいつの対抗組織から一切の援助を受けるなと突然要求されても即時応えられるとは、ハナから思ってない。ボスもそうだ。せっつけとは言われてるけど、あちらもそこまで多くの時間をかけはしないだろう。暇じゃあないんだから。
重要書類としてしまわれた封筒を見送り、いつ頃までには答えを出せると予想でき、いつ頃だったら時間が取れるかとお互いに予定を合わせる段階に入る。私は手帳に書くより憶えておくのが楽だなあと思うタイプだが、まさかここで何も持たずにハイハイと首振り人形になるのも、見栄え的にカッコ悪い。やべえ手帳持って来てないかもハンカチに書くしかねえ、と焦ったのを見てジョルノが手のひらサイズのノートを貸してくれた。センキュー。これはアレかな。好みの女の子を見つけたら自分の電話番号を素早くメモってページを切り取り握り込ませる、というナンパ用のアイテムかな。
日付も時間も、こちらには制約がない。お任せして、ペンを片手にクラウスさんとスティーブンさんの手に視線をやった。ライブラってペン回し上手そう。あっ、でも意外にへたっぴ勢が多くても興奮する。
「(……うん?)」
彼らの手元を見つめるうちに、あることに気づき、イメージに合わないな、と感じてから思い出した。
なるほど、答えはこれ?
ぱちんと指を鳴らしかけたが、両手が塞がっていて出来なかった。
「その栞、逆の色にするかと思ってました」
半透明の栞は、クラウスさんに薄青が。スティーブンさんに朱色が渡っている。なにこれ?お互いのイメージカラーを交換してるってこと?ハンパなくない?それともクラウスさんの薄青はレオナルドくんの義眼に合わさって、いやいやツェッドってこともあり得る。スティーブンさんの赤系は、クラウスさんの色である可能性が高いも高くてマウント・クラウスって感じだけど、カグツチの属性を考えるとザップくんの存在も見逃せない。大穴でK・Kさんって枠もなくはない。パトリックも赤かな。エイブラムスさんも赤っぽい気がするぞ。ハマー&ブローディは見た目の印象が強すぎて赤から抜け出させられない。警部補さんは、うーん、難しい。チェインちゃんは青も赤もイケる気がするんだ。どちらの色彩も持っているというか、基本クールなんだけど色っぽい情熱的な姿も兼ね備えている。チェインちゃん総受けか。赤陣営多い、あっいや待って、ギルベルトさんは?ギルベルトさんはどうなるんですか?ブレングリード血闘術801式とかある?
菩薩のような笑みで言えたのはさっきの台詞だけだ。乗算マークが大乱舞の脳内は大混乱。ねえなんでその色だったの。
ライブラの2人は顔を見合わせ、わずか、眼差しを緩めた。すぐに私へ意識を戻す。
「その日のラッキーカラーが赤だったんだよ」
「咲いた花に似た色でね」
完全に予想外だったけどラッキーカラーと花は良い仕事した。褒め称えて表彰されてもおかしくない。これほどに人を幸福にする偶然があるだろうか。この世は神さまの愛で満ちてるよ旦那。
クラウスさんがハッキリ言った。
「ポルポさん、あなたにまた会えてよかった」
「は、……私もです」
ニュアンスに違和感があるんだけど、なぜ彼らがシリアスなのかが読めなくて、私は半笑いで顎を引いた。

「ポルポさんは、あれから今日まで何を?」
なにその履歴書の空白に言及するみたいな言い方。
予定は突然合わなくなり、時間についても後ほどご連絡いたしますと言われ、それについての話はヨイショとどこかへ押しやられる。
「実を言うと、パッショーネへ問い合わせたんだが、君は、いや、"ポルポ"はイタリアを出ておらず、我々と顔を合わせたことはないと言われて少々混乱してね。こちらとしても、君が何者であるのか知っておきたい気持ちがあるんだ」
スティーブンさんからの質問へ、返せる過去を持たない私は困ってしまう。何と言われても、なんだろう。
代わりにジョルノが口を開いた。
「"ポルポ"については後にしますが、端的に言うとついこの間まで彼女は刑務所に入って仕事をしていました。ボスによると、"彼女が自ら入りたいと言い出して"」
「自ら……?」
おおっとショタコン疑惑に加えて謎の趣味まで付与されたぞ。間違ってはいないのだろうけど理不尽だ。ちょっとでも首を動かすと性癖に亀裂が入りそう。そうですよねポルポ、とジョルノさまから求められた同意には「お、おう」と話を合わせた。
私を余所に、ジョルノはもう一度繰り返す。
輝きを内包する深い瞳で、クラウスさんとスティーブンさんの目を覗き込むようにして。
「"彼女が自ら入りたいと言い出したのだ"と、ボスは言いました。……お分かりでしょう、その意味が?」
気が利く少年である。なるほどなー。
彼らのパッショーネとボスへの評価がガタッガタに落ちたままであれば、こう言われてどんな風に感じるかは想像に難くない。だって自分から刑務所に入りたがるわけがないだろ常識的に考えて。"ポルポ"は入りたがったみたいだけどそんなこたあいい。
今のライブラツートップの印象では、"ボスがこう言っていたんですよ"という証言に対する信頼はほぼほぼZeroである。彼らにはこう聞こえる。
わたしはポルポの意思を尊重して彼女を監禁した。ポルポが自分から入りたいと言ったのだから仕方がない。仕方がない。そう、仕方がないのだ。そうだろうポルポ。おまえが自ら入りたいと言ったのだから。
言いそうである。すっごく言いそうだ。言いそうだなって思うだろう。何度も電話越しに耳にした、あの低い声で脳内再生されたに違いない。案の定、善良な人は沈黙を選んだ。
「こちらへ問い合わせた、とおっしゃいましたね。そして"ポルポ"を否定されたと。我々はどう申しました?」
「"パッショーネ"の"ポルポ"はこちらへ来ていない。別の人物が派遣され、その人物が己を"ポルポ"だと名乗っても、それは別人である、と」
「そうでしたか。混乱なさったでしょう。正直なところ、僕もすべてを把握しているわけではありませんが、憶測混じりで宜しければお話しますよ」
畳みかけるように少年は言う。私たちの流れを理解しようと今までずっと状況を観察していた彼は、長いまつげで頬に影を落とさんとした。
クラウスさんが頷く。
形のいい潤った唇が、当事者をそっちのけで軽やかに動いた。
「本来、"ポルポ"の存在と仕事は秘匿されています。組織の中にも"ポルポ"を知る者は多くありません。ボスの寵愛も受けるわけですし、彼にとって彼女は大切なんです。……フフ」
「ミスター・ジョバーナ?」
「失礼。僕はあのボスに良い感情がないものですから、つい。あと、ジョバァーナです」
そうだね、そこは譲れないね。私そんな感じのギャンブラー知ってる。
「秘匿されているがゆえに、あなた方から電話を受けた者、そして彼から問い合わせられたと思しき者は"ポルポ"の動向を知らなかった。これについてはこちらの手落ちでしょう。彼らにとっての"ポルポ"はネアポリスから動かない」
これでは彼らは納得できないんじゃないの、という意味を込めてジョルノに念を送った。しかし予想外にも、ライブラの2人が覚えた違和感は、善良なる彼らによる深い解釈に繋がった。まさか電話番への情報管理がそんなザルなはずないだろ草生えるわいい加減にしろ、からの、"いや、この少年があえてこう言ったのならば、そこには直接的に切り込むと危険な裏があるのでは"。
頭が良くて狐狸との情報戦に慣れていると、額面通りに受けとめられない時もしばしばある。
「ではなぜドン・パッショーネは、それほどに重要な"ポルポ"をヘルサレムズ・ロットへ?」
「外に出たくないからです」
ジョルノがざっくり切った。
「……は?」
「ボスは己の正体が他にバレることを非常に恐れ、有数の幹部とですら直接連絡を取り合いません。心から信頼する者は……まあ、いません。だがその上で言うならば、彼女はボスの寵愛深き唯一の部下だ。彼は大切なことを彼女に任せる。彼女が自分から離れられないと知るから、というのもあるでしょうが。だからボスは重要な契約をポルポに預けた。自分の意思を誰より理解するポルポに、です。彼女でなければならなかった。関係が深く、信頼があり、絶対に、絶対に、絶対に、自分を裏切らない彼女でなければ」
大事なことなので三回言った少年の艶然とした微笑みが、挑戦的に、クラウスさんを下から舐めた。
「あなたたちはそれほどの機関だ。そうでしょう?」
通常ならば気圧されてしまう。ジョルノの固有結界が展開され、ここは彼だけの空間になる。誰もジョルノの甘い囁き声からは逃れられず、威圧され、彼の内に潜む何者かの気高い運命と血に染まった闇を見出し、知らず身体を震わせるのだ。
ライブラの2人は違った。
どの反応も起こさず、ジョルノとひたりと見つめ合う。
ジョルノが、デタラメと言うにはチョイチョイ実情に当てはまる言葉を並べるのには意味があった。私には察せられた。なぜなら私もそうしたからだ。経験がある。いっぱいある。テキトーこくってこういうことだ。
なにゆえか?
心地よい観光の為である。
それ一点のみだ。ヘルサレムズ・ロットを心行くまで味わうのに、ライブラからの詮索はジョルノからすると余計なのだ。私も相手が真面目過ぎて息苦しくなる。こっちには大した思惑なんてなく、むしろ私たちが困ってしまう。警戒されてもそれっぽい行動なんてお返しできない。パッショーネの株は落とすけど、別にそれって怪しくないし。忠誠ステの低いやつが身内をボコスカとこき下ろすのは、なくはないじゃん。ボスの生前(この表現もおかしい)にはできなかった憂さ晴らしを、いや、あけすけすぎた。ボスの生前にはできなかった鬱憤解消、じゃあなくて、えーと。悪戯。悪戯で溜飲を下げてるだけだ。性質の悪い悪戯だ。こんなん私がされたら仕掛けたやつのベッドの枕を全部イエスノー枕に変えて永遠にYESから動かせなくしたるわ。100人に訊いて100人がウンと言う小市民的で可愛い報復だ。
「ポルポさん。ミスター・ジョバァーナはいったい、何者なんだ?君の、……組織の何だ?」
美少年の弁舌をBGMによくもまあそこまでと感心していた私に水が向けられ、テンパったのを隠して植物のような静かさを目指した。
私は過去の発言を振り返る。そうね、と悩むふりだけした。
「パッショーネの将来を担う、期待の子かな」
2人が、"この少年が……"みたいな雰囲気を作ってくれた。急にナニを口走ってんだこのアマ?的反応を覚悟してたけど、あちらも私の発言を憶えていたとは。感動の一場面だよ。やったねたえちゃん。
ところで蒸し返すようだけど私のショタコン疑惑晴れた?






20151017