トリップ


「お初にお目にかかります、ミスター・ラインヘルツ。僕はジョルノ・ジョバァーナ。言うなれば彼女の……」
凄絶に美しい、私よりも10は年下の少年は目を弓なりに細め、一片の隙もない笑みを浮かべた。
「言うなれば彼女の護衛です」
きらきらしい美貌が私に向けられ、私はそうだねと言うほかにない。打ち合わせ通りとはいえ、この5部主人公さまを護衛扱いする私っていったい何様だ?

暇つぶしが欲しいんですけど良いものはありませんかと訊かれ、仕事の話も終わったところだったので、回線をつないだままそーねーと部屋を見まわす。私の暇つぶしになるようなものはたくさんあるが、ジョルノのお眼鏡に適うかはわからない。何が趣味なんだろ、彼は。あの年齢から薄暗い世界に風を通す激務に勤しむからして、暇をつぶすと言っても無益なものをご提供するのは気がひける。どんなのが良いか突っ込んで訊ねても「あなたの好みにお任せします」と言われてしまった。そもそも暇なの、この子。
困った時は漫画でも渡そう。小説より気軽に読めるイメージがある。アニメのほうがながら見ができるから便利なのかもしれないが、残念なことに私はまだこれについては、ビデオも円盤も持っていなかった。
少年には少年漫画を。安易な連想で、本棚から数冊抜き取って紙袋に入れる。即日配達をお願いされた。どうせ訪ねる用事もある。
日本語もぼちぼち嗜むジョルノは漫画をすごく喜び、流れ作業で判子を押したあとの休憩時間に紅茶とお茶菓子を並べ、私の目の前で読み始めた。ある種の礼儀なのかもしれない。私も、何度も通して読んだ本だ。1巻からじゃないとやだ、なんてこだわりは今さらで、テキトーに5巻を手に取る。ぱらぱらと開くうちに、ストーリーは憶えているのに飽きない物語にのめり込む。
部屋には私たちしかいない。ほぼ常にジョルノと共に居るミスタは、ジョルノに言われてブチャラティの会合に付き添っている。あちらは旧護衛チームの再現の真っ最中らしい。フーゴに写真を頼んだらついさっき、ランチを楽しむ4人の姿が切り取られ添付されたメールを受信した。フーゴたんのは?と追撃するとフーゴは自分の注文した料理を写して無言で送り返してきた。どうあっても自撮りはしない。写真の撮り方が上手で、飯テロも大概だった。
取っ手を摘ままなければならないような繊細な造りのカップを傾け、琥珀色を揺らす。クッキーを飛ぶように消すことも可能だったが、ここにはクリックひとつで大量のおかわりを製造してくれるおばあちゃんはいない。口惜しかったが、お上品ぶって丁寧に食べる。
ジョルノが文字と絵を追うスピードは速い。何かを読むことに慣れているのだ。
3巻まで読み終わったところでパタンと本を閉じ、彼は大きく頷いた。
「わかりました。今日は午後まで仕事を休みましょう」
「ナニ言ってんの?」
「読み切らないと手がつきません」
「それを?」
「はい」
立ち上がり、電話を留守設定に変えたジョルノは、その姿勢のまま嘆かわしそうにした。片手には未読の4巻がある。
「対吸血鬼。吸血鬼と一概に呼ぶべきではないのかもしれませんが、ああ、この能力があれば確実に事態は楽におさまっただろうに」
「……あー……、はい。そうかもねー……」
意味深だ。追及はやめておいた。
ジョルノの目がガラス窓に向く。
刺繍の施された分厚いカーテンは紐でまとめられ、窓枠の両側で磔刑じみた形を取らされている。大きな窓から街が見え、離れた通りを行き交う人が何人いるか、優れた視力でなら数えられただろう。ぴかぴかに磨かれた透明の手前に焦点を合わせ、フ、と息が吐き出される。
「こちらでは映っても、これの世界では映らなかったりしますかね?」
「そうね、あっちの反射物だったら話は別だったりしてね。本当に映らなかったら不思議だわ」
「……なんです、おかしな言い方ですね?」
"あっち"だなんて、まるで自分のことのようだ。少年とも男性とも区別しがたい、過渡期の声が私を笑った。時どきイタリア語が苦手になると自虐する私への、ちょっとしたからかいのつもりだったのだろう。
だが、ふと、打ち明けてもいいかなという気持ちになった。だから今あっさりと、不自然なことを口にできた。予想通り、頭の良い彼は不自然さを見逃さず、律義に突っ込んでくれる。
私は言う。私の部屋の本棚でハードカバーに立てかけられる、本型小物入れを装ったトリップマシンのことを。
転生だの前世だの、そんな話まで深く暴露するつもりはない。単純に、この漫画の世界に入り込んで観光した、誰にも言わなかった思い出話を披露するだけだ。
だがもしも、思いつかれた時には。
「奇妙ですが、ロマンある道具ですね。もしかすると僕らが生きるこの世界もどこかで作品になっていて、世界を渡った者が、のんびり暮らしていたりして」
「それありそう。ジョルノ絶対出てるでしょ」
「だとするとあなたも出ているでしょうね。なにせ、僕の初めての上司だ」
「おっぱいあるしね」
「それをあなたのシンボルにすると、各方面から叩かれそうですがね」
こんな感じですっとぼければいいのである。
軽妙なやり取りに気分を良くし、ジョルノは立ったまま、窓際で4巻を開いた。どんな話だったっけな、4巻は。サブタイが見えないか目を凝らす。見えなかった。
「前に行った時はどんな感じだったんです?」
ディアボロがボスの時代で、部下はおらず、しかし私は矢を持つ立場だった。躾けられ(って言うと草生えるけど)矢の行使に従順さを見せたあの世界の私のおかげで、トリップした私はヘルサレムズ・ロットへ契約を結びに行く大任を命ぜられ海を越える。ボスとの仲は、一方的ながら、悪くなかったようだ。あの後はどうなったのだろう。すべてリセットされ、あの世界の私が再び契約を結びに行ったのか。そうすると、あの世界の私はヘルサレムズ・ロットで何をするのかな。やっぱ仕事を放棄して観光か?歪みない怠け者だ。
若きボスも同じ疑問を抱いたようだった。
「時間は進むんでしょうか」
「さあ、どうなんだろね」
「進んでいてほしいですか?」
「進んでいたほうがいいんじゃない?」
何せあそこは"異世界"。原作のある異世界のうち、2つの作品が混じり合った平行的な場所とはいえ、独立した"世界"である。停滞するのは奇妙だ。
「原作のある異世界への一時的な移動……、あなたが言ったように"トリップ"と呼びましょう。"トリップ"は、戻った時にはトリッパーになんの異常も見られないんでしたね」
「私の知る限りじゃあね。時間もそのまま、記憶も、トリップ前に何をしていたかがハッキリわかる。違和感もなかったわ」
「じゃあ僕も同行して良いですか?」
何が"じゃあ"なのかが全然わからなかった。じゃあってなんだっけ、じゃあって。
渡した漫画の世界観に魅力を感じ、更に異世界トリップに興味を抱いてしまったジョルノさまは4巻を真ん中くらいまで読み進め、私の返事を気長に待った。待たれても了承しづらい。えええ、なにそれ。一緒に来るの?無理じゃあないはずだけど、よりによってジョルノが?嫌なのではなく、この新生パッショーネのボスが、いまだ情勢の安定しきらないネアポリスを放置するとは信じがたい。盤石な体制を整えつつあるとはいえ油断はならない。業界が業界だけに、毎日どっかしらが緊張している。
だというのに、自覚と責任感と意志の強い少年が、自分からトリップを望むなんて。
無言で驚いた私に、彼はつまらなそうな目を向けた。冷ややかに見え、まさか喧嘩でも売られんのかと思ったが違った。どうやら綺麗な少年は、私を批難したかったらしい。
「トリップの間、こちらにはなんの影響もない。だったら構いませんよ。瞬きをする間に深い夢を見たとして、それに許可が要りますか?」
「あっちで怪我したらどうするの?」
「余程の危険が迫ったら帰還します。あちらの世界が"止まる"のだとすれば影響はなく、"進む"としても、何らかの形で修正されるでしょう。トリップする存在がそもそもおかしいんですから、帰還すれば排除されて当然だ」
それはどうかなあ。
でもしおらしい態度で、僕は少し疲れたんです、面白そうな世界をあなたみたいに観光したい、なんて嘯かれれば断れない。腕を組み、帰還の判断はジョルノがしてね、とトリップマシンを彼に預けることで合意した。戦闘が起きたらジョルノに丸投げ。だって私戦えないんだもん。1分1秒、あるいは刹那を争う判断なんてできるわけがなかろうなのだ。

翌日、今度はジョルノの私室の扉を開く。ねじれたコロネを食べていたジョルノは、あらごめん、と言った私に残りのひとつを勧めた。育ちざかりから食べ物を奪う気にはなれず、気持ちだけいただいて席につく。テーブルに肘を置き、歩きがてら買った紙パックのオレンジジュースを飲んだ。
ブランチを済ませ、気配りある褒め言葉で私のファッションに甘めの星をつけた彼は、夜中に読み切った原作を2人の間に置く。
「どの巻でも良いんですか?」
「そういえば指定されてなかったかも。なんでもいいんじゃん?」
「影響はなさそうですね。無難に1巻としましょう」
空洞に本を嵌め込み、閉じる。鍵はジョルノが挿し、私は上手くいかなくてジョルノだけがトリップしたらそれはそれで面白いな、ていうか私またあの部屋に移動するのかな、マンネリ感ある、と変な期待を抱いた。どんなカオスだ。念の為に手をつなぐ。やだもうすべすべ。まばゆい光でトバされる必要がないくらいに白くて綺麗な手肌は、瞬きの間に私の手の中から消えた。



それが鉄格子だと、視界に入れて初めて気づく。
起伏のない箱。ひび割れも塗装のはげもない代わりに、色彩も飾りも与えられない。
生活に必要な最低限の家具が置かれる。ベッドは質が良く、テーブルの上には嗜好品も数あった。
さて、どういうことか。こちらの私は何をしたんだ。僅かな隙間が外界を繋ぎとめる。
ドアを開け、刑務官に付き添われて入室したのはひとりの少年だった。若い。金髪を纏め、凛と背筋を伸ばした立ち姿には自信が満ち溢れ、大きな瞳は強く輝く。私たちは視線を合わせ、私は目を細めた。なんだこの原作の一場面みたいなやつ。内面で眠るブラック・サバスに意識をやったが、ライターを通してはいなさそうだった。私のエネルギーと同化したままだ。障壁となるガラスに映る自分は26歳ではなく、首に切り傷も見当たらない。テーブルにある、畳まれた新聞の1面をチラ見したところによると、某街に突入しようとした無謀な過激派組織がドカンとやられてしまったそうな。ヘルサレムズ・ロットも存在すると確定した。ええ?じゃあなにこれ?
2人きりで向かい合う。ガラス越しに手を触れ合わせて愛を伝える、ってやつをやってみたかったんだけど言い出せる空気ではなかった。
「あなたはポルポ?」
「そういう君はジョルノ・ジョバァーナ?」
君がディオか、みたいな会話が成立してちょっと嬉しかった。ニコッとしたらニコッとしてくれたのもベネ。
「驚きましたよ。あなたから入りたいと言ったそうですね」
「どこに?」
「ここに。そう説明されましたよ。知らない男に」
ブチャラティではなかったようだ。新聞の日付けを見るに、私がここにトリップして観光して帰宅してから数か月が経っている。大げさに言うほどの時間でもないので、正確には数えなかった。
どうして私が刑務所に入りたがるのかがぜんっぜんわかんなかったけど、ジョジョ原作の観光みたいな気分だった、とかが有力だ。ストレス溜まってたんですね。可愛い部下もできてないし、ボスとしか関わらないし、幹部会に出りゃあ物理的に肩パンしたりされたりするしね。私がそうだったんだからこっちもきっとそうだろう。可哀想な私。
退屈とストレスでラリった私が狂った行動に走ったのは良いとして、よりにもよってその真っ只中に放り出された私はどうしたら?せっかくだっていうのにヘルサレムズ・ロットに行けないままか?ていうか、ていうか同じ平行世界かよ。パッショーネとライブラを両立させる簡単なパラレルだけど、もう少し楽な立場に置かれたい。どんな立場だ。どこも楽じゃないわ。この世は地獄です。無難に中学生テニスプレイヤーがコートを走り回る世界で知ったかぶって腕を組み"ほう……"みたいな顔をするだけの簡単なお仕事に就けばよかった。
「あなたは再びヘルサレムズ・ロットへ行くことになっています。前に為した契約に、ほんのちょっぴり付け加えて欲しい一文があるとかで」
「うん?」
「それについては、こちらの電話からボスへ連絡を取って直接聞いてください。まさか僕が伝えるわけにもいかないので」
それもそうだわ。
ジョルノは手に持つ鍵で鉄格子の錠を落とした。直接肌を触れ合わせると、ジョルノも私も、お互いが無事に(なんだろうねこの言い方)異世界へトリップしたのだと実感が湧く。合流できて良かったわ。
彼はパッショーネでメキメキ頭角を現す期待の新人で、とあるパーティーに幹部の護衛として出席したところ、その落ち着き払った貫録ある態度(そりゃそうだ、新生のボスなんだから)と慣れた対応(そりゃそうだ、新生の以下略)と襲撃者を捕縛する際の見事な采配(そりゃそうだ以下略)が上層部の目に留まり大いに気に入られた結果、ボスへの進言があって、ポルポさん二度目の訪HLの護衛を任命された。
外の組織への接触と支援は、大人数で動くと周囲に警戒される。匂わせる程度なら威嚇になるがやり過ぎは毒、エトセトラ。目覚めさせるまでもなくスタンドを操れて実力もあり、従順な(爆笑した)ジョルノが選ばれた経緯は、端折って説明されたがこんなもんだった。チームじゃないけど護衛だねとは言わない。通じはするけど、本当の意味では理解されないし笑いを誘えないんだもん。悔しくないよ。トリッシュちゃんみたいな守り甲斐のある人物じゃなくてスマンね。
とぅおるるるん、とコール音を口に出して電話をかけると、奇怪な玩具でも見るような顔をされて後悔した。そうだね、私たちドッピオスルーしたからね。
「ポルポ。そこでの生活はどうだ?」
お久しぶりなボスの声は相変わらずのイケボであったが、私の胃袋に嫌な重みを課した。
「おかげさまで。……私がヘルサレムズ・ロットへ行く理由は?」
おかげさまで何なのかを言わないのがジャッポーネはぐらかしマジックである。困った時は、"このたびは……"。大人が多用すると怒られるやつだ。イタリアでも頑張ってはぐらかして生きている。
「以前、あの天秤どもが金を無心してきた話だが」
「ボスのほうが融資させてくれって言ったんじゃなかったですっけね」
「そこは重要ではない」
重要じゃないかな。
「契約に付け加える部分を見つけた。本来ならば、わたしだけのお前をネアポリスから頻繁に外出させるべきではないが、顔を合わせたことのある者が行くほうが話は楽だ」
これにはちょっと驚いた。
ボスと言えば、残虐非道な行いで心を裏切られたブチャラティが幹部としての地位や金をすべて捨ててまで己と敵対しようとした姿勢と精神を理解できない人物、とすぐに思い描ける。情は関係がないのだ。なぜブチャラティがそうしたのかも、そこまでする価値があるのかも、彼からは遠い思考だった。
それがどうだ。この発言を聞く限り、ボスは人間の心情を考慮に入れているではないか。驚き桃の木山椒の木。ボスのことだから"金を欲しがるばかりに節操を捨てた組織だ、誰が行こうが数字をチラつかせれば要求を呑むだろう"とか何とか言うかと思ったら。
意外に思って反応が死んだ。ボスは気にせず、付け加えるべき箇所を口頭で説明した。文書でくれ、と思ったらジョルノがちゃんと封書を持っていた。
「"パッショーネに対抗する組織が支援を申し出ても断れ"」
「そんな狭量でいいの?あっちは世界規模だよ」
「あちらも間男にはなりたくなかろう」
私とパッショーネのどっちが大事なのよぉ。そんなライブラも見てみたい。彼らは上手く立ち回りそうだ。
言いに行くだけならタダだ。旅費も食費も滞在費も、もちろんボス持ち。元より拒否は許されていない。
「一個、お願いしたいことがあるんですけどいい?」
「なんだ?」
内容に、ジョルノがくすりと笑い、それから私に強く頷き掛けた。彼も私と同じワクワクを覚えたんじゃないかな。
ボスは渋ったが、ボスならできるッショと言いまくっておkをいただく。やったー!ちょっとジャンプした。嬉しい。夢じゃんね、これ。
「キャンセルが出たらだぞ、ポルポ」
「へいへい。ついでに、なんで私は刑務所に入ってんでしたっけ」
「この間から物忘れが激しいな、ポルポ。お前が入りたいと言ったのだ。ギャングたる者、一度は入所しておくべきでは、などと下らんことを……。自ら入所する幹部など……」
ぐちぐちと言い始めたボスは流した。ホントに私から入りたいって言ってるよ。私の野次馬根性ヤバいな。時空を超えてネタに真剣だ。
了解を伝え、注意事項を3回くらい繰り返し言い聞かされた私は頃合いを見て電話を切った。
今回も私はボスのパシリ。とっても素晴らしい旅行になりそうだ。刑務所スタートだったのはアレかな、トリップ寸前に"マンネリ感ある"とか余計なことを考えちゃったせいかな。雑念を捨てて無心で生きなきゃいけませんね。


飛行機の旅は何度やっても気圧の変化に慣れない。もっちゃもっちゃとキャラメルを食べて感覚を誤魔化す。
到着した空港で、小さなキャリーケースを引いて私の半歩後ろを歩くのは、過去にタクシー広場の周辺で一発芸と窃盗を駆使して荒稼ぎしていたジョルノくんだ。今は私の同行者である。彼のおかげで、私の荷物はお馴染みのポシェットだけだった。
新生パッショーネのボスに荷物持ちをさせるのもどうかと思ったが、僕はあなたの護衛ですからねのひと言でぶった切られ、どう反論しようか考えるうちにゲートを出る。
空港には、迎えが来てくれるそうだ。誰が来るのかは知らんけど、相手は私をパッショーネの人間だと認識できるのかな。金髪で巨乳のブラウス女なんてそこらじゅうに溢れてる。瞳の色か?いちいち他人の瞳なんか確認してたらロマンスが始まっちゃうかもしれないから、もしもお迎えさんがイケメンだったら気をつけてな。素晴らしいことだとは思うけど、誰かは知らんが私をホテルに送ってからにしてもらえると助かります。ていうかこっちにもどんな人が迎えに来るのか教えてよぉ。
指定されたカフェの指定された席に指定された飲み物を持って座る。いよいよ秘密めいてきた。飲み物はこれ、カップの中身が何かわからんから指定されても区別のつけようがないのでは、などと思ったが、ギャングチックな意味があるんでしょう。
目と目が合って恋に落ちたことってある?と10は年下の少年に持ち掛けるにはあまりにも下世話な話題を振るうちに時間を迎える。私たちもわっかんないしあっちもわかんなかったらどうすんのかな。言いたくないけど私の恰好はただのオフィスカジュアルっぽいブラウスとスカート姿で、同伴するのも美麗な少年だけだ。場所と時間が条件に合致していても引かないかな。
出入口に視線を向け、ジョルノに戻そうとして、二度見した。あちらも一瞬、ぎょっとした。
向かい合い、彼を見上げる。本心も思考も、余所行きで隠せる背の高い男を。私の隣でジョルノが、初めて見る原作キャラにひっそり感心する。何か月かぶりだな。心の中の冬月副司令が言う。応ずる碇ゲンドウが頷いた。ああ、スターフェイズだ。
挨拶のハグは欠かさない、欠かせない。はわわーいい匂いがするよぉ。デキる伊達男は違いますな。
「どうも。パッショーネから派遣されて参りました、ポルポと申します。この少年はジョルノ。私の同行者です。お忙しい中、お出迎えに感謝いたします。……というのをジョルノさま、英語でオナシャス」
「いえ、ポルポさん。そのままで結構です。ご足労をおかけして申し訳ありません。本日はこのままホテルへお送りし、お話自体は明日に行う、という先日いただいたスケジュールで宜しいでしょうか」
「問題ありません。お手数でしょうが、明日はどなたかにホテルまで迎えに来ていただけると助かります。私、そっちへの道を知らないので」
「勿論です」
ニコッ。とても……気を遣います……。
以前に契約を結んだのは間違いないんだけど、リセットされた感じだ。あの時は最後のほうの対応がクソ雑になっちゃったから、リセットされてるならそれはそれでいいんだけど、どういう仕組みだそれは?






20151017