くいしんぼ作戦
リクエストありがとうございます。
ひょっとすると一足先に『あの方』とご対面して正体を知っちゃったりなんだったりできちゃうかなー、と思っていたがいつから私がそんな重要なポジションにあると錯覚していた……?ってな具合で舐めプされて原作にはひとっかけらたりとも掠っていなさそうな聞いたことのないコードネームの構成員と会談をしたよ。悪かったな弱小組織で。こう見えてふしぎなちからとか使えちゃうんだからな。私の後ろで通訳係をしてくれているアルディラもといリゾットだって私んとこの味方だからな!潜入されすぎなんだよ常識的に考えて。もっと履歴書よく読んで。
ちっともギャングスターに憧れを抱いていない組織の構成員は、極めて冷静に取引を進めた。機密事項であろうAPTXについてはさりげなく訊ねてみても知らん顔をされたよ。すっとぼけているのかリアルに情報が規制されているのかはわからない。まあ私のクリアランスには開示されていない情報なんだなと考えてあっさり諦めた。あんまり深追いしてジンの兄貴にチャカ突き付けられても困っちゃうからね。
この関係を繋ぐか捨てるかは私個人の裁量に任されている部分もある。となるとまあ、そら、繋ぐよね。繋ぐ以外の選択肢ってないよね。でもこっちを舐め腐った対応には付け入る隙があったので、「では、資金援助についてのお話はいったん持ち帰らせていただきます」って切り上げたよ。案の定慌ててきたけどもう遅いフハハハハ。呪いのポルポは止められない止まらないかっぱえびせんなのだ。タコだけど。
そんなこんなで応接室を出て、アルディラもといリゾットちゃんに軽く施設案内を受けていると、廊下の角からひょいと男性が顔を覗かせた。おっと、と立ち止まる。相手も面食らったように身をそらし、すぐに柔和な笑みを浮かべて謝罪した。
「すみません、前を見ていなかったもので」
一度聴いたら忘れないだろうと確信できる声音だ。思わずいえいえフィフティ・フィフティですからとかなんとか言いたくなる。特徴的で、若々しさの中に確かな思慮深さがうかがえるイケボイス。加えてこのプリティフェイス。蜂蜜色のやわらかそうな髪の毛に、浅黒いなめらかな肌。ホォー……。
思いっきり食いつきたかったが、今の私は日本語があまり得意ではない設定である。できるだけ綺麗に微笑んでから、思わずといったふうにイタリア語で謝罪を述べ、そして慌てて日本語に切り替える――――という超絶雑な小細工を弄した。こんなのプロから見たらラケットヘッドが30センチ下がっているよりもバレバレなんだろうな。恥ずかしいぜ。
「私のほうこそすみません、ついキョロキョロしてしまって」
「お怪我がないようでよかったです。……アルディラ、この女性は?」
新しいメンバーか、と言下に問われ、リゾットは小さく首を振った。
「いや。お前にも話が行っていたと思うが、イタリアからのゲストだ」
「ああ!あなたがポルポさんですね。僕はバーボンと呼ばれています。どうぞ、お見知りおきを」
来ましたバーボンありがとうございます!!内心でめっちゃテンション上がったけど隠し通すんだ。頑張れ私。やればできる子だぞ。心なしか自分の笑顔がきたなくなった気がするが見逃してほしい。
「しばらく滞在なさるんですか?」
「ええ、せっかくだから東都の観光もしようと思って」
「それはいいですね。ですが、最近はいろいろと物騒なので身の回りには気をつけてくださいね。……と、こんな組織に所属する僕が言える立場ではないかもしれませんが」
なーんて言いつつ片目を瞑ってウインクしてみせるからこのアラサーは侮れない。ってちょっと待て、安室透ってやばくないか。二十九歳ってリゾットより年上じゃん。えっ?時空が歪む。
「アルディラ、……あなたが護衛につくと?」
「求められるならそうするようにと言われている」
「そうですか」
会話を聞く限り、どうやらリゾットよりもバーボンのほうが立場が上らしい。丁寧な口調なのはバーボンのほうだけど、なんとなく上下関係が見える。リゾットは全然気にしていないようだけれども、私からすると"バーボンがリゾットに命令を下したことがあるかもしれない"という仮定が生まれてしまうせいでビビりが半端ない。くそう、私よりも前の時間にトリップしたからって、そんなおいしいイベントを先取りするなんてずるい。リゾットずっとずるしてた。はい、見たかったです。
当然求めたのでリゾットは私の護衛として同じホテルにご宿泊。つまりお持ち帰りだ。はううかぁいいよぉ。かぁいいものはお持ち帰りぃ。
ツインで取ろうとしたのに間違えてダブルで取っちゃったぜ、なんてトラブルは残念なことに起こらず、部屋には二つのベッドがある。快適そうな部屋で安心した。名前の有名なホテルだから間違いはないと思ってはいたが、それでも極たまにハズレにあたることだってある。ハズレなのにあたるっていうのもおかしいね。言葉の綾っていうかそういうやつよ。伝われビーム。
テレビの前にあるソファに腰かけるリゾットは、やはり変わらず黒一色のスーツ姿だ。あ、今はジャケットを脱いでいるから正確には違うんだけども伝われビーム第二弾ということで許されたい。
お互いの情報を交換し、事情をのみ込む。彼はトリップ直後から『アルディラ』として動いていたらしい。すでに入団したあとだったそうだ。この辺りはトリッパーが動きやすくしてくれているのかしらね。助かる話だ。
ちなみにどうでもいいおつまみ話だけど、なんか、あの組織、ボーナス出るらしいよ。ホテルのベッドで笑い転げたわ。基本支給金に加えて歩合制のような形で賞与が与えられるそうだ。裏切り者を始末したりだとか、特別な取引を成功させたりとかがわかりやすい例である。やべえジンの兄貴大金持ちじゃね?裏切り者始末しまくってるぞ。隣でカウントしてくれてるウォッカにもちゃんと出てるんですよね!?どうなんですか答えてください!
「接触したことのある原作キャラって他にもいる?」
「そうだな……、バーボン以外では、ジン、ウォッカ、ベルモット。スコッチはすでに死亡し、ライは組織を抜けているようだ」
「喫茶ポアロに安室くんがいるかどうかは?」
「確認していない。組織の拠点からわざわざ米花五丁目まで行きあの喫茶店に入る、というのはさすがに『アルディラ』の行動としてはおかしい。勤務していた場合はさらに疑いを招く」
そりゃそうか、とハイヒールを蹴とばすようにベッドに乗り上げ、ぱたんと仰向けに寝転がる。ふむ、そうすると、どうしようか。安室くんが云々以前にただ単純な興味として米花五丁目には行ってみたい。毛利探偵事務所をリアルに見たい。アレを見ずして何をしにきたんだという話だ。黒の組織の嫌味な幹部と仲良くおしゃべりしにきたわけじゃないんだぜ。
「……リゾット、シャーロックホームズ好き?シャーロキアン?」
「特には」
「ですよねー」
リゾットがめためたシャーロックホームズが好きな人だったら"ベイカー街"と"米花町"が引っかかっているから案内してもらいましたー、みたいな顔ができなくもなかったんだけど、そううまくいくわきゃあない。むしろシャーロキアンだったほうがびっくりするわ。
"こちら"仕様のスマートフォンをいじって、米花を検索する。なーんかキッカケないかなー。観光名所、絶景スポット、いやいやそんなの毛利探偵事務所の近くから背後は完全に獲った……って状況しかなくないか。どんな絶景だ。見てみたいけど不審すぎる。ああもうなんかいい考えが浮かばないかなあ。おなかすいてるから頭まわんないのか?ルームサービスでも取るか。堕落してるからメニューはリゾットに任せるよ。あ、でも肉が食べた、い、よ、う、な、……と言ったところでひらめいた。がばりと跳ね起きる。
「ご飯だ!!」
「急ぎすぎだ」
「ちがうちがう!いや、違わないけど!ご飯だよリゾットちゃん!」
きっと私の目はきらきらと輝いていた。いっつも無気力とかふざけてんのか真面目に話聞けとか(聞いてんのに)言われるこのキュートな瞳がリゾットをとらえる。
「米花に食い倒れに行こう!!」
食べ歩き、食べ歩き、じわじわと場所を移動したうえで、"へえ、ジャッポーネではモーリコゴローという探偵が有名なのね。え?事務所が近くにあるの?ちょっと見てこようかしら。まあ!こんなところに風情あふれる喫茶店が!ちょうどおなかもすいているから入ってみましょう!"。
名づけて、くいしんぼ作戦である。完璧だ。やっぱりポルポさん、冴えてるわ。
2017 0420