アルディラ


リクエストありがとうございます。


えーっとだな。それで、個人的には爆笑モノの展開なんだが、何処から説明していいかわからない上にフェルマーみたいに紙の余白がなくて証明ここで終わり、って言いたくなる謎すぎる事態に巻き込まれているのでなるべく簡潔に三行でまとめるね。
交通渋滞が起こっていて迂回し、あーちょっとトイレ行きてえなと思った私がスマンがコンビニに寄ってくれんかと頼む。リゾットが了承。手近なコンビニでトイレをお借りして、それだけで立ち去るのは失礼だからと日本にしかないジュースやお菓子を買ってうわやっべ両替すんの忘れてた、と焦ったところでヘルパーリゾットによるスマートなタッチ一秒決済が炸裂。惚れてまうやろ。ハイこの時点で三行超えてるからもういいわ。
んでんでんで、さて出るかと足取り軽く自動ドアをくぐったとき。
「キャアアアアアアッ!!」
店内をつんざく恐怖の悲鳴。ビビる私。緩慢に振り返るリゾット・ネエロ。ちなみにどうでもいいようでどうでもよくない話だがリゾットはぴしりとした黒のスーツでキメている。サラリーマンに見えないのは彼の身のこなしと冷静すぎる表情のせいだ。対する私はオフィスカジュアル。いつもと変わらない。あ、下着だけは勝負下着にしてきたよ。身体検査とかされるかもしれないからさ。
えー店内ざわついてるけどこれ私たち車に戻っていいのかな……と不真面目なことを考えていたら、警察に通報したらしい店員さんが電話越しの指示に従って我々を店内に引き戻した。はい、参考人ですねわかります。日本に来てから開始三十分で事件に遭遇するとは思わなかった。ランダムエンカウントの頻度高すぎだろ常識的に考えて。難易度エクストラじゃん。

キープアウトの帯をかいくぐってやってきたのは、トレンチコートを身にまとい、風で飛ばないように帽子を手でおさえるでっぷりした刑事さんだった。後ろには可もなく不可もなく、しかしキリリとした細身の刑事もいる。
あと、あの、……あの……、うん。
「ねえ目暮警部、なにか事件があったの?」
「コナンくん!いつの間に……」
「えへへ……目暮警部が見えたから、つい」
「今日は毛利くんたちはいないのかね?」
「うん。小五郎のおじさんは、蘭ねーちゃんと買い物に出かけてるんだ。僕は博士に頼まれてアイスを買いにきたんだけど」
きょとんと首をかしげて、大きな瞳を純粋に透きとおらせる。うっ、かわいい。ショタ好きではないはずなのにぐっときた。あざとい子供、いや、あざとい高校生め。自分の魅力をわかっていやがるぜ。やっちまってくださいよリゾット兄い!
……という気持ちを込めてリゾットの腕に抱き着いた。少し身を隠すようにする。日本に来たばかりなのにわけのわからない事態に見舞われておびえる外国人に見えるように。コナンの世界に来たのはいいんだけど、黒の組織とつながりを持たされてしまう今はとりあえず今日の会談を終わらせないと安心できない。
コナンくんは私たちにちらりと目をやった。とたんに、ぎゅっと眉間にしわを寄せる。え、なに、どうした。なんだよ、リア充爆発しろ的なやつか?それはこっちのセリフなんだけど……。
少年はやけにリゾットを注視しているようだった。首をひねって長身を見上げると、なんてことない普通の眼差しが返ってくる。なんだろう。コナンくんはナニに引っかかってるんだ。
なんじゃらほいと考えるうちに事情聴取の番が回ってきた。うん、リゾット頼む。今の私は日本語喋れない設定だからね。フジヤマゲイシャスキヤキハラキリレベルだからね!
「あー……、どちらかは日本語か英語をお使いになれますかな?」
「ああ。俺はどちらも使える。彼女は英語を。日本語も少し」
待ってリゾットちょっと待って、私英語族じゃないからハードル上げないで。どっちかっていうと日本語だから。
目暮警部はホッとした様子でリゾットを見上げた。申し訳ないが事件解決に協力してほしいと要請され、断れる人はいないし断る理由もない。下手に目立ってジェットコースターに乗りたくて仕方がないジンとウォッカみたいな伝説を作るのはいやだ。俺たちは帰らせてもらうぜとか一度は言ってみたいセリフだけどさ。
「お二人のお名前を聞かせてもらっても?」
これが難関なんだよね。最近になって"あれ?私の名前はガチで親からつけられたものだけどもしかしてみんな加入のときにコードネーム与えられてる?"って非情な可能性に気づいてしまったが心の闇には蓋をした。
リゾットと一緒に身分証明証を提出する。メモを取った警部は『異国やべえ』って顔だった。わかるってばよ。でも『江戸川コナン』で慣れっこになっちゃったのか深くは追及されなかった。ありがとう先駆者よ。
リゾットが少し場を離れた間隙を縫うように、くい、と下からスカートの裾を引っ張られた。視線を下げると、先駆者がニコニコしながら私を見ていた。しゃがんで目線を合わせる。
「おねえさん、……」
訊くべきか訊かないべきか、とても悩んだ末、彼は真剣に私を見つめた。
「あのおにいさんとどういう関係?」
「どう、……って、リゾットと?」
「うん」
日本語が下手な演技、日本語が下手な演技、と心がけつつ喋る。
「私はイタリアから仕事で来て、あのおにいさんは仕事先の人で、空港まで迎えに来てくれたのよ」
「どんなお仕事をしているの?」
「誰が?」
「ん……、おねえさん」
「私は事務のお仕事かな。でも今回は、日本のとある組合とお話をするために来たの」
「じゃあおにいさんはその『組合』の人なんだね。組合はどんな仕事をしているの?」
うん、あの、わかってきたような気がするよ。
「(リゾット疑われとる――――……!!)」
草が生えすぎて大草原の固有結界を展開してしまうところだった。やべえ笑い転げなかった自分を褒めたたえたい。勲章とかあげたい。ここが家だったら腹筋割れてた。そうだよね、明らかにカタギじゃあないもんね。黒いスーツだしね。車も黒いしね。かろうじて鉄壁の微笑みは崩さなかったけれども、これしばらく思い出し笑いで死ぬわ。
「組合のお仕事ね、うーん、それがよくわからないのよね」
どう言ったものか、想定していた答えが全部ぶっ飛んでしまった。眼鏡の再構築とおんなじくらいうっかり当たり障りのない答えを忘れた。
コナンくんは私を"無害な人"だと判断したらしい。私を助けようとしているのかただ手掛かりがほしいのか、はたまた両方かこのいやしんぼめ!なのか、小さなおててで私の両手をぎゅっとつかむ。
「なんでもいいんだ。教えて、おねえさん」
黒衣の付添人が戻ってくる前に、と焦る様子が手に取るようにわかる。
つっても教えたいと思ったって私の知ってる内容は少ないしな。原作でググってくれって感じなんだがまあそれは無理な話で。
「うー、ん。なにかの研究をしてる、とは聞いたことがあるわ。うちのボス……上司がね、その研究の成果を知りたいとかなんとかで、便利そうだったらデータを分けてもらって、不便そうだったら無視して、攻撃されそうだったら倒しちゃおうって言ってた……かな?」
「たお、す」
「研究の内容は私にはわからないから、判断するのは上司だけど」
「……」
少年がうつむいて、めまぐるしく頭を回転させるのがわかった。我々が敵か味方かは、会談をしにゆく『私』に懸かっている。私が『悪』と判断し、上司に理路整然と結果を報告すれば、上司は組織を邪魔に思うだろう。反対に、私が『便利そう!』とド間抜けな感想を抱けば、どうやらそれなりの権力を持つらしい上司は組織に加担するだろう。
もしも彼女が、すなわち私が向かう先が黒の組織なのであれば、これは重大な岐路となる。
そして少年の中で、取引先が黒の組織であるという予想はかなりの勢いで固まり始める。
黒ずくめの不審な男。
隙のない身のこなし。
人を殺しても揺らがなそうな冷徹な面立ち。
実際に、何人もを手にかけたような気配を醸し出す鋭利な眼差し。
ちなみに、これはすべてリゾットへの評価である。まあ確かに闇の世界の掃除屋さんだからね。
「……」
コナンくんが、少しだけ面を上げた。
「リゾット……さんとは今日が初対面なんだよね?」
「たぶんね」
「車に乗っていて、誰かからリゾットさんに電話がかかってきたりしなかった?」
「んんん?」
記憶をたどる。
電話はしていなかったけど、ああ、そういえばBluetoothのイヤホンマイクで私をピックアップした報告をしていた気がする。そのときも"まじか!"と笑いそうになったが(車内だったのでがんばってこらえたよ)、漏れ聞こえたあれが、少年が欲しがる答えだろう。
目をぱちぱちさせて、へらっと笑ってみせる。
「たしか、『アルディラ』……そう呼ばれてたよ」
「アル、ディラ」
「どういう意味かしらね?」
「……お酒の、名前だよ」
「お酒?」
「……カクテルのね」
この子お酒の名前とカクテルの名前全部網羅してんのかな。すごいな。私もこのあとにヤフーでググったんだけど『トロイの木馬』なんてカクテルもあるんだね。こんなんつけられたらガタブル震えて夜眠れねえわ。
「どんなカクテルなの?」
「……ブルーキュラソーの青色が、すごく綺麗だって言われてる」
だがなぜ『青』なんだ?とコナンくんの目に疑問が浮かぶ。確かに、イメージ的には赤だよね。

事件はつつがなく解決し、コナンくんは私の連絡先を欲しがった。特にこだわりはなかったし、原作キャラとの貴重な交流のきっかけになるかなと期待して渡す。どうやら"ヤバい組織とは知らず上司に言われるがまま訪日した外国の事務員"としてきちんと認識していただけたようだから余計な警戒も招かないだろう。リゾットが隣にいなければな。ウケる。すっごいごめんなリゾット。完全に敵認定だよ。
車に乗り込み、リゾットは本部に軽く連絡を入れた。
ゆるやかに発進したぺっかぺかな黒の車は静かに道を走る。ねえねえリゾットちゃん、なんで『アルディラ』なの?イタリア語で訊く。あっちもイタリア語で答えた。生まれを訊かれてシチリアだと答えたらそうなった。へえ。
……いや、なんでだよ……?海?海か?海の話か?
私としては同じカクテルなら『シンデレラ』にしてもらいたかったな。かぼちゃの馬車を待たないシンデレラになりそうだけど。





2017 0413