合流


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意識が浮上する。ん、と唸って、緩慢に目を開けた。
灰色の天井。うちっぱなしの冷たいコンクリート。パイプで組み立てられた粗末なベッド。マットレスと枕だけが場違いに贅沢だ。シモンズか?
他には冷蔵庫、テーブル、テレビがある部屋にいる。
りりりりん、と電話が鳴った。ビビらせんなよどこで鳴ってんだと辺りを見回すと、テレビの隣に黒電話があった。コナンの世界って黒電話だったか?ちがくない?スマホとか使ってたよね?なんでここだけレトロなんだよ。まさかトリップする世界が変わってしまったとか、原作の時間軸から大きく外れてしまっているだとか、予測不能な事態に陥ったわけじゃあないよな。
心なしか気持ちが焦る。とにかく電話を取らないと情報を手に入れられそうにない。ベッドから滑り降りてヒールを履く。
「もしもし?」
「ポルポ。わたしのポルポ」
「(うわっ……)」
ディアボロの声だった。いるのかよ。なんでだよ。ここコナンの世界じゃないの!?なんでパッショーネが存在してんねん。あ、いや、イタリアのギャング事情と日本の探偵事情には何のつながりもないだろうし、二つの事情がごたまぜになって共存していてもおかしくはないんだけど。『ポルポ』がいる以上、パッショーネの存在は必然であるわけだから。こっそり内面に呼びかけるも、ブラック・サバスは現れなかった。っつーことは、"ボスを倒したあとの私"が"ボスの存在する時間"にねじ込まれてしまったわけか。ええー私ちょう不利じゃん。あぶねえ。リゾットにお願いしてよかった。サバスたんがいなかったら私なんてね、腹パン一発で泣いちゃうからね。刺し逃げとかできないからね。
なんか滔々と喋っていたボスこんにゃろうの話を真面目に聞き始めると同時に私の混乱は絶頂に達した。ウーンエクスタシー!
「お前にはジャッポーネに飛んでもらいたい」
「……ええー……?」
いや、いいんだけど。むしろジャッポーネじゃないと話進まないけど。目的はジャッポーネだけど。なんなんだろう、ひしひしと押し寄せるこの嫌な予感は。
「諜報によると、ジャッポーネでは新薬の開発に力を注ぐ組織が暗躍しているらしい。こちらへの影響はないが、"ある"ようになるかもしれない。それがどのような薬であるか。そして組織の構造に隙がないか。お前ならば簡単にこなせる仕事だろう」
「……戦闘能力のない私に頼む理由がわかりませんね、ボス」
「わたしの愛するポルポ。お前の価値はスタンド能力のみにあるのではない」
マジか。おっぱいかな。
「先に一人、お前の部下をネズミとして送り込んだ。ジャッポーネで落ち合い、内側と外側、両方から崩しにかかれ。開発される新薬が我々にとって有用なものならばデータを奪い、即座に戻れ。そうでなければ、……鎮圧するのだ」
パッショーネにとっては役立たない薬であっても他の組織には有用かもしれない。もしもその薬によって己の安寧が脅かされる事態が引き起れば、それはディアボロにとって非常に不本意な結果だろう。鳴かぬなら殺してしまえホトトギス。ちょっと違うか。是非もないよネ。
"ネズミ"の正体にもうすうす感づいている。ジャッポーネへの渡航に否やはなかった。やだやだ行きたくないよーおうちから出たくないよーとか駄々捏ねたらまたパッショーネSM劇場が繰り広げられるんでしょ?知ってっかんな私は。一生めちゃ許さんからな。悪のカリスマ磨いてこい。

だーれも迎えに来ないさびしいゲートをくぐり、日本の空気を深く吸い込む。つってもここはまだ空港の敷地内。内外の人々が密集していて、正しい意味での娑婆の空気とはいいがたい。
一応の立場として、私は"南イタリアで活動する治安組織(ここ大爆笑した)からの使者"である。日本に拠点を置くかの組織への挨拶と視察、のちに取引できるモノがあるかないかを交渉する役回りだ。言っていい?死ぬほどめんどくさい。心理戦とか難しすぎて無理。見た目は大人でも頭脳はパープリンなんだよ。ゆっくりしていきたくない!
指定された出口から外に出る。電車に揺られてはわわ東都環状線だぁーと観光を楽しみたい気持ちしかなかったが、車でお迎えがきてしまうのでまたの機会を楽しみにしておく。
私の真ん前に事故りもせず黒塗りの車が滑り込んできた。ゆっくりと停車した車の運転席から長身の男が降りる。あ、と声を出さなかったのは大人としての理性が働いたゆえだと思いたい。
リゾットだ。やっぱり"ネズミ"は彼だった。
一万年と二千年前からの経験に基づいたアイ・トゥ・アイの意思疎通。
どうやら"ネズミ"はパッショーネから送り込まれたことを秘密にしているようだ。
おそらく私がトリップを自覚するよりも早い段階に飛ばされたリゾットは、組織への潜入を命じられ、先だって日本にやってきた。そしてある程度の信用を得たところで(さすが私のリゾットちゃん!)、イタリアから訪日する私のお迎え兼通訳係として抜擢された。……こんなところだろう。わ、私だってこれくらいの推理はできるんだからな。甘く見ないでちょうだい。
初対面のふりをして、イタリア語で声をかける。日本語も余裕のよっちゃんで話せるけど、ここはリゾットの有用性を見せつけるべきだ。君が迎えの人?
「"Quale persona di sceglieresti?"」
「"Si. Hai bagagli?"」
「"Grazie"」
ご厚意に甘えて荷物を預ける。がらがらキャリーに入っているのは数日分の着替えと日本の観光雑誌くらいだからひょいと持てる。こういうのはな、現地で買ってしまえばいいんだよ。ZARAはどこ?ってな具合にさ。
後部座席に乗せてもらい、シートベルトでパイスラッシュを演出してみる。バックミラーでチラ見えしたはずなのに無反応だった。
念のため、確認しておく。もしかすると車内にナニか仕込まれているかもしれないから、イタリア語はそのままで、さらにわけのわからん言葉を使って。
「"Ti piace Metallica?"」
可愛いおにいちゃん、メタリカは好き?
「"Si. Piu o meno come le Black Sabbath"」
――――ああ。ブラック・サバスと同じように。
ワオ。間違いなくリゾット。数時間ぶりだね!君にしてみたらどれくらいぶりかは知らんけど!
遅れ馳せながらポルポさん、おっぱいと原作知識を引っ提げて参上致しました。お待たせ、マイハニー。





2017 0413